Mey

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子どもの頃、と言っても小学生高学年から中学1年生にかけて。
私の夢は、「絵本作家」になることだった。
自分でお話を作り、イラストを描く。
小学生の夏休みの自由研究は、5年生は絵本を、6年生では紙芝居を作った。
夏休み明けで紙芝居を提出したときは担任に褒められた。そして全校児童が体育座りで座る中、体育館のステージで紙芝居の読み聞かせをすることになった。自作の紙芝居の用紙は10枚くらいあったか、体感10分くらいは読んでいたように思う。体育館に集まった児童の全員に何の反応もないように思えて、その時間は私にとって苦痛だった。教師を見る余裕は私にはなかった。
私は音読が得意で、図書委員として給食の時間に新刊のハードカバーを紹介するといつも友だちや先生たちから褒められた。絵本作家の前は「声優」になるのが夢だったほどには、音読に自信を持っていた。それなのに。
物語はある年のクリスマスに、良い子にしてたら楽しみにしているサンタクロースが来てくれるよって話。小学生低学年に刺さるとも思わないけど、高学年には説教くさいかも。そもそも真夏にクリスマスじゃあテンション上がらないよね。
色塗りも色鉛筆だから、広い体育館の後方では真っ白に見えたかもしれない。私が持って、私が入れ替えて、で今のようにスクリーンに映したわけじゃないし。
自信を喪失しながら発表を終えた。発表後、誰かから何か言われたような気がするけれど、大人になった今、記憶にない。
そんな私が中学校に入学してすぐの頃、将来なりたい職業を調べて図にしましょう、という授業があった。
クラスの皆んなで図書館で資料を探し、職業の内容や就職するために行うことを画用紙にまとめる時間が割り与えられた。
さて、どうしよう。
「絵本作家」なんて、子どもっぽい夢かな。「声優」も現実的ではないかもしれない。その前はなんだっけ?確か色々あって、花屋さん、パン屋さん、バスガイド……
画用紙の真っ白を見ながら逡巡していたけど、クラスメイトは資料を持ってテーブルに戻ってくる人も現れ始めた。
「絵本作家」になるための資料なんてあるかなぁと半信半疑なままたくさんの本を左から右、上から下へとタイトルを見ながら探していく。もしもなかったら、他の夢を書けばいいやと思いながら。
色々な職業について説明している本を手に取って、パラパラ捲るとその中に「絵本作家」があった。
あるじゃん…!
心が高揚したのがわかった。ドキドキして、口元が笑んで緩むのを引き締める。自分が肯定されたような気がした。コレで良いんだよって言われている気がした。
残り時間に余裕があるわけではない。
私は真っ白な画用紙にシャーペンで下書きを始めた。
テーブルには先生が置いた12色の色鉛筆やマジックが並んでいる。
そうだ、イラストも描こう。絵本が良い。
いつの間にか楽しくなっている。担任がテーブルを回っているけれど、視線は全く気にならなかった。
授業終わりのチャイムまで、細かなところを詰めていく。
真っ白だった画用紙は、マジックで濃く色鮮やかになっていた。
後日、将来の夢が書かれた画用紙は教室の後ろの壁に掲示された。色鉛筆の淡い色の画用紙が並ぶ中、私のマジックの画用紙の主張は激しく目立っていた。
担任は、「よく調べてよく書けてるよ」と言ってくれた。それだけで私の夢も私自身も肯定されたようで、くすぐったくてとても嬉しかったのをよく覚えている。




子どもの頃の夢


6/23/2025, 2:06:17 PM