かも肉

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12/12/2024, 2:36:15 PM

作品32 心と心


 身震いがした。鳥肌が立った。感動とも嫌悪ともとれる、そんな興奮。心を鷲掴みされただけでなく、揺さぶられたような感覚。それらがどっと、押し寄せてくる。
 彼が書いた作品は、そんな物だった。
 設定はすごくありきたりな内容。
 主人公がただただ不幸な話で、最後は何も報われず、ひとり寂しく死ぬというバットエンド。
 ありきたりすぎて、オチが弱い。まあ、素人にしてはいいほうだと思う
 ただ一つずば抜けている点は、文章力だ。 
 嫌に粘りっこいのに、読む手は止まらない。胃もたれしそうなのに、これまでにないほど爽やかな読み心地。幼児でも読めそうだけど、とてつもなく重い文章。客観的なのに感情的。
 それはまるで、心と心が紙越しに繋がったような感覚。
 こんなの初めてだ。この人がいい。この人に、私の人生を書いてもらいたい。
 そう思ったから彼に取材をしてもらった。
 出身地、育った場所、好きな食べ物に嫌いな食べ物、恋愛経験、嫌いな人、学歴、習い事、部活、家庭環境、思い出、辛かったこと、楽しかったこと。それ以外にもたくさん聞かれた。
 全ては、私の人生の小説を書いてもらうため。これからの人生の台本のため。

 私は機械だ。他の機械と違うのは、元人間だったということ。そのため、僅かに感情がある。
 機械が人間に逆らうことがないように、我々は人生の台本を人間に作ってもらう義務がある。普通なら主人が作ってくれるのだが、私は特別に、自分の好みで選べることになった。
 そうして私だけの台本が渡される。読んでみる。つまらない内容だけど、楽しそうに見えてきた。
 これからの人生が楽しみだ。

12/11/2024, 2:08:30 PM

作品31 何でもないフリ



 風の強い秋の日。祖母のお葬式にでた。
 そんなに会ったことがなかったからあまり悲しくなかった。泣けなかった。
 そしたら親戚のおばさんに、無理に何でもないフリしなくていいと言われた。
 だから悲しそうなふりをした。泣くことはやっぱりできなかった。棺にお花を入れるときだけ、ちょっとだけ怖かった。
 葬式のあと、叔父が一人一人に手紙を渡していった。名前が書かれているのを読むと祖母の字だった。叔父曰く、祖母がみんなに向けて書いたらしかった。
 家に帰ってから、自分の部屋に篭もる。
 そっと便箋をあけ、丁寧に四つ折りされた手紙を取り出す。ふわっと金木犀の香りがした。祖母の、大好きな匂い。
 手紙を開くと、イチョウの絵があった。祖母と祖父の、大事な想い出らしい。昔、一緒に寝たときに教えてもらった。祖父は、生まれるずっと昔に死んでるから面識はない。
 縦書きで書かれたそれを読みはじめる。
 まず最初に、
『無理に悲しいフリしなくていいよ』
 そう書かれていた。少ししか会ってない孫のことをよく知っているもんだ。
 その先には、生まれた時のこと、小学校に入学した時のこと、ある年の正月、昔はよく遊びに行った夏休み、最後にあった冬休みの思い出が、たくさん書かれていた。
 読み終えてから、大事にされていたんだなと気づく。
 それでもやっぱり泣けない。悲しくなったけど、泣けない。もっと。もっと泣けるようになるまで、たくさん会えばよかったな。
 そうしてやっと涙がこぼれた。
 それは後悔の涙だった。

 ここは、天国?川の向こうにあの人が見える。
 待っていてくれたんだ。約束を、守っていてくれたんだ。
 もうちょっと待ってて。すぐそっちに渡るから。
 ほら。両手いっぱいにイチョウを持ってきたよ。わたしも約束、忘れてなかったからね。



⸺⸺⸺
作品4 秋風 と
作品8 たくさんの想い出 の
二人が夫婦だったバージョン
最後の謎の行は、亡くなった祖母(またはわたし)のシーンです

12/10/2024, 1:50:22 PM

作品30 仲間


 「ゲームセット」
「「ありがとうございました!ありがとうございました!ありがとうございました!」」
 一つ目は相手に、二つ目は審判に、三つ目は観客方に。何度繰り返したかわからない連続感謝。
 こんなに連続で言うことは多分もうないんだろうな。だってさっきのが最後の試合だったから。
 高校生になったら勉強に専念するという家の決まり。けど、それまでならなんでも自由にしていていい。
 特にやりたいことのない私は、なんとなく兄弟みんながやっていた卓球を選んだ。
 そしてハマった。
 全然強くないけど、ドライブが上手く行ったときとか回転をかけたサーブが効いたとき、スマッシュを思いっきり決めたとき。全部がすごい楽しかった。
 楽しかったせいで思う。やめたくなかったなと。

 敗者は審判をやる。他のスポーツもそうなのかは、よく知らない。椅子に腰掛け、得点板をゼロにあわせる。
 ダブルスの審判になってしまった。
 ダブルスは正直苦手だ。自分の思い通りに動けないし、相手のことまで考えられないから。だから、できる人はすごいと思う。
 練習を少しだけさせ、先攻後攻を決めさせる。先攻のチームにボールを渡し、試合を開始させる。
 「第1セットラブオールプレイ。」
「「お願いします!お願いします!お願いします!」」

 「デュースです。」
 第5セット。このセットを取った方が勝ちだ。どちらも強い。それでいてどちらも同じ強さ。
 正直見ていてすごい面白い。
 左利きと右利きのチームに、二人とも両利きのチーム。どちらかといえば、前者が勝ちそうだ。けど、わからない。それが面白い。
 左利きがサーブを出す。横回転のように見える。そしてそれに引っかかる。
 終わっちゃったか。
「ゲームセット。」
「「ありがとうございました!ありがとうございました!ありがとうございました!」」
 最後にいいものを見させてもらった。
 結果を書いた紙を、負けたチームに持っていく。これで私の仕事は終わりだ。
 未来ある若者よ。これからも私の分も頑張ってくれたまえ。
 
 ベンチに戻る途中にふと考える。もし私にダブルスをやる意志があったら、今ごろ違ってたのかな。
 勝っても負けても互いに慰めあえて。悔しさは倍増しそうだけど、楽しさも倍増しそう。
 いいな。
 もっとやりたかった。


⸺⸺⸺
ダブルス=仲間ってことです。
締め方がわからない。

12/9/2024, 2:51:02 PM

作品29 手を繋いで



 あと一歩のとこまで来た。なんとなく顔を上げてみる。やけに夜景が綺麗だ。さっきまで雨が降ってせいか、いつもよりキラキラして見える。いい景色だ。
 ここに来るまで、いろんなことがあった。学校を卒業してすぐ勤めた会社はブラックで、3年付き合った彼氏には浮気され、金を貸してあげた奴はどっかに消えて、そんなところに身内の不幸が重なって。全部思い出したらきりがない。まあ、それくらい大変だったということだ。
 そんな苦労も、あと一歩できれいさっぱり無くなる。さあ、足を踏み出せ。

 と、思ったら、後ろからドアを勢い良く開ける音が聞こえた。振り返ると、なぜかあの子がいた。
「なんでここに……」
そう言いかけて気づく。
 屋上に来る前に送ったあのメッセージのせいか。死ぬ前に感謝でも伝えようと思ったのは失敗だったな。面倒くさいことになった。
「何してんの。危ないよ早く戻って来て!」
 今にも吐きそうな顔で彼女が叫ぶ。その目元には、真っ黒なクマがある。そういや、ずっと眠れてないって、この前言ってたな。体調不良か。この会社じゃ、そう珍しくない。
「ほらはやく!」
また叫ぶ。なんて耳障りな声なのだろう。
 深くため息をついて答えた。
「……いいんだよこれで」
 少しの間、沈黙が流れた。どこからか救急車のサイレンが聞こえる。あの色、好きなんだよな。もしかしたら乗れるかも。
 そんなことを考えていると、彼女がようやく喋りだした。
「なんで……?」
 ……は?“なんで”だって?それは何についてだよ。私が死のうとしてること?その理由?なんで会社の屋上なのか?どれについてだよ。
 どうせこいつのことだ。なんで死ぬのーとかだろ。頭の中どれだけ幸せなんだよ。
 いや違うか。私みたいな目にあったことなんてないんだな。または鈍いのか。どれにしろ苛つく。
 まっすぐ視線を向ける。そして目で語る。死ねる間際まで私を苛つかせるんだなお前は。
 ま、いいや。あとちょっとだけ動けば落ちれるんだし。じゃね。ばいばーい。

「しんじゃ、やだ……」

 ささやき声と言えるくらい小さな声が、私を無理やり引き止めた。
 その言葉。お前もその言葉を言うのか。
 ゆっくり振り返って見ると、彼女はしまったという顔をしていた。
 さっき感じていた怒りとは比べ物にならないほどの、よくわからない禍々しい気持ちが、腹の底から湧いてくる。
 殺意だ。
 それを持っていることを気づかれないように慎重に言う。
「取れない責任の言葉を吐くなよ。それがどれだけ苦しめるか知らないくせに。紛い物の救いの言葉をほざいてんじゃねーよ!これ以上お前の気色悪い願いを、あたしに言うな!」
 無理だ耐えられない。でも、どうせ死ぬんだ。言ってやれ。彼女がどんなに苦しそうな顔しても、言ってやれ。
「ずっと苦しかった!どんだけ頑張ってもすぐお前と比べられて!そのたびに吐いた希死念慮を否定されて!お前の綺麗事は、あたしの首を絞めてってたんだよ!あたしは殺された!お前のその言葉に殺された!お前が、あたしを殺したんだ!」
 言ってやったぞ。わたしを追い詰めたのはお前だと。お前が全部悪いんだと。
 自分の感情をここまで出したのは、いつぶりだろう。呼吸が荒くなる。頭に血が上りすぎて、まともな判断ができなくなる。

「わたしがわるいの……?」
ああ、そうだよ。
「一人ぼっちにしてほしくなかっただけなの。」
先にしたのはそっちじゃん。
 顔を見ると、彼女は涙を流していた。

 よく耳を凝らさないと聞こえないほど小さな声で、彼女は言った。
「一人にしてほしくなかったの。」

 ああ、そうか。私はずっと、この言葉が欲しかったのか。手に入れたけど、もう、遅い。
 せめてその言葉をくれたあなたを、一人にはしない。

 彼女が泣き止むのを待ってから、
「分かったよ。」
そう言って、手を伸ばした。
「ほら。手、握って?」
 喜んだ顔して手を強く繋いでくれた。そして小さい力で、腕が引っ張られる。そう急かすなよ。
 腕をぐんっと、引っ張ってあげた。その反動で抱きしめ、耳元で囁く。
「一緒に死ねば、問題ないだろ?一人にならないじゃん。」
 手離すなよと言う。かすかに戸惑いの声が聞こえた気がするが、気のせいだろう。
 星空が足元に広がる。
 一生一人じゃなくなることになって、きっと喜んでるだろうな。彼女の方を見て微笑んだ。でも笑い返してくれなかった。
 あれ?もしかして、間違えた?
 それに気づいても、もう取り返しはつかない。どうしよう。間違えた。え、なんで。何が違ったんだ。どこから間違えた。今知っても手遅れか。もうどうにもできない。ならせめて、笑おう。
 無理やり口角を上げる。ねえ、私今笑えてる?
 それを聞く前に、体が熱くなった。



⸺⸺⸺
作品26 逆さま より相手の目線。
うまく書けないです。

12/8/2024, 1:21:51 PM

作品28 ありがとう、ごめんね



 感謝の言葉がほしいわけじゃない。謝罪の言葉がほしいわけじゃない。
 僕から悲しみを奪ってほしかっただけ。ただ、それだけなんだ。
 欲を言えば、僕の目の前で死なないでほしかった。ありがとうなんてそんな、気色悪い言葉を残さないでほしかった。ごめんねなんて呪いの言葉を吐かないでほしかった。ひとりぼっちにしないでほしかった。
 一緒にいた時間に感謝を述べるくらいなら。
 一緒にいる時間を思い出にしてしまうのを謝るくらいなら。
 ねえ、お願いだから置いてかないでよ。


⸺⸺⸺
多分亡くなる系の話書く人いると思うので、置いてかれた人目線でいきます。
いい感じに合う人がいたらいいのだけどね。

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