やりたいこと
「ねぇ、何で生まれてきたんだと思う?」
「急に壮大。どうした?」
悩み疲れて、浮かんだ疑問をそのままぶつければ、そんな言葉が返ってきた。少しだけ驚いたみたいに見開いた彼女の目と目が合って、彼女は優しく微笑む。
「今度は何悩んでんの?」
「……やりたいことがあって、生まれてきたはずなのに、そのやりたいことがわからないから。……どうしていいのか、わからない」
悩みすぎて寝不足になったせいで、くまがいつもより酷いことに気づいた彼女はそう問いかけてきた。素直に答えれば、彼女はおいで、と手招きした。
「別に、今やりたいことをやればいいんじゃない?」
「でも、それが前の私が望んでいないことだったら? せっかくやりたいことがあったのに、私のせいでそれが叶わなかったら、どうしよう……」
「たとえ、前のあなたが望んでいなくてもさ、今のあなたが望んでいることならいいんじゃない? だって過去を生きている訳じゃないでしょ? 生きている今しか、生きていくことはできないから。それにさ、もしかしたら、今やりたいことがいつか前のあなたのやりたかったことに繋がるかもしれないでしょ」
「……そっか。じゃあ、今やりたいことをしてもいいの?」
「もちろん。今やりたいことをしなさい。今を生きるのよ、今を生き続けるのよ」
そう微笑む彼女の笑顔に安心して、ゆっくりとその腕の中に飛び込んだ。
朝日の温もり
ゆっくりと目を開けた。
空はまだ寝ているようで、西の空が深い濃い青をまとっていた。
東の空には薄い水色と淡い桜色が混ざっていて、そろそろ夜が明けることを教えていた。
ゆっくりとのぼる朝日は地上を照らし、木々たちは眠りから覚める。その柔らかな温かさを感じ取りながら、体を起こした。
静かに、優しく、そして美しく始まった今日に、おはよう、とそう声をかけた。
岐路
ずっと長いこと、歩き続けてきた。それでもまだ、ゴールには程遠くて。
何度目かの岐路に立ち、ため息をつく。
道標もなければ、案内もないその分かれ道は、どちらに進んだとしても、きっと後悔しかない。
本当はやりたくないのに、選びたくもない二択を選ばざるを得ないこの状況が嫌だった。
泣きそうになりながら、道を眺めるが、どちらも進みたくはなくて。
瞳に溜まる涙がこぼれ落ちたとき、ゆっくりと足を前に踏み出した。左右に分かれる道を見ながら、前へと進む。
道なき道は、用意されていた道や敷かれたレールの上とは違って、とても自由で、ただただ美しかった。
世界の終わりに君と
「ねぇ、見て!」
そうはしゃぐ声に、顔をあげれば、目を輝かせて笑う君がいた。指差す先には、青の星と呼ばれる惑星があった。
海と呼ばれる水たまりが地上を覆いつくし、かつて栄えていたはずの街並みは海の底へと沈んでしまっていた。
あれが世界の終わりだと誰かが言った。いつかこの場所にも終わりがきて、あの惑星のように誰もいなくなるのだと。
その言葉に、自分たちの世界もいつか終わりが来るのだと改めて実感した。こうして、世界が終わる様を見て、こうなるのだと理解してしまえば、なおさらその気持ちは強くなる。それでも、もし、終わりが来るのなら、最後も君と一緒にいたいとそう思った。
ああ、この世界の終わりに、君と一緒に来れてよかった。
君の無邪気な笑顔を見ながら、そんなことを思った。
最悪
「嫌いになってよ」
それは、すべてを受け入れた後に言われた言葉だった。
思わず無言でそちらを見つめれば、彼は少し悲しそうにして微笑んだ。
思い返せば、奪われるようなものばかりだった。告白の言葉も、初めて繋いだ手も、流れるようなキスも、すべて私から強引に奪っていくようなものばかりで。
あれもこれも全部、このためにやっていたのかと思うと、乾いた笑いしか出なかった。
ああ、彼の言うとおり嫌いになれたらよかったのに。それでもまだ、嫌いになれない自分がいて、呆れるようにため息をついた。
最悪だ、そう呟いた私の声に、彼は傷ついたようにうつむいた。