かも肉

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3/21/2026, 2:46:24 PM

作品77 二人ぼっち



 卒業をした。長いようで短い三年間。辛いことのほうが圧倒的に多かったけど、それも悪くなかったなと思っているのが、何だか不思議だ。数えるしか歌っていないこの校歌とも、今日でお別れか。
 コロナの影響がまだ残っているのか、卒業式に在校生は出席しなかった。それとも、ここらへんの学校では当たり前なのだろうか。疑問に思うものの、別に興味はない。
 式のあと、今までの学校同様、先生のつまらない話が始まった。これまで担当したクラスの中で一番最高のクラスでした、だなんて言ってるけど、この先のあなたの人生で何度、その最高は更新されるのでしょうね。非常に役に立たない記録だこと。にしても話長いな。寝てやろうか。
 「ねえ、ロンTの話長くない?」
 ふと、隣の席の友人から話しかけられた。
 ロンTというのは先生のあだ名で、いつも話が長く背もひょろ長い、ロングなティーチャーというわけで、かつての先輩たちの代からそう呼ばれていた。思えばロンT、毎日ロングTシャツ着てたな。
 そんなことを思い出しながら声のした方を見ると、友人が呆れたような笑みを浮かばせながら、私の方を見ていた。
「それな。もう寝ちゃおうかな」
「やばすぎ」
 こんなくだらないことなのに、友人がおかしくてたまらないとでも言うかのように、くつくつと笑う。その様子がなぜか可笑しくて、私もつい笑ってしまう。箸が転がっても笑うとはよく言ったものだ。
「てかさ、このあとプリ撮りいこ」
「いーね」
 そこで先生の話が終わった。私達も静かにする。
 うざく感じていたロンTの声も、今日で終わるのか。そう思うと寂しく感じるものだ。いや、それはないな。うざいものはうざい。

 最後のHRのあと、部活が同じだった友達やお世話になった先生達と写真を撮りに行った。友人とは部が違うため、学校の外で待ち合わせをすることにした。

 少し時間がかかりすぎたかなと思ったが、いざ外に出ると友人はまだ来ていなかった。待たせなかったことに安堵し、外にいるよとスタンプを送る。しばらく開きっぱにしていると既読がついた。すぐにきもかわいいスタンプが返ってきた。
 せっかくの卒業式の日に、スマホを触りっぱなのはちょっとあれだなと思い、画面を消し空を見る。少し、灰色になっていた。今朝見た予報で雪が降ると言っていたことを思い出す。暦じゃもう春なのに。さすが雪国。
 もし本州だったら、今頃満開の桜が見えて、上を見ても下を見ても視界に桜色が見えてとても綺麗なのだろうな。その景色を想像すると、すこし羨ましく思えた。灰色じゃない卒業式だなんて、アニメの世界みたい。
 灰色は、寂しい感じがしてあまり好きじゃない。なんというか、周りの色だけじゃなくその存在すらも消して、私を孤立させるように感じてしまう。あいつは、ひとりぼっちを加速しようとしてくる。
 つい変なことを考えてしまった。思考から目をそらそうと視界を下げる。ちょうど、胸に花を飾った生徒たちが小さな束になりながら前を通っていった。一人の人は誰もいなかった。私以外。そらしたことを後悔した。
 スマホを開き、彼らとの断絶を試みた。

 「ごめん待った!?」
 返事をしようとした瞬間、真正面から突然抱きつかれる。
「ちょい、苦しいって」
「いーじゃんいーじゃん」
 苦しいけど、少し落ち着いた。友人の手には部活の人から貰ったのか、ピンク色の花束が増えていた。友人に似合っている。
「何してたの?」
「空見てた」
「詩人かよ」
「雪降るんだって、ほら灰色」
「ほんとだ。積もるかな?」
「さすがに」
「あ待って、写真とろ」
 うぇーいといいながら、撮る。確認すると最高に可愛いかった。
「まじ最高」
「私の手にかかればお手の物よ」
 そう言いながら歩き始めた。
「てか、せっかくの卒業式なのに晴れなくて最悪」
「ウケる」
「だって葬式みたいな色じゃん!寂しいよ!」
「不謹慎だなー。いいじゃん雪!私好きだよ?」
「そーだけどさー今日くらいさー」
 最後の日くらい、青空の下で一緒に写真を撮りたかった。いや写真はいらない。あなたには、綺麗な色の下で笑っていてほしかった。
「もう会えないかもしれないじゃん」
 ついこぼれてしまう。
 珍しく、友人が黙った。何か言ってはいけなかったのかと怖くなり、顔を見る。
 驚いた顔をしていた。歩みが止まる。そのままゆっくりと口を開いた。
「……私、会いたくなったらすぐ会いに行くつもりでいたんだけど……?」
 次に私が驚く顔をした。それを見てさらに、友人が戸惑った顔をする。さらに沈黙。徐々に友人の顔が赤くなっていった。それが可笑しくて、可愛くて、つい笑ってしまった。
「なんで笑うの!」
照れ隠しのように大声を出される。
「ごめんごめん」
そっか。そうだよな。
「全く可愛いやつめ」
頭を撫でると腕を掴まれた。
「うるさい!てかお腹空いた!なんか食べてこ!奢ってね!」
 そう言ってこれまでの学校でしてきたように、当たり前のように手を繋がれた。この形がしっくりくるほど、何度も繋いだ手。
 最後の最後に、友人に。彼女に、わずかに正しくない感情を抱いてしまった。眩しくて顔が見れない。視界を下げた先にあった彼女のピンクの花束が、やけにはっきりして見えた。
 雪が、降り始めた。

12/10/2025, 1:38:53 PM

作品76 ぬくもりの記憶


 大きな切り株の上に置かれたそれに、斧を振り落とす。手から滑り落ちぬようしっかり持ちつつも、手に負担がかからない用に、なんとなく掴んだ力加減で、思いっきり。
 今朝からずっとこれを繰り返している。先日切った薪がようやく乾いたため、冬が本格的に来る前に割り切らなければならない。しかし流石に疲れてきた。太陽はすでに南にいるし、当然だ。気づけばノルマの山は無くなり、薪の山が出来ていた。
 そろそろ休むこととしよう。
 切り株に斧を立てかけながら腰掛け、今朝弟が持たせてくれたパンと水をカバンから取り出す。水を飲んでいると、向こうから弟の姿が見えた。ここに来ることは中々ないのに、珍しい。
「おーいどうしたー?」
 大声で呼びかけてみると、嬉しそうな顔をして走ってきた。
「お兄ちゃん!雪!雪降るって!」
 そう言われ空を見るが、晴れていてそんな雰囲気はない。いつもより若干肌寒い程度で、雪が降るとはとても思えなかった。
「本当か?」
 息を切らした弟に残りの水を渡す。ありがとうと言いこくこくと喉を鳴らして飲む姿を見ながら、パンをちぎった。
「本当だよ!おじちゃんが言ってた!」
「そうか、おじちゃんが言ってたか。」
嘘をついてるのだなとわかった。弟は嘘をつくとき、誰だか分からない人の名前を出す。そして嘘をつくときは大体、一人で留守番するのが寂しくなったときだ。
「じゃあ今日はもう帰ろうかな。薪を運ぶの手伝ってくれるか?」
「うん!」
 余ったパンをカバンに戻し、薪を数本渡す。何往復かしないと運びきれないと思っていたが、最近他所からきた商人から買った背負子と弟のおかげで、一回で運びきれそうだった。
 斧にカバーをし、薪を背負う。だいぶ重いが、家までのあの距離ならなんとか行けるだろう。
「じゃあお兄ちゃん、競争ね!」
 えまじかと言う前に弟が走り出した。かと思えば、枯れた草に足を取られてすぐに転ぶ。
「おい大丈夫か。」
 痛そうに起き上がった彼の手を見ると、薪を持って転んだせいか棘が刺さり、血が出ていた。抜き取ってから、地面に散らばった薪を拾い上げ、代わりにカバンを持たせた。
「手繋いで、歩こうか。」
「うん……。」
 泣くのを我慢しているような声で返される。どうしたものかと少し考え、
「……そういえば、この前貰った芋がまだ残っていたな。今日は特別に、お前が好きな焼き芋をご飯のあとに食おうか。」
そう言うと、
「いいの!?」
と大声で返された。
 もちろんだとも。そう笑って返すとさっき転んだのが嘘かと思うほどの笑顔を向けられた。
「じゃあ早く帰らないと!あのね、お兄ちゃんのためにスープ作ったんだ!ミルク貰ったからそれと、あとこの前狩ってくれたお肉と。あとおばさんのお手伝いしたらお礼に野菜もらったんだ!いっぱい色んなの入ってるの!楽しみにしててね!」
 そう言い終えると、手を強く握りしめられた。
「ああ、楽しみだ。お腹ペコペコだから嬉しいな。」
 そう言うと、より嬉しそうな顔をした。

 家についてから薪と斧を片付け、弟の傷の手当をし、火を付け、畑の様子を見に行くとあっという間に暗くなった。
「ただいまー。」
 すぐそこの街でパンを買って帰ると、ちょうど弟がスープを温めていた。
 「おかえり!もうすぐ出来るよ!」
 いい匂いが部屋中を満たす。芋を焼くついでに鍋を覗き込もうとすると、まだ見ないでと怒られた。
 テーブルに出された皿に、買ってきたばかりのパンを切って置いていると、スープが運ばれてきた。さっき言ってたとおり、本当に具沢山だ。
「ありがとう。美味しそうだな。」
「でしょー。冷えちゃう前に食べよ!」
 いただきますと感謝をし、スープを飲む。冷えた体がじんわりと温まり、器を持つ手の冷えもどんどんとれていった。
「美味しいよ。」
 目の前に座っている弟にそう言ったが、食べるのに夢中でそうだねーと、軽く返されてしまった。
 本当に、上手になったなと思う。まだこんな小さいのに作ってくれる料理はどれも美味い。料理をし始めたときは火が怖いせいでか冷えたご飯が多かったのに、今では自分で火をつけれるようにもなった。忙しいときは勝手につけてもらっている。
 それだけじゃなくて味もどんどん良くなっている。季節柄、質素なものしか作れないはずなのに今日みたいに工夫して、少しでも美味しくなるようにしてくれている。
「……本当に、ありがとうな。」
 聞かれていないことは承知の上で、そう呟いた。
 スープを飲む。全部があたたかかった。

「お兄ちゃん!食べ終わった!芋!」
「はいはい。丁度焼けたっぽいぞ。ほら皿。」
 弟の皿に芋を乗せてから、自分はスープをおかわりした。
「いただきます!」
 熱い熱いと言いながら皮を剥き、ほいと口に芋を投げ入れ美味しい美味しいと今日一番の笑顔で弟が笑う。良かったなと言いながら、彼が俺のために作ってくれたスープを飲む。
 寒いね。明日は買い物をしようか。そろそろ新しい上着を買ってやらないとな。やった。お兄ちゃんの手袋も買おうね。そうだな。あれ雪が降ってるよ。本当だ。おじちゃんの言ったとおりだな。え?あ、そうだね。薪間に合って良かった。ねえそうだ、寝る前に本を読んでよ⸺。
 どこまでも続く会話の中で、火がパチパチ言っていた。
 そんな懐かしい夢を見た。

11/10/2025, 12:59:12 PM



寂しくても我慢しなさいと、何度も言われて育てられた結果がこれです。
家族はたくさんいたのに、年上なんだからとか、兄姉になったんだからだとか、小学生になったんだからとか、高学年なんだからとか、中学生なんだからとか、高校生なんだからとか、大学生なんだからとか、成人なんだからとか、
と言われて、寂しくても我慢してきましたし、きっとこれからもしてしまいます。
とっても寂しいです。
おそらくこの寂しさは幼少期のうちにあなたが埋めてくれるはずだったのに、まだ空いたままです。
どんなに寂しくても、そしてそれに誰かが気づいてくれても、頼り方がわからず誤魔化してしまい、この穴から抜け出せません。

良くないぞ!この教育方針!まじで!
他の人に、うちの子わがまま言わないんですぅ
とか変な自慢する前に!おやめくださいまし!
病むぞ!

10/14/2025, 1:33:00 PM

お前!!!これ梨!!!この前梨のケーキの話書いたのに!!!!結構直近で!まじで何なん!!!!いや美味いけど!だけど最近やってこれはちょっともう!くそったれ!!!!梨美味しいですよねアレルギーならない程度に食べまくりたいです!!!!!

10/1/2025, 11:03:03 AM

作品75 秋の訪れ



 学校から帰ると、部屋が少し荒らされていた。空き巣ではない。どうやら自分がいない間に母が内緒で入ったらしい。連絡入れてくれたらもう少し掃除したのに。
 机の上には大量のお菓子と、少しのお金と、1枚だけ置き手紙が置いてあった。

 『最後の大会、準優勝おめでとう。ひと月遅くなったけど、お祝いとして冷蔵庫にケーキを入れておきました。夕食食べてからたべてね。下宿の人によろしく。』

 それは母からの、祝いのメッセージだった。
 大会。
 その単語だけで、あの時。大会の結果発表のときを思い出す。自分たちの学校名が呼ばれた瞬間、誰かが叫んだのをきっかけにみんな泣いて、おめでとうと言い合って、何度も何度も、夢じゃないことを確かめるようにつよく抱きしめ合った。閉会式が終わったあと、みんなは泣きながら家族に連絡を入れていた。
 それがひどく、羨ましかった。
 もし自分が今両親に連絡すると時間帯的に仕事だから迷惑になるし、連絡したところで優勝じゃないのにって言われて終わる。それが怖くて、この幸福感を壊したくなくて、言うのをやめた。

 けど、認められたんだ。褒められたんだ。それが嬉しくて嬉しくて、何度も母からの手紙を読んだ。

 夕食後、紅茶のためのお湯を沸かしながら、ケーキの箱を机の上に置いた。クリスマスプレゼントを開けるみたいに、丁寧に開ける。何かな。秋だしスイートポテトかな。最近りんごをよく見るからアップルパイだったりするのかな。
 開いた箱を覗くと、中にはひとつだけ、果物のような形をしたケーキが入っていた。何のだろうって思ってみた瞬間、自分の中で何かが冷え始めた。
 梨のケーキが入っていた。自分の姉は大好きで、自分は大っ嫌いな梨。
 少しずつ温まった幸福があっという間に冷えきったのと同時に、お湯の沸く音がした。ポットを開けて、コップに注ぐ。中に紅茶のパックを入れて、少し待ってから取り出す。大好きな紅茶の温かい匂いが、部屋だけを満たした。
 フォークを取り出し、ケーキに刺す。どうしてかなかなか切れない。そのせいで、ひどくぐちゃぐちゃになってしまった。一口大とか行儀悪いとか全部無視して口に運び、味わう前に紅茶で流し込んだ。機械的にそれを何度も繰り返す。何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
 やっと食べ終わったときには、甘ったるくて吐きそうになった。吐く代わりに、ためてた思いが溢れてきた。
 本当は先月じゃなかった。先月大会あったのは姉で、姉の方はちゃんと優勝して。だけど自分のは先々月にあって、準グランプリで、親が大好きな一番じゃなくて。
 本当は、今日お母さん来てくれてたってのを知って少し期待した。だって。だって、今日私の誕生日だったんだもん。ケーキって書かれたのを見て、さらに期待した。小さい頃よく作ってくれた私の大好きなスイートポテトかなって少し期待した。なのにこれは売ってるケーキで。私じゃなくて姉のためのケーキで。こんなんならもうせめて。
 せめてりんごのケーキがよかったな。


⸺⸺⸺
※かも肉本人は梨のケーキめっちゃ好きです。

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