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4/16/2023, 1:30:22 PM

ここではない、どこかで


たまにふと、懐かしくなるときがあるんだ。たとえば、木々が生い茂る深い森の中や異国の地に建つ教会に、アンティークショップに並ぶような小物たち。
懐かしく思えるほど、そこにいたという記憶はないのに、何故か惹かれるものがあった。
その場所を知っているような気がするのに、自分の記憶の中には見つからなくて。いつかの人生でそこにいたのか、とただ漠然とそう思えてしまった。
前世、なんていうものが本当にあるのかわからないけれど。ここではない、どこかで確かに生きていたのならば、きっと心が覚えているのだろう。
いつまでも同じ体にはいられないから。古いそれから、新しいこれに変わっても心だけは同じだから。
きっと思い出すのも大変なくらい随分と古い記憶なのかもしれないけれど、懐かしく感じるほど愛しく思っていたのだろう。
だから、この懐かしさを噛み締めて、この場所を覚えていられるように心に刻むんだ。次の人生で、ここではない、どこかで、この人生を懐かしく思えるように。

4/15/2023, 3:12:07 PM

届かぬ想い


どれだけ大切にしたくても、どれだけ愛していても、君にはそんな風には映らなくて。
この想いを想いのまま伝えることはできないから。だから、言葉という道具を使って、君に伝えようと思うのに、解釈や思い込みがノイズとなって、本当の意味で伝えることはできなかった。
今日もこの想いは届かないけれど、いつかちゃんとこの想いが何のノイズもなしに届きますように。

4/14/2023, 2:28:25 PM

神様へ


神様へ
もうそろそろ会いに行ける日が近いみたいです。
神様が、いってらっしゃいと見送ってくれた日からもう随分と長い時間が過ぎました。
嬉しいことがたくさんありました。楽しいことがたくさんありました。同じくらい、悲しいことも、辛いこともたくさんありました。
忘れてしまったことも、たくさんありました。
どれもこれも振り返ってみたら、思い出として美化されて、決して悪くない、悪くない人生でした。
後悔や未練がないわけではありません。でも、それに執着しようとは思いません。
だって、こんな人生だったけれど、私はとても幸せでした。
決して褒められるような人生ではなかったけれど、ひどいこともたくさんしたし、許せないこともたくさんあったけれど、それでも生きてきてよかったと、そう思えるのです。
生まれてきてよかった、と。あなたがくれた命を、あなたがくれたこの素敵な贈り物を、こんな私にくれたことが嬉しくて。
上手く大切にはできなかったけれど、望んだ人生とは違ったけれど、思い返せばすべてが愛しく思えるのです。
ねぇ、神様。私にこの命をくれて、ありがとうございます。私に私という命を、人生をくれて。
もうそろそろです。あと少しだけ、この世界にいさせてください。ほんの少しでいいのです。せめて、最後くらい彼らの顔を見てさようならを言いたいのです。それだけが未練なのです。
だから、彼らが来るまであと数十秒だけ待っていてください。
そうしたら、私はあなたの元へ行くのですから。帰るのですから。
帰ったら、土産話をたくさん聞いてください。私は胸を張って言いましょう。
「私という人生は、とても素晴らしいものだった」と。

4/13/2023, 2:08:38 PM

快晴


下を向いて歩いてきた。地面はかわり映えがなく、道端咲く花ばかり見慣れていった。
特段気分が落ち込んでいるわけではないのに、下を向いているからか、なんとなく心が晴れなかった。
少しえぐれたような地面に溜まる水が空を反射して映す。雲一つ見えないそれが本当なのか確かめたくて、顔を上げた。
広がる空は青空で、雲一つないそれはまさしく快晴で。
それだけで、曇っていた心が少しだけ晴れた気がした。なぜだか嬉しくなるようなそんな気持ちがじわじわと広がって、自然と口角が上がる。
ああ、たまには上を見るのも悪くないのかもしれない。

4/12/2023, 1:57:00 PM

遠くの空へ


飛べると信じていた。こんなにも立派な翼があって、仲間たちが自由に空を飛ぶ様子を見ていて、飛べると本気で信じていた。
少しだけ助走をつけて、翼を大きく動かして、ふわっと足が浮いた感覚がした。そのまま翼を動かし続けると、どんどんと視界が上がっていく。
飛べてる、飛んでいる、とわかって滑空するように翼を広げる。見慣れた景色のはずなのに、上から見下ろす景色はこんなにも違って見えるのか、とそんなことを思った。
もっと遠くへ、と翼を動かすが、そこでようやく違和感に気づいた。見えない何かがそこにある、と。見えない壁のようなそれはたしかガラスとか言うやつで。そこでようやく捕らわれていることを知った。
これ以上遠くへはいけない。ただこの狭い空間の中でしか飛べず、生きていくことしかできない。
ああ、と瞳からこぼれ落ちた涙はくちばしを伝い、地面へと落ちていった。
今日も遠くの空へと思いを馳せる。

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