作品31 何でもないフリ
風の強い秋の日。祖母のお葬式にでた。
そんなに会ったことがなかったからあまり悲しくなかった。泣けなかった。
そしたら親戚のおばさんに、無理に何でもないフリしなくていいと言われた。
だから悲しそうなふりをした。泣くことはやっぱりできなかった。棺にお花を入れるときだけ、ちょっとだけ怖かった。
葬式のあと、叔父が一人一人に手紙を渡していった。名前が書かれているのを読むと祖母の字だった。叔父曰く、祖母がみんなに向けて書いたらしかった。
家に帰ってから、自分の部屋に篭もる。
そっと便箋をあけ、丁寧に四つ折りされた手紙を取り出す。ふわっと金木犀の香りがした。祖母の、大好きな匂い。
手紙を開くと、イチョウの絵があった。祖母と祖父の、大事な想い出らしい。昔、一緒に寝たときに教えてもらった。祖父は、生まれるずっと昔に死んでるから面識はない。
縦書きで書かれたそれを読みはじめる。
まず最初に、
『無理に悲しいフリしなくていいよ』
そう書かれていた。少ししか会ってない孫のことをよく知っているもんだ。
その先には、生まれた時のこと、小学校に入学した時のこと、ある年の正月、昔はよく遊びに行った夏休み、最後にあった冬休みの思い出が、たくさん書かれていた。
読み終えてから、大事にされていたんだなと気づく。
それでもやっぱり泣けない。悲しくなったけど、泣けない。もっと。もっと泣けるようになるまで、たくさん会えばよかったな。
そうしてやっと涙がこぼれた。
それは後悔の涙だった。
ここは、天国?川の向こうにあの人が見える。
待っていてくれたんだ。約束を、守っていてくれたんだ。
もうちょっと待ってて。すぐそっちに渡るから。
ほら。両手いっぱいにイチョウを持ってきたよ。わたしも約束、忘れてなかったからね。
⸺⸺⸺
作品4 秋風 と
作品8 たくさんの想い出 の
二人が夫婦だったバージョン
最後の謎の行は、亡くなった祖母(またはわたし)のシーンです
12/11/2024, 2:08:30 PM