みんみんどり

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「うぅ、勉強したくないよぉ」
「勉強したくない、じゃなくてするんだよ」
「でもさぁ」
「でもじゃない。しかもうちに来てまでやらないのはどうかと思うよ?」
「それはそう」

勉強会in彼氏の家、というシチュエーションで集中出来る彼女の鏡さんは今のところ私の中には居ない。
何度も来ている場所とはいえ、一人部屋に男女二人はなんとも言えない気まずさが漂ってしまう。

「…勉強しなくていい力がほしい」
「じゃあ日々復習したり勉強きちんとしていればこんなギリギリに勉強する必要は無くなると思うよ」
「そんなマジレスしないで、ちょっと傷つく」
「うん、それはごめんね?でも勉強早く始めないと後でしんどくなるだけだよ」

そういう彼は成績優秀、私と同じように勉強しなくともそれなりに点数は取れるはずだ。
それでもこの時期になると付き合ってくれるというのだから、彼女の特権的なのを感じてしまうのは仕方ない。

うぅん、と唸る私とは対照的に、こちらに目もくれず黙々と勉強している彼。正面にいる彼を机に顔を突っ伏しながら眺めていると、端正な顔立ちなのを実感してしまってなんだかむず痒い。私なんかという平凡な女子と付き合ってくれてるのが奇跡のように思える。

「…変なこと考えてるでしょ」
「え、特に何もないけど」
「眉間にしわ寄ってた」
「嘘だぁ」
「嘘じゃないよ」

そういう時は、君がネガティブになってる時だ、って俺は知ってるからね。
教科書から目を離したと思ったらこんなことを恥ずかしげもなく言うのだからすごい。

そろそろ勉強しないとまずいな、と思ってきたのは、彼の丸つけの音がバツよりも多くなってきた時。
やるかぁと伸びをして、ペンを持つ。

…いきなり分からない問題とぶつかると、やる気が失せるのは全員共通であって欲しい。
私も典型的な例である。
シャーペンをカチカチしすぎたのか、私のやる気の音がポキリと鳴るように折れた。

ありゃ、とほんの少しだけ戦っていた眠気が覚めたと同時に、背中に私のよく知る温もりが伝わってきた。

「…どうしたの」
「今、集中力切れたでしょ」
「なんで分かるの」
「シャーペンの芯折れてたから」
「それだけじゃ分からないでしょ」

何を言い出すんだ。私は少しでも彼にやる気を見せつけようと、シャーペンを握りしめようと手を動かしたら、それどころでは無くなった。

口元に一瞬だけ彼の唇が触れた。

もう一瞬だけ、欲しがってしまう私が顔を出したが直ぐに引っ込めた。


集中力続くおまじない。「続き」は後でね。


耳元にそう囁かれた私は、生物の問題より彼の優しい温もりに集中せざるを得なかった。



20250223   【魔法】

2/23/2025, 3:39:34 PM