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ここではない、どこかで


たまにふと、懐かしくなるときがあるんだ。たとえば、木々が生い茂る深い森の中や異国の地に建つ教会に、アンティークショップに並ぶような小物たち。
懐かしく思えるほど、そこにいたという記憶はないのに、何故か惹かれるものがあった。
その場所を知っているような気がするのに、自分の記憶の中には見つからなくて。いつかの人生でそこにいたのか、とただ漠然とそう思えてしまった。
前世、なんていうものが本当にあるのかわからないけれど。ここではない、どこかで確かに生きていたのならば、きっと心が覚えているのだろう。
いつまでも同じ体にはいられないから。古いそれから、新しいこれに変わっても心だけは同じだから。
きっと思い出すのも大変なくらい随分と古い記憶なのかもしれないけれど、懐かしく感じるほど愛しく思っていたのだろう。
だから、この懐かしさを噛み締めて、この場所を覚えていられるように心に刻むんだ。次の人生で、ここではない、どこかで、この人生を懐かしく思えるように。

4/16/2023, 1:30:22 PM