社会人設定
──────
(ん?あれ、あっちゃんじゃない…?)
田舎から上京してきて今年で2年。
自立も兼ねて1人で寂しく上京してきていた私は、オフィスを出てすぐの歩道橋で中学〜高校と学校が同じで仲良くしていた友達・あっちゃんを見かけた。
彼女とは大学で離れてもう5年ほど疎遠の状態だったが、年賀状のやり取りをする程度まで連絡の頻度が落ちていた。
しかも今は19時を回った頃。
せっかくだし居酒屋にでも誘おう、そしてお互いの知らない話をたくさんしよう。
1人浮きながらもあっちゃんに向かって手を振ろうとした。
すると、あっちは私の方に向かって手を振りだした。
(あ、見えてるのかな…?)
彼女のいる方向に歩みを進める。
「久しぶり─────」
彼女は私の前を掠めるように通りすぎたかと思えば、後ろにいた男性の隣で歩き始める。
手を繋いで。
(私のこと、まだ覚えててくれてるのかな)
彼女にぶつかるように隣を通っても、私は風としてしか触れられない。
彼女の隣はもう空いていないというのに。
死んでも後悔している私は、またこうして歩道橋の上へと戻って行った。
20250505 『すれ違う瞳』
学生設定
───
「うぅ、勉強したくないよぉ」
「勉強したくない、じゃなくてするんだよ」
「でもさぁ」
「でもじゃない。しかもうちに来てまでやらないのはどうかと思うよ?」
「それはそう」
勉強会in彼氏の家、というシチュエーションで集中出来る彼女の鏡さんは今のところ私の中には居ない。
何度も来ている場所とはいえ、一人部屋に男女二人はなんとも言えない気まずさが漂ってしまう。
「…勉強しなくていい力がほしい」
「じゃあ日々復習したり勉強きちんとしていればこんなギリギリに勉強する必要は無くなると思うよ」
「そんなマジレスしないで、ちょっと傷つく」
「うん、それはごめんね?でも勉強早く始めないと後でしんどくなるだけだよ」
そういう彼は成績優秀、私と同じように勉強しなくともそれなりに点数は取れるはずだ。
それでもこの時期になると付き合ってくれるというのだから、彼女の特権的なのを感じてしまうのは仕方ない。
うぅん、と唸る私とは対照的に、こちらに目もくれず黙々と勉強している彼。正面にいる彼を机に顔を突っ伏しながら眺めていると、端正な顔立ちなのを実感してしまってなんだかむず痒い。私なんかという平凡な女子と付き合ってくれてるのが奇跡のように思える。
「…変なこと考えてるでしょ」
「え、特に何もないけど」
「眉間にしわ寄ってた」
「嘘だぁ」
「嘘じゃないよ」
そういう時は、君がネガティブになってる時だ、って俺は知ってるからね。
教科書から目を離したと思ったらこんなことを恥ずかしげもなく言うのだからすごい。
そろそろ勉強しないとまずいな、と思ってきたのは、彼の丸つけの音がバツよりも多くなってきた時。
やるかぁと伸びをして、ペンを持つ。
…いきなり分からない問題とぶつかると、やる気が失せるのは全員共通であって欲しい。
私も典型的な例である。
シャーペンをカチカチしすぎたのか、私のやる気の音がポキリと鳴るように折れた。
ありゃ、とほんの少しだけ戦っていた眠気が覚めたと同時に、背中に私のよく知る温もりが伝わってきた。
「…どうしたの」
「今、集中力切れたでしょ」
「なんで分かるの」
「シャーペンの芯折れてたから」
「それだけじゃ分からないでしょ」
何を言い出すんだ。私は少しでも彼にやる気を見せつけようと、シャーペンを握りしめようと手を動かしたら、それどころでは無くなった。
口元に一瞬だけ彼の唇が触れた。
もう一瞬だけ、欲しがってしまう私が顔を出したが直ぐに引っ込めた。
集中力続くおまじない。「続き」は後でね。
耳元にそう囁かれた私は、生物の問題より彼の優しい温もりに集中せざるを得なかった。
20250223 【魔法】
年齢設定なし
───
「また見れるといいね」
「って言っても、別に虹なんて雨降ればまた見れるでしょ」
「そうじゃなくて!二人で見たいの、私は」
「わかったって。二人で見れるといいね」
「約束だよ」
そう言っているうちに、虹はだんだん薄くなって───
♢
「…夢か」
最近この夢に限らず、私にとって唯一無二の友達にまつわる夢をよく見る。
その度に私は気づくと涙を流しているのだ。
「──ちゃんと見たかったな…」
彼女と虹を見たのは、彼女の葬式の後だった。
20250222 【君と見た虹】
年齢指定なし
──────
私の推しが、金髪にした。
正直黒髪の方が好きだった私だけど、彼がやりたいと思うならそれが一番だと思っていた。
私の推しが、マネージャーをつけた。
お陰様で仕事も順調に増えていたから、気兼ねないツイッターの呟きとか結構好きだったけど、仕方ないと思った。
私の推しが、グループに所属した。
ソロ活動時のライブとかは行っていたけど、グループとなると他担との衝突が多くて次第に行かなくなった。
私の推しが。
私の、推しが。
私の推しの、黒髪でフリー活動で一人で楽しくお仕事をしている、彼はどこに行ったの?
──────私が今推してる、あなたは誰なの?
20250219 【あなたは誰】
学生
──────
今日は美化委員の仕事があった。
私たちの仕事は基本的に掃除類と花壇のお世話に区分されるのだけれど、今日は早めに学校に来るやいなや花に水やりをするために私は屋上庭園に足を運んだ。
適当に水をやるのはあまり良くないらしく、葉に水を当てすぎると葉が変色したり腐食したりして大変だと委員長から話を聞いた。そういえば、先輩は美化委員になる以前から花が好きと言っていた気がする。男の先輩だけれど、割と中性的だから花壇にいる先輩はなんだか花の精みたいで儚く感じた記憶があるなぁ…
「お疲れ様、朝から」
「おっ、つかれ様です、先輩」
噂をすれば委員長さん。
なんで来たのか聞いたら「委員長だし、委員の仕事を見回ってるだけだよ」と言われた。偉いですね。
「俺も水あげちゃっていい?」
「もちろんです」
じゃああっちの方から回ってくね、と先輩は向こうの端に走っていった。優しい。私より背は高いけど、顔だけ中性的かと思えば声も割と高い。それで違和感がないのは凄いとしか言えないよね。
というか、はっきり言って先輩は一般論で言う「イケメン」であるのではないか、と今気づいた。
とんだイケメン先輩?と水やりをしているのか…と考えるとなんだかむず痒い。なぜ?
…と考えている間に水やりも終盤。私が真ん中に寄っていくにつれて、先輩も近くによってくる。普通のことだけど、なんだか少し嬉しく感じた。
「はい、じゃあこれで終わりだね」
「ありがとうございます先輩。助かりました」
「これも先輩の仕事だよ」
くすっと笑う先輩。
花に着いた水飛沫がキラキラと輝いているのに対して、先輩もなんだか輝いているように見える。
これは先輩に対する憧れの気持ちか、それとも────
20250217 【輝き】