かも肉

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作品72 熱い鼓動


 はいどうぞと差し出され、おそるおそる触る。思っていたよりも重くて、思っていたとおり柔らかい。手の中で大人しく固まっていたそれは、次第によちよち歩き始めた。右、左、右、左。足にあわせて長い尻尾も少し揺れる。今だけ、私の小さな手のひらが、私より小さな生き物にとっての世界になっている。
 「可愛いでしょ。」
 飼い主のである友人が、この光景を愛おしむかのように言った。
 「うん。すごく。」
 「この子何か分かってる?」
 「ハムスター?」
 「違うよ……。」
 そう言って友人は、ゲージの中から更に一匹、ハムスターではないらしい小さな生き物を手のひらに載せた。3匹飼っているらしい。
 「ネズミ?」
 「んーんー。」
 「じゃあ何さ。」
 「チンチラ。」
 「何それ初めて聞いた。」
 「まじ!?」
 いきなりの大声に、私もチンチラもビクッとする。友人が、ごめんごめんと謝る。目線的に、多分だが私にではなくチンチラに。
 「……チンチラって可愛いね。」
 「でしょ。」
 皮肉は効かなかった。
 少し優しく、手のひらを握る。中で小さな生き物がかすかに動いた。かすかに鼓動が伝わる。嗚呼こんなに小さくても、生きてるんだな。
 手がゆっくり、あたたかくなった。

7/30/2025, 12:22:32 PM