子どもの頃、と言っても小学生高学年から中学1年生にかけて。
私の夢は、「絵本作家」になることだった。
自分でお話を作り、イラストを描く。
小学生の夏休みの自由研究は、5年生は絵本を、6年生では紙芝居を作った。
夏休み明けで紙芝居を提出したときは担任に褒められた。そして全校児童が体育座りで座る中、体育館のステージで紙芝居の読み聞かせをすることになった。自作の紙芝居の用紙は10枚くらいあったか、体感10分くらいは読んでいたように思う。体育館に集まった児童の全員に何の反応もないように思えて、その時間は私にとって苦痛だった。教師を見る余裕は私にはなかった。
私は音読が得意で、図書委員として給食の時間に新刊のハードカバーを紹介するといつも友だちや先生たちから褒められた。絵本作家の前は「声優」になるのが夢だったほどには、音読に自信を持っていた。それなのに。
物語はある年のクリスマスに、良い子にしてたら楽しみにしているサンタクロースが来てくれるよって話。小学生低学年に刺さるとも思わないけど、高学年には説教くさいかも。そもそも真夏にクリスマスじゃあテンション上がらないよね。
色塗りも色鉛筆だから、広い体育館の後方では真っ白に見えたかもしれない。私が持って、私が入れ替えて、で今のようにスクリーンに映したわけじゃないし。
自信を喪失しながら発表を終えた。発表後、誰かから何か言われたような気がするけれど、大人になった今、記憶にない。
そんな私が中学校に入学してすぐの頃、将来なりたい職業を調べて図にしましょう、という授業があった。
クラスの皆んなで図書館で資料を探し、職業の内容や就職するために行うことを画用紙にまとめる時間が割り与えられた。
さて、どうしよう。
「絵本作家」なんて、子どもっぽい夢かな。「声優」も現実的ではないかもしれない。その前はなんだっけ?確か色々あって、花屋さん、パン屋さん、バスガイド……
画用紙の真っ白を見ながら逡巡していたけど、クラスメイトは資料を持ってテーブルに戻ってくる人も現れ始めた。
「絵本作家」になるための資料なんてあるかなぁと半信半疑なままたくさんの本を左から右、上から下へとタイトルを見ながら探していく。もしもなかったら、他の夢を書けばいいやと思いながら。
色々な職業について説明している本を手に取って、パラパラ捲るとその中に「絵本作家」があった。
あるじゃん…!
心が高揚したのがわかった。ドキドキして、口元が笑んで緩むのを引き締める。自分が肯定されたような気がした。コレで良いんだよって言われている気がした。
残り時間に余裕があるわけではない。
私は真っ白な画用紙にシャーペンで下書きを始めた。
テーブルには先生が置いた12色の色鉛筆やマジックが並んでいる。
そうだ、イラストも描こう。絵本が良い。
いつの間にか楽しくなっている。担任がテーブルを回っているけれど、視線は全く気にならなかった。
授業終わりのチャイムまで、細かなところを詰めていく。
真っ白だった画用紙は、マジックで濃く色鮮やかになっていた。
後日、将来の夢が書かれた画用紙は教室の後ろの壁に掲示された。色鉛筆の淡い色の画用紙が並ぶ中、私のマジックの画用紙の主張は激しく目立っていた。
担任は、「よく調べてよく書けてるよ」と言ってくれた。それだけで私の夢も私自身も肯定されたようで、くすぐったくてとても嬉しかったのをよく覚えている。
子どもの頃の夢
「どこにも行かないで」
目の前の幼女が瞳にいっぱい涙を溜めて僕に懇願している。
僕は神社の境内の自分に与えられたスペースにしゃがんで幼女に道化を演じる。
「僕は日本中の子どもたちを笑わせるために、たくさんの場所を廻らなきゃいけないんだ」
「だめ。ずっとここにいて」
「それはできないんだよ」
泣いている女の子の願いを叶えてはあげられない。
僕は全国津々浦々を旅するクラウン。
各地のイベント、お祭りに出演させてもらって生計を立てている。
週末はイベントの予定でスケジュールは埋まっている。
「でもね」
僕は立ち上がって手を伸ばし幼女の体を肩車する。
身長2メートルの僕の眺めはとっても良いはずだ。
グルリとその場で回転する。
女の子は「わあ」と歓声を上げた。
肩車から胸元に抱え直し、女の子と目線を合わせる。
「僕は日本中の子どもを笑顔にしたら、この街へ帰ってくるよ」
「ホント?」
「うん、ホント」
「だから、楽しみに待っていてね」
「うん!まってる!」
お姫様抱っこに変えて、グルリとその場で回転する。
女の子はまた歓声を上げて喜んだ。
「じゃあ、またね」
「うん、まってるね」
ハイタッチをして、女の子は僕に手を振って両親に連れられていく。
帰る場所がある。
その約束が、僕をクラウンとして生かしてくれる。
「どこにも行かないで」
すき、きらい、すき、きらい、すき……
「みいちゃん、花うらないしよっ」
「うん!」
なかよしのゆうちゃんと川のどてをころがるように走りおりて、丸いきいろのツブツブのまわりに白くほそい花びらがたくさんついた花を1本づつ手にとる。
「せーの、すき、きらい、すき…」
あたしたちは声をあわせて、ふたり同じタイミングで花びらを1まいづつつまんで、草の上に花びらをおとしていく。
さいごの1まいが、ゆうちゃんもあたしも「すき」になれば「せいこう」のうらない。
あたしたちのすきな人は、みいちゃんは「あたし」で、あたしは「ゆうちゃん」。
どっちかのさいごの1まいが「きらい」になるのはゆるせなくて、5時の音楽がどこからかきこえるまで、あたしたちはむちゅうで花びらをむしっていた。
中学校に入学してすぐ、私は剣道部に一緒に入部しようとゆうちゃんを誘った。先輩たちの袴と防具姿がカッコ良くて、背の高いゆうちゃんもきっと似合う。ゆうちゃんも私と一緒の部活が良いと言ってくれて、2人で剣道部へ。練習は厳しかったけれど、背が高く運動神経がそれなりに良かった私たちは地区大会の新人戦で表彰されるくらいには活躍できた。
小学生低学年のときに川の土手を転げ落ちるような勢いで駆け降りていた私たちは、今、土手の上のコンクリートで舗装された狭い道を自転車で走り抜ける。
小学生のときに、昼放課に2人で学校の図書館で花の図鑑を広げてあの花占いをした花のことを一緒に調べたことがある。ハルジオンという名前が付いていた。花言葉は「追憶の愛」。ルビがふってあった。
「ついおくってなあに?」
「さあ?でも、愛だって」
「愛とか、なんか恥ずかしいね」
「ゆうちゃん、好きな人いる?」
「男子で、ってことだよね?いないよ。みいちゃんは?」
「あたしもいない。男子って、サッカーとか、ゲームのこと話しててよくわかんない」
「あたしも。みいちゃんがいちばん話が合う」
「ゆうちゃん、ずっと友だちでいてね」
「うん、もちろん!みいちゃんもだよ」
やくそくね、と小指を絡ませて腕を軽く振りながら指切りげんまんを一緒に歌った。
今はもう、「追憶」も「愛」も説明できる。
自転車を軽快に走らせる。
川のせせらぎ、水面の煌めき、草花の青と土の香り、ハルジオンの群生の鮮やかな白と黄色が風に揺れる。
風がスカートをパタパタと音を立てて揺らし、前髪を巻き上げる。
好き、嫌い、好き、嫌い、好き……
私はゆうちゃんに、男子剣道部主将、青柳先輩に片想いしていることをそっと伝えた。
青柳先輩がお面を外すときの指の長さ、外した後、手の甲で汗を拭う姿、部員と笑い合う姿。全部カッコよくて、眩しい。
ゆうちゃんは最初ビックリしたみたいだけど、うん、と笑顔になった。「青柳先輩、カッコイイもんね」と私の手を握った。ゆうちゃんの手が冷たくて、ビックリした。
今は夏。部活終わりで2人でいつまでも自転車置き場の屋根の下で喋っていて、湿度が高く蒸し蒸ししているのに。ゆうちゃんの顔をそっと覗く。それに気づいたゆうちゃんは口角を上げた。
「暑いね。帰ろっか」
「…うん」
ゆうちゃんに青柳先輩を好きなことを打ち明けて良かったのかな。
私は川沿いの自転車を走らせながら考える。
私は試合前、緊張しているときに指先が冷たくなる。私はゆうちゃんを緊張させてしまったの?
私は青柳先輩のことが好きだけど、ゆうちゃんのことは子どもの頃からずっと大好きなのに。あの、指切りげんまんした、「ずっと友だち」の約束はずっと続いてる。ゆうちゃんも、そうだよね…?
耳をすませば、ゆうちゃんが私の後ろを自転車でずっと追ってくれているのがわかる。私はそれに安心して自転車を走らす。
好き、嫌い、好き、嫌い、好き……
2人で「好き」を揃えた花占い。
私が今占うなら、「青柳先輩」と「ゆうちゃん」。ゆうちゃんは、誰を占うの…?
私とゆうちゃんは別々の高校へ進学した。
私は青柳先輩の後を追って進学校へ、ゆうちゃんは大学の附属の女子高へ進学した。
私は背の高い剣道部員として一部の女子に人気で、交際を申し込まれたりもした。
そうして私は初めて気がついた。
部室の更衣室で2人っきりで頬を染めて一生懸命に告白してくれた後輩を見て、こんな恋もあるんだってことを。
そんな出来事は1度きりではなくて、私への告白に眉を顰める人や心配してくれる人もいた。竹刀を振りながら、交際を断った後輩の視線が私を追いかけているのを感じる。
そうだよね。すぐに別の人を好きになれるほど、恋は簡単じゃないよね。私は青柳先輩を視線で追って、幸せな気持ちになる。誰かを好きになることは普通のことで、同性を好きになることも普通だと感じられる人と、異常だと感じる人がいる。それだけのこと。
……その日、青柳先輩は私を好きだと告白してくれた。後にも先にもこんなに嬉しくて幸せなことはないと思えて、私も「中学の頃からずっと好きでした」と告げる。青柳先輩はすごく嬉しいと、優しく抱きしめてくれた。
帰宅してからも、嬉しいとか、幸せだと喜び合うメッセージを送りあう。日付けが変わる頃、もう寝なくちゃね、とお休みスタンプを送りあって幸せな気持ちで目を閉じた。
別々の高校で過ごしてゆうちゃんが恋しくなった頃、ゆうちゃんが連絡をくれた。SNSでやりとりしたり、休日には繁華街へ遊びに行くこともあった。
ゆうちゃんは女子高生らしくオシャレになって、すごく可愛くカッコよくなった。女子高の新しい友だちがヘアアレンジやメイクを教えてくれるから、って笑った。メイクのせいか同性なのに大人っぽくて少しドキドキしてしまう。
青柳先輩とデートするときに、こんなふうにヘアアレンジやメイクができたら良いなあ。アイシャドウのラメのキラキラに目を奪われていると、「みいちゃん、もう、見過ぎだよー」とゆうちゃんが片手で顔を覆った。
照れてる。中学生のときの、私の知ってるみいちゃんだ。
「だって、ゆうちゃん綺麗だもん」
「えー?別に普通だよ」
「綺麗だって!今度メイク教えてね」
「良いよ!もちろん!」
私はゆうちゃんの腕に手を絡ませた。ゆうちゃんの身体が一瞬、強張る。
「あ、ごめん」
「ううん、大丈夫。でも、私、汗臭いかもだし」
「そんなことないよ。むしろ良い匂いだった」
「なにそれ」
ゆうちゃんはケラケラと笑った。
ゆうちゃんと私。
ちゃんと「友だち」のはずなのに、あの図書館で約束をしたときに思い描いていた「友だち」とはカタチが異なる気がして胸騒ぎがする。私たちは「友だち」のはずなのに。
帰り道、今日はゆうちゃんの後ろを走りたいと、私はゆうちゃんが漕ぐ自転車の背中を自転車で追っている。
中学時代、いつもゆうちゃんが私の背中を追いかけてくれていた。
私がゆうちゃんの背中を追いかければ、なにかこの胸騒ぎの理由がわかるのかもしれない。
ゆうちゃんは自転車を走らせる。
川のせせらぎ、水面の煌めき、草花の青と土の香り、ハルジオンの群生の鮮やかな白と黄色が風に揺れる。
ゆうちゃんは自転車を端に寄せて両足を地面に付けた。私は不思議に思いながらゆうちゃんの隣に並ぶ。
「ハルジオン、見よっか」
「…うん、良いよ」
ゆうちゃんの行動が子どもの頃をただ懐かしむだけじゃなくて、他にも理由があるような気がする。
私たちは川縁の土手に降りて、ハルジオンの群生に立つ。
お互いに茎を1本折り切って、白い小さな細い花びらを1枚づつ千切っていく。
好き、嫌い、好き、嫌い、好き……
ハルジオンは「花びらがいっぱいで、どっちになるかわからなくてたのしいね」ってふたり言い合った懐かしい声が聞こえた気がした。
好き、嫌い、好き、嫌い、好き……
花びらを半分残して結果がわからないハルジオンを、ゆうちゃんが青空へぽーんと放り投げた。
片側半分だけ花びらがついたハルジオンが放物線を描いて川のせせらぎに着水し、水の流れに乗って遠くへ運ばれていく。
ゆうちゃんのことをわかりたいのにわからなくてもどかしい。一緒に、好き、嫌い、好き、って声を合わせて摘んでいたのに。
「どうして投げちゃったの?」
「うん。私がみいちゃんのことを好きなら、やっぱりそれで良いなって確認できたから」
私はゆうちゃんの言っていることの半分も理解できていないかもしれない。
戸惑いながらゆうちゃんを見つめると、ゆうちゃんが夕陽を背中に受けてそっと微笑んだ。
大人びた儚げな笑みは、白く細い繊細なハルジオンの花びらのよう。
元気な黄色の花心みたいだと思っていたゆうちゃんの本当の心は、繊細な花びらの方かもしれない。
私は…ゆうちゃんが黄色の花心でも、繊細なハルジオンでも、どっちのゆうちゃんのことも好き。
私も花びらを半分残して結果がわからないハルジオンを、青空へぽーんと放り投げた。
片側半分だけ花びらがついたハルジオンが放物線を描いて川のせせらぎに着水し、水の流れに乗って遠くへ運ばれていく。
みいちゃんが私の顔を見つめる。私は笑った。
「私もゆうちゃんが好きだから、それだけで良いと思った!」
ゆうちゃんは急に体を反転させた。川のハルジオンに目を凝らしているみたいで、私も川に視線を移した。
まるで私のハルジオンがゆうちゃんのハルジオンを追いかけているように、二つのハルジオンの茎や葉の緑、川砂利に映える白い花びらとこんもり丸い黄色の花芯がキラキラ煌めく水面を滑るように運ばれていく。
私たちはそれを見送って、土手を登って自転車のスタンドを跳ね上げて跨った。
ハルジオンの白と黄色の花が風に優しく揺らぐ群生を見ていると、風が前髪を巻き上げた。
長くなった前髪をお気に入りの白い花のモチーフがついたぱっちんどめで留めて、ハルジオンの花占いをしていたあの時間は、ふたりだけのかけがえのない時間だったね。
私、ゆうちゃんの笑顔が好き。
ゆうちゃんの笑顔を守るために、私は何ができるんだろう?
優しく揺らぐハルジオンみたいに、そっと、遠くから見守っていたら、ゆうちゃんは今よりももう少しだけゆうちゃんの本心を私に打ち明けてくれる?
「みいちゃん、この先にハルジオンの群生地があること、知ってる?」
「え、知らない。見たい!」
「うん!」
背中を追って自転車をぐんぐん漕いで、子どもの頃は遠くて行くことができなかった土手のハルジオンの群生地に到着する。
そこはもっと多くの白と黄色の小さな花々が揺れていて、白と黄色の波を作る。
ゆうちゃんがいつか、私に秘密にしていることを打ち明けてくれるその日まで。
そのときの私が笑顔でゆうちゃんが好きだと受け入れられるように。
私は控えめに、優しく、遠くから、ずっと見守っている
私たちの周りを風が爽やかに吹き抜ける。
私たちは夕涼みしながら、いつまでも土手のハルジオンを眺め続ける。
ハルジオンの白と黄色が、川面にキラキラ映る。
「ゆうちゃん」
「ん?」
「自撮りしよ?」
スマホを取り出して私たちはスマホの画面を覗き込んだ。
「みいちゃん、嬉しそう」
「だって嬉しいもん」
「ゆうちゃんだって」
「そっか」
穏やかに瞳を細めて軽くて微笑むゆうちゃんと、明るい笑顔の私。
たくさんのハルジオンが揺れる土手をバッグに写真を撮ってゆうちゃんに送ると、写真を確認したゆうちゃんは「ありがとう」とスマホを胸にそっと抱きしめる。
ハルジオンの群生は夕陽の中で優しく揺らいでいた。
君の背中を追って
すき、きらい、すき、きらい、すき……
「みいちゃん、花うらないしよっ」
「うん!」
なかよしのみいちゃんと川のどてをころがるように走りおりて、丸いきいろのツブツブのまわりに白くほそい花びらがたくさんついた花を1本づつ手にとる。
「せーの、すき、きらい、すき…」
あたしたちは声をあわせて、ふたり同じタイミングで花びらを1まいづつつまんで、草の上に花びらをおとしていく。
さいごの1まいが、みいちゃんもあたしも「すき」になれば「せいこう」のうらない。
あたしたちのすきな人は、みいちゃんは「あたし」で、あたしは「みいちゃん」。
どっちかのさいごの1まいが「きらい」になるのはゆるせなくて、5時の音楽がどこからかきこえるまで、あたしたちはむちゅうで花びらをむしっていた。
中学校に入学すると、みいちゃんは袴と防具姿のカッコ良さに憧れて剣道部に入部したいと私に言った。みいちゃんのいない部活は考えられなくて、私も剣道部に入部した。背が高く運動神経がそれなりに良かった私たちは地区大会の新人戦で表彰されるくらいには活躍できた。
小学生低学年のときに川の土手を転げ落ちるような勢いで駆け降りていた私たちは、今、土手の上のコンクリートで舗装された狭い道を自転車で走り抜ける。
小学生のときに、昼放課に2人で学校の図書館で花の図鑑を広げてあの花占いをした花のことを一緒に調べたことがある。ハルジオンという名前が付いていた。花言葉は「追憶の愛」。ルビがふってあった。
「ついおくってなあに?」
「さあ?でも、愛だって」
「愛とか、なんか恥ずかしいね」
「ゆうちゃん、好きな人いる?」
「男子で、ってことだよね?いないよ。みいちゃんは?」
「あたしもいない。男子って、サッカーとか、ゲームのこと話しててよくわかんない」
「あたしも。みいちゃんがいちばん話が合う」
「ゆうちゃん、ずっと友だちでいてね」
「うん、もちろん!みいちゃんもだよ」
やくそくね、と小指を絡ませて腕を軽く振りながら指切りげんまんを一緒に歌った。
今はもう、「追憶」も「愛」も説明できる。
自転車を軽快に走らせるみいちゃんの背中を追いかける。
川のせせらぎ、水面の煌めき、草花の青と土の香り、ハルジオンの群生の鮮やかな白と黄色が風に揺れる。
みいちゃんの白い半袖のセーラー服と、後ろで一つに束ねた長い黒髪…。
好き、嫌い、好き、嫌い、好き……
みいちゃんは私にそっと教えてくれた。男子剣道部主将、青柳先輩に片想いしているって。
私の好きな人は変わらずみいちゃんで、それ以上に好きな人なんていない。
みいちゃんが花占いで占う人は「青柳先輩」で、私は「みいちゃん」。
私たちは女子だから、みいちゃんが普通で、私は異常。だからみいちゃんに言えない。絶対に知られちゃいけない。
それに、指切りげんまんした、「ずっと友だち」の約束を、私の本当の心は破っている。
みいちゃんの自転車のシルバーの泥除けが陽光に反射して眩しく光っていた。
それはまるで、真っ直ぐなみいちゃんの光のような眩しさ。
反射板の赤さが鮮やかに怪しげに視界に差し込む。
それはまるで、私の恋の警告の光。
私はみいちゃんとは別の高校へ進学した。
みいちゃんは進学校へ、私は大学の附属の女子高へ進学した。
私は背の高い剣道部員として一部の女子に人気で、交際を申し込まれたりもした。
そうして私は初めて気がついた。
部室の更衣室で2人っきりで頬を染めて一生懸命に告白してくれた後輩を見て、私の恋は普通なのかもしれないって。
そんな出来事が何度か続き、この女子高の中で、私は普通になれた気がした。だけど私への告白に眉を顰める人や心配してくれる人もいた。竹刀を振りながら、交際を断った後輩の視線が私を追いかけているのを感じる。
そうだよね。すぐに別の人を好きになれるほど、恋は簡単じゃないよね。誰かを好きになることは普通のことで、同性を好きになっても普通だと感じられる人と、異常だと感じる人がいる。それだけのこと。
……私は結局のところ、「みいちゃん」が好きで、他の人では私の心は動かなかった。
別々の高校で過ごしているとみいちゃんが恋しくなり、私はみいちゃんに連絡を取った。SNSでやりとりしたり、休日には繁華街へ遊びに行くこともあった。
中学のときよりも明確に恋愛感情を募らせ、本心を押し隠す。だって知られたらみいちゃんに嫌われちゃう。
好きの反対は無関心と、世間でよく聞く言葉だけど---みいちゃんの好きの反対はきっと、嫌い。あの花占いのように、好きか嫌いか、どっちかだ。
青柳先輩と恋人になったみいちゃんは私のことを友だちとして好きだけど、恋人にとって代わりたいと思う私のことは嫌いになってしまう。
約束を破っている私のことを、みいちゃんは嫌いになってしまう。
自転車を端に寄せて川縁の土手に降りて、ハルジオンの群生に立つ。
茎を1本折り切って、白い小さな細い花びらを1枚づつ千切っていく。
好き、嫌い、好き、嫌い、好き……
ハルジオンは「花びらがいっぱいで、どっちになるかわからなくてたのしいね」って明るい高いみいちゃんの懐かしい声が聞こえた気がした。
好き、嫌い、好き、嫌い、好き……
花びらを半分残して結果がわからないハルジオンを、私は青空へぽーんと放り投げた。
片側半分だけ花びらがついたハルジオンが放物線を描いて川のせせらぎに着水し、水の流れに乗って遠くへ運ばれていく。
ハルジオンの茎や葉の緑、川砂利に映える白い花びらとこんもり丸い黄色の花芯がキラキラ煌めく水面を滑るように。
私はそれを見送って、土手を登って自転車のスタンドを跳ね上げて跨った。
ハルジオンの白と黄色の花が風に優しく揺らぐ群生を見ていると、風が前髪を巻き上げた。
子どもの頃、みいちゃんは前髪が長くなると、いつも白い花のモチーフのぱっちんどめで前髪を留めていた。
みいちゃん、覚えてる?
私と一緒に花占いをしたこと。
2人の「好き」が重なって、みいちゃんと「やったー!」と喜びあったこと。
今、あの時間が、ふたりだけのかけがえのない時間だったと感じているよ。
私、みいちゃんの笑顔が好き。
みいちゃんの笑顔を守るためなら、自分のこの想いは封印しても良い。
優しく揺らぐハルジオンみたいに、そっと、遠くから見守っているだけできっと良い。
私はみいちゃんが好き。
自転車をぐんぐん漕いで、子どもの頃は遠くて行くことができなかった土手にもハルジオンの群生地があることに気がついた。
そこはもっと多くの白と黄色の小さな花々が揺れている。
みいちゃんと遠く離れても、私の心は咲き続ける。
控えめに、優しく。
そんな想いを抱えていたい。
ハルジオンの群生が、風に揺れて白と黄色の波を作る。
みいちゃんの笑顔は、遠くても私の心に咲いている。
いつか、この土手でまた一緒にハルジオンを見られたら。
その日まで、私の「好き」は、控えめに、優しく、咲き続ける。
好き、嫌い、
雨の香りがすると、思い出すことがある。
頬に流れた涙の跡を見つけた痛みと共に---
雨の香り、涙の跡
休日の午後、ベランダの洗濯物を取り寄せながら曇天を見上げる。
今にも雨が降り出しそうと言えば、そうだけど。
梅雨時の雨が降らない貴重な休日は、やはり走っておきたい。
ランニングシューズを履き、車のキーや免許証、小銭やスマホやらの必要最低限のものをウェストポーチに詰めて車に乗り込んだ。
緑豊かな都市公園は、長距離継走部の教え子たちを鍛える場所。
休日は、俺や、尊敬する体育教師の神谷先生が好んで走るランニングコース。
走り出して暫くすると、ポツリ、一粒の雨が頬に当たった。
ポツリ、ポツリ、途切れ途切れの雨粒は、木々の生い茂る葉が遮ってくれる。
降り出した雨に、草木が濡れ、土が濡れ、独特の香りが漂う。
埃っぽいような雨の降りはじめのこの香りには名前が付けられていた。確か、ギリシャ語でペトリコール。石のエッセンスという意味だ。
この香りは、俺にとって戒めであり、慰めでもあった。
5年前、俺は市民長距離継走大会当日、女子生徒を泣かせてしまったことがある。
その前年、本郷中学校の長距離継走部の顧問となり、選抜された中学1年生の2人をやる気にさせることができなかった。2人はいつも上級生の走るスピードに着いて行けず、チンタラ走っていた。
俺の指導力不足を反省しなければいけないところ、俺は2人をやる気にさせたくていつも叱責した。彼女たちの練習態度は変わらず、タイムも伸びず、上級生とのタイムの差は遠退くばかりで試合の補欠にも選ぶことができなかった。
俺は翌年3月に本郷中学校から西部中学校へ移動となり、彼女たちとの接点はなくなった。
…はずだった。
1年ぶりの曇天の長距離継走大会で俺は西部中学校の指導者として、彼女たちは本郷中学校の駅伝ランナーとして再会した。
米田は3位で襷を受け取り、最初のうちはかなり飛ばしていたが、後半失速して6位まで順位を落とした。
走り込み不足だな。襷を次の走者の鈴木に渡した直後に倒れ込みそうになって、神谷先生に抱きかかえられる。
それを横目でチラッと見て、俺は自分の現在の教え子に意識を集中する。練習通り、順調だ。それで良い。どこかで勝機は訪れる。
米田からの襷を6位で受け取った鈴木が、4位でトラックに帰ってきたのは驚きだった。
速い。区間賞が狙えるペースだ。
そして鈴木の前に走るのは、ウチの学校の2年生。
「抜かれるぞ!ペースを上げろ!腕を振れ!」
間一髪、抜かれる前に襷を次の走者に渡してウチの生徒も倒れ込む。
「よくやった。良かったぞ」
身体を支えながら健闘を讃える。
鈴木は米田に抱きつかれ、健闘を讃えられている。米田は鈴木のおかげで命拾いしたな。
ただ、ポテンシャルはあるはずなのに、練習不足が実力を発揮できないのはもったいないぞ。
神谷先生は、何を思っているんだろう。
次の走者に指示を飛ばす後ろ姿からは、何かを読み取れるはずはなかった。
全ての競技が終わり、表彰式前にトイレを済ませると、同じタイミングで米田もトイレからトラックの方へ戻るところだった。
「米田」
「早坂先生」
「見たぞ、米田の走り。前半は良かったけど、後半は身体がついて行かなかったな」
「……はい」
小さな声で返事が返ってきた。
去年の部活の印象では活発で明るいイメージがあったけど、今日は流石に反省しているのか。
「走り込み不足だな」
来年は練習頑張れよ、最上級生なんだから、下級生の手本にならなきゃダメだぞ。そんな意味を込めて、背中をポンと軽く叩く。
俯いている米田が気になるけど、今にも雨が降り出しそうなため、表彰式は準備ができ次第行われることになっている。
教師が遅刻するわけにはいかない。
「来年、頑張ろうな」
俺は表彰式が行われるトラックへ一足先に走って戻ることにした。
表彰式後、各学校に割り当てられた片付けを行う。
西部中学校の隣は本郷中学校で、顔見知りの神谷先生が片付けていた。
片付け終わり、神谷先生に「鈴木速かったですね。区間賞おめでとうございます」と声をかける。
2年生で区間賞を取るなんて大したものだ。1年の時はあんなにチンタラ走っていたくせに。
神谷先生からも「西部中学校3位おめでとうございます」と言葉が返ってくる。勝敗に関係なく、お互いの健闘を讃え合う。スポーツの素晴らしいところだ。
鈴木を褒め、俺は鈴木と仲の良い米田の失速ぶりを話題にあげた。彼女は明らかに練習不足だった。指導に定評のある神谷先生でも、彼女のおちゃらけた態度は変わらなかったのか。もったいない。
神谷先生は、米田が走り込めなかった真相を教えてくれた。
米田が夏休み前に捻挫したこと、練習再開まで1か月を要したこと、捻挫前は米田と鈴木の実力は拮抗していたこと---
俺は口元を押さえた。
なんてことを米田に言ってしまったのだろう。
走りたいのに走れなくなった人に対して…鈴木と実力が拮抗していたなら、それは米田が真面目に練習していたに他ならないのに。
練習したくてもできない悔しさを抱えていたのかもしれないと思い遣ることもせず、米田が練習にマトモに取り組まなかったせいだと決めつけて---
神谷先生は後方を振り返っていた。
視線を追うと、雨でぼやけたスタンド席に、体操服らしき生徒2人の影が見える。
神谷先生から米田と鈴木であることを確認して、俺は「米田に謝ります」とスタンド席に向かって歩きだした。
一刻も早く謝りたい。駆け出したい気持ちでいっぱいだったが、傷つけてしまった米田に何と謝ったら良いのか考えを纏めなければいけない。
そんな俺のことも、米田の気持ちも理解しているだろう神谷先生が助け舟をくれた。
「先ずは俺が落ち着かせます。駐車場に連れて行きます」と時間の猶予まで与えて。
「お願いします」と頭を下げる。考えをまとめよう。
雨の香りが立ち込める霧雨を歩きながら。
駐車場で3人を待っていると、程なくして2人はやってきた。
傘を差す米田と鈴木の頬に涙を拭った跡が残されており、心が軋む。
自分がこの子たちを傷つけたくせに、俺が傷ついてどうする。
俺にできることは俺が全面的に悪かったと謝って、この子たちの負の感情を霧散させることだ。
深く頭を下げて、自分の思い込みや言葉足らずだったことを誠心誠意謝罪する。
雨の香りがする。埃っぽい、咽せるような強い香りが。
そんな俺に、米田は優しかった。
「私、来年も選ばれたら、もっと筋力トレーニングとか柔軟とか真面目にやって怪我しないようにします」
「米田」
「隣の体育教師にいっぱい教えてもらいます。鈴ちゃんと頑張ります」
言われた言葉は予想外。何て良い子なんだろう。
ポカンと数秒呆気にとられた後、俺はホッとして笑った。
涙ぐんでしまっていたから、笑顔と共に涙の粒がこぼれ落ちそうで、生徒の前でそれは避けたい。首元のタオルで顔の汗や雨を拭くフリをして顔全体を拭う。
「米田、ありがとう」
「打倒西中!」
「「そこは今年1位の南部中だろ」」
神谷先生と俺が同時にツッコミを入れたのは言うまでもなかった。
自分の車に向かう俺の後方から、2人の「先生、さよーならー」とデカイ声が聞こえて笑う。
本当に良い子たちだ。両親の育て方と、神谷先生が素晴らしいからだな。
車のドアを閉め、次々とこぼれ落ちる涙を拭う。
霧雨の雨の香り、米田と鈴木の涙の跡。
戒めと慰めの記憶として、心に刻んでおこう。
いつか、神谷先生のような尊敬する師になるために。
都市公園の雨はすぐに止むかと思ったが、止みそうになかった。
ハッキリ言って寒い。梅雨寒だ。
クシャミをして人差し指で鼻の下を押さえる。
風邪なんて引いてる場合じゃない。
明日から5日間、学校へ出勤しなければならない。
都市公園で常設されているコンテナのカフェまでは、池を半周した先にある。
屋根付きのテーブルやベンチもあるし、スペシャリティコーヒーが話題になって久しい。
そう言えば一度は飲んでみたいと思いながら、まだ行ったことがないことを思い出して駆け出した。
「あれっ、早坂先生?」
コンテナの一段高くなっているカフェ提供ブースから、素っ頓狂な声がした。
一瞬ウチの生徒かと思ってドキッとしたが、見上げるとついさっきまでの思い出の人物、米田だった。
中学生だった米田は成長して髪をひとつに縛り、化粧をしていた。店員のエプロンとユニフォームがよく似合っているけれど、一目で米田とわかる面影があった。
「米田か。中学生ぶりか。変わってないなぁ」
「は?失礼すぎるって。私、大学生ですよ」
「冗談だよ。バイト中?」
「はい!ご注文何にしますか?」
ニコッと笑顔を向けられてメニューを見るが、せっかくだから米田に決めてもらうことにした。
「オススメは、深煎りアイスコーヒーです!!」
「寒いから却下。温かいのでよろしく」
「やっぱり?」
悪戯っぽく笑われて苦笑する。
そうだ、米田はこんな調子だから、本来の傷つきやすい繊細な性格に気づかなかったんだ。
「当店オリジナルのブレンドコーヒーはいかがですか?1番人気です」
「そうだな。ブレンドで」
「かりこまりました」
コーヒーの芳ばしい香りが忽ち立ち込める。丁寧にドリップをしてくれているのが表情でわかる。
「バイト歴、長いのか?」
「大学入ってすぐだから2年目?長いですか?」
「微妙だな」「ですよね」
支払いを済ませると、他に客が居ないからと俺のテーブルの向かい側に座った。
「鈴ちゃん、わかります?」
「鈴木だろ? わかるも何も、つい最近まで俺のクラスで教育実習生してた」
「先生が鈴ちゃんの教育担当なんですよね?先生から見た鈴ちゃんってどんな感じ?」
興味津々と言った様子に、俺は笑った。
「相変わらず仲良いんだな」
「そりゃもう!ずっと親友だもん!」
「頑張ってたよ。ウチのクラス、ひとり知的好奇心が旺盛で高度な質問する生徒がいるんだけど、初日はその生徒が納得できるような回答ができなくてさ」
米田が無言で神妙な顔をして頷く。
俺は微笑んで続きを話した。
「翌日、鈴木はその生徒の質問をことごとく答えていった。どんなに高度な質問にも、単元の範囲外の質問にも。相当調べ上げて記憶したと思うよ」
「さすが鈴ちゃん!」
「鈴木は努力家で結構な負けず嫌いだな。ま、授業はそのせいで進まなかったから、俺の指導を入れたけど」
「わ、自分の手柄を入れた」
米田のツッコミに笑う。
「授業ってのは、1人のためじゃない、皆んなにわかるように進めるんだよ。まあでも、生徒想いなのはよくわかるから教生として充分合格だよ」
「やった!」
両手を握って胸の前でガッツポーズをする。
鈴木、良い親友を持って幸せだな。
コーヒーの香りを嗅ぐ。
「美味いな。スッキリしてる」
「ですよね?フレンチトーストも人気メニューですよ」
「それはまたにするよ」
霧雨が降り注ぐ。
雨の香りは変わらない。
だけど、心におった小さな傷は癒えている気がする。
「米田、あのときごめんな」
「はい?」
「陸上競技場で、傷つけたこと。泣かせて悪かった」
「…そんなこと、もうとっくに、あの日に謝ってもらっているのに」
戸惑いながら、米田は胸元で拳を握った。
「なんか、霧雨と雨の香りで思い出してさ。あのとき、俺はちゃんと謝れたか自信がなかったから」
「充分でしたよ。先生の謝罪、伝わってました」
「そうか」
「はい!それに」
米田は俺の顔を覗き込んだ。悪戯めいた表情に、ドキッとする。
「私と鈴ちゃん、早坂先生の言葉で泣いたわけじゃないですよ」
「そうなのか!?」
初めて突きつけられた言葉に驚き、大声を出す。
雨に紛れて、すぐに俺の声は自然の中に吸い込まれていった。
「じゃあ、誰のせいで、」
「神谷先生ですよ。私には、『米田は今日も頑張ってた。俺は米田が頑張っているところをずっと見てきたから』って言ってくれたんです」
「神谷先生が…」
神谷先生なら言いそうだ。あんなに生徒思いの先生はなかなか居ない。
「鈴ちゃんにも言ってました。『米田のためによく頑張ったな。あんなに速く返って来るとは驚いたよ』って。それで2人とも泣いちゃって…」
俺は額を抑えてテーブルに突っ伏した。
なんなんだよ、それ。
神谷先生の優しさが米田と鈴木を泣かしてんじゃん。
「鈴ちゃん、神谷先生みたいに優しくて頼り甲斐のある先生になりたいんだって。早坂先生、機会があったら、鈴ちゃんを助けてあげてくださいね」
「…わかったよ」
頭上から米田のふふふっと穏やかな笑い声が聞こえる。
優しさの涙の跡だなんて、そんなんありなのかよ。
「…俺の憧れも神谷先生だから」
「嘘!」
「マジで」
「そしたらあたし、ラッキーですね。時々神谷先生、コーヒー飲みに来てくれますもん」
「マジか。俺ももっと飲みに来るわ」
「ありがとうございます!」
雨の香り、涙の跡が切ない思い出から明るい思い出に変わる。
雨の香り、涙の跡