大人
───
「パーキングエリア寄っていい?」
「?いいけど…なんで?」
「ちょっと買い物したい」
「今とかおかしいでしょ、まだ朝だよ?」
「いいでしょ。じゃ入りまーす」
「まじじゃん…てか駐車うま、さすが彼氏」
「練習したからな」
「可愛いかよ…んむっ?!」
(俺の彼女可愛すぎ…耐えられねぇ)
(ちょ、メイク崩れるって…!)
「っ、はぁ、リップかーわい」
「気づいてんならこんなことしないでよ…」
((あー、今日の旅行集中できるかな…))
20250201 【旅の途中】
学生の話
台風のような君。
───
「───ずっと好きでした!付き合ってください!」
今、俺は知らない子に告白された。
学年も、クラスも、所属する委員会も知らない女の子。
放課後の校舎裏でこんなことになるなんて、なんだか少女漫画みたいだ。
でも俺自身は呼び出されたわけでもなく、ただ美化倉庫に物を取りに来ただけだった。
声をかけられたと思って振り向いたらこんな事に。
「いや、俺、君のこと知らないんだけど…」
「じゃあ今日知ってください!」
…いきなり始まった自己紹介。
名前、学年、クラス、委員会、好きな物…
まぁとにかく色々情報過多になってはいるが。
「…ありがとう」
「あの、私のことは今日知ってもらったばっかりなんですけど、」
じっと俺の瞳を見つめる。くりっとしていて、少し幼く見える。俺の1つ下の学年と言っていた、ような。
「絶対、振り向かせて見せます!!」
そう言うと彼女は「ではー!」と颯爽と走っていった。
その姿を、俺は釘付けになって眺めていた。
(ひぃぃっ、勢いで言っちゃったけど大丈夫だったかな…心臓バクバクだよ……)
20250130 【まだ知らない君】
学生の話
寒さの中に感じる暖かさ。
───
「お疲れ〜」
「あぁ、お疲れ様」
週の真ん中となるとやはり疲れが溜まってくるものだが、今日だけは条件が違う。
なぜなら、今日は隣の彼とファミレスで勉強会ができるからだ。
お互いに部活がない日は共通で水曜日しかない。
そこで、学年トップの成績を誇る彼に勉強を教えてもらうことにした。なんだか話を聞いてると理解しやすいし、居心地がいいからだ。
「今日は駅前のファミレスでいい?」
「お前が集中出来ればどこでもいいぞ」
彼の寛容な性格も私からするととても嬉しい。
「ここも分からないのか」なんて言われることもないから、分からなかったらすぐ聞ける。し、教科書より分かりやすく教えてくれる(私理論)。
「いつもありがとうね、ほんと助かってる」
「俺自身も教えることでより理解を深められるからな。こちらこそ助かっている」
「そう言って貰えると気が楽だよ〜」
そう話しているものの、今日の寒さはなんだかごまかせない。
駅まではビルが立ち並んでいるため、日陰が続いていて日向よりも寒いのだ。
今日に限ってマフラーも忘れてしまったし、ワイシャツの襟で何とか凌ぐしかない。
「…今日なんかいつもより寒いね」
「その格好をしていればそうだろうな。あと明日から大寒波が来るらしい」
「あ〜しくじった、最悪」
格好まで指摘されちゃったし、なんだか恥ずかしい。
あぁ〜さぶ…と言いながら制服のポケットに手を突っ込む。うわ、ポケットも冷たいし…
そうしていると、ふわっと首元が暖かくなった。なにこれ、温風でも来た?
首元を見ると、見覚えのある柄のマフラーが目に入った。
「…え」
「寒いだろう。俺のマフラーでも巻いておけ」
「いやそっち寒いでしょ」
「お前の寒そうなのを見ている方が寒い」
「そうなの?…まぁ、ありがと」
「あぁ」
マフラーを触ってみると、ふわふわして優しく感じる。
ぶわっ、と顔に熱が集まったのは、急に暖かくなったからか、それとも──────
───おまけ───
「今日も付き合ってくれてありがとね」
「あぁ。…明日の放課後は空いているか?」
「え、明日も勉強会開いてくれるの?明日顧問の先生いないから多分部活ないけど」
「分かった。では明日、出かけに行きたいところを考えておいてくれないか?」
「…それは、どういう…?」
「俺はお前とどこか出かけてみたいと思ったのだが…だめか?」
「えっ」
20250129 【日陰】
学生の話
季節的情感がないのはご承知おきを。
あなたの事を、見て知りたい。
───
「あっつ〜…」
「日本の夏暑すぎでしょ」
「外国と比べるとやっぱそうなんだね」
まぁね、と呟く隣の彼は、近所に住む2つ下の男の子。
3年ほど海外にいたが、この夏休みが終わってから私と同じ学校に通い始めるらしい。
家が近かったこともあり、顔見知りになったという流れだ。
私は家の近くを走っていた彼に(恥ずかしいが)一目惚れしてから、暑い日本の夏に耐えながら彼のロードワークに付き合うようになった。
実際私も部活上、体づくりしないとなぁなんて思ってたし、一石二鳥と言ったところか。
「ねぇ、そこの公園で休憩しない?」
「さすがにしないと倒れるでしょ」
そう言って木陰の下にベンチがある公園に入る。
久しぶりに来たけど、遊具がなんだか小さく感じた。
「ひぃ〜疲れたぁ」
「この暑さの中でも走るとか、先輩も物好きなんスね」
「いや、うん、まぁね…」
下心がバレないように必死に会話を繋げる。
外国ってどんな感じなの、とかは会った時に聞きすぎちゃってるから、最近はテレビの話とか、そんなの。
「あ」
「どうしたんスか?」
「ちょっとあそこの水道で顔だけ洗ってきてもいい?汗だらけで気持ち悪くって」
「なら俺も行く」
足を振り上げるように立ち上がった彼は、私と身長は変わらない。ちょっとだけ私の方が高いと思うけど。
被っていたキャップを脱いでから、バシャバシャと出てくる水を手で掬い、顔の汗を流す。
暑いのも汗ばんでたのも、これだけでだいぶスッキリした。
「は〜すっきり」
顔をハンカチで拭き、1つしかない水道の場所を空ける。
「めっちゃ気持ちいいよ」
そう言ってから彼の顔を見上げてみると、彼は何も言わずに水道の蛇口を捻った。
バシャバシャと音を立てる水より、彼のなんとも言えない顔が気になった。
元より、彼は表情があまり変わるタイプでは無い。
何を考えているのか分からないから、少し心配になった。どうしたんだろうか。
「───ほんとだ、スッキリする」
でしょ、と言いたかった。
彼の顔をパッと見ると、水と汗が滴った髪に暑さのせいか少し紅潮した頬が見えた。
あまりのかっこよさに、言葉が出ない。
固まる私に、彼ははぁ、と息をついた。
何も言えなかった私に愛想をつかれてしまったのだろうか。
「え、あ、えと」
「わかったでしょ」
どこから弁解すればいいのか、と下を向いて混乱する頭を必死にフル回転していると、私の足元に影が出来ていた。
「…これ被ってて」
頭に被せられてつばをぐっと下げられたキャップは、私の頭の大きさより一回り大きかった。
顔を上げて彼の顔を見ると、私のキャップで顔を隠していてよく見えない。
私たちの夏は、気温以上に暑くなる予感がした。
───おまけ───
「ねぇ私のキャップ返してよ」
「…先輩の頭って俺よりちっさいんスね」
「うるさいな」
「じゃあ帰りも俺に着いてこれたら返すんで」
「なにそれ…って、置いてくな!待て〜!」
20250128 【帽子かぶって】
学生の話
激重感情を抱えることの代償。
───
(あ゛〜、好きすぎる、無理)
私は(説明が難しいが)隣の隣の席の男子に思いを馳せている。
多分、私が彼のことが好きなことは本人も知っているんじゃないかと思う。理由は単純、距離がバグってる。
近づく以外にいい距離の詰め方が分からないのだ。策士っぽい事もできないし、真っ向勝負で挑むしかできない。無念。
そんな私に、ある日転機がきた。
それは、私と彼の間の席にいるクラスメイトが休んだことだった。
それだけ?って思った人。私もそう思う。
それだけの事に、私は影で心の声をこぼしているのだ。
席が空いたことで、彼の横顔が見えるという事実が私の脳を埋め尽くす。
もし付き合えたら、幸せなんだろうか。
───
正直、授業なんて聞いてられない。
そう思ってぼーっと外を眺めていたら、机がガタガタと動く音がした。
みんなの方を見ると、グループワークが始まるみたいだった。隣の子いないから…あれ、これもしかして…
「そこは隣の班に移動して」
隣の班…
ん゛ーーーーーーーーーーー?!?!?!?!?!?
その班には、彼が、私の好きな人が、いた。
しかも席は、彼の真ん前。えこれ死ぬやつ?
移動するだけなのに、今この状況に立たされただけで今日のエネルギーを全て使い果たした気がする。
傍から見たら移動なんて簡単なことだけど、私からすれば重大事項。
私は体中から小さな勇気を必死にかき集めて、大きな一歩を踏み出した。
20250127 【小さな勇気】