かも肉

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作品70 冒険


 夏休みの度に、自転車で海へ行く。
 行き方は適当。荷物も適当。へんてこな歌を歌ったり、間違って人ん家の道路に入って怒られたり、よく分かんないところで写真を撮り合ったり。暑い!なんて笑い合いながら、コンビニで買ったアイスを分け合ったり。
 靴を脱ぐことすら忘れて海に飛び込む。服の重さすらも面白くて、笑った拍子で海水が口の中に入る。泳げないから、波が足をくすぐるたびに軽く怯える。着替えを忘れて絶望する。それを誰かが笑う。暗くなったら持ってきた花火で遊ぶ。
 帰りは誰もそう言ってないのに歩き。自転車が荷物になるけど、この時間をみんな伸ばしたがる。
 ゆっくり歩くから帰るのは門限過ぎ。怒られたくねーとか帰りたくねーとか言って、だけど誰も僕らを置いていかない。そして来年また来ることを約束する。次は着替え持ってこようと誰かが僕をいじる。また笑い声。
 満月まであと少しの薄い月。たまに流れるほうき星。しょうもないことで笑ってる誰かの声。自転車から伝わる道の凹凸。僕らが通ったからか少し立派になった獣道。数匹飛んでくる蛍。蛙や虫の鳴き声。整備された道。電灯についた蛾。微かに聞こえる風鈴の音。どっかの家からはしゃぎ声。段々、家に近づいてきた。
 今年の冒険が終わる。いつか捨てる貝殻を握りしめた。

7/10/2025, 3:17:42 PM