学生の話
お昼休みのある場面で。
───
「だーれだ?」
「おわっ、びっくりした…というか、そんな裏声分からない方がおかしいでしょ」
「ちがうよ?」
「裏声続けないの」
「面白くないなぁ」
こんなバレバレな裏声を毎日のごとく披露してくれる彼は、なんでこんなことしてくるのか聞いても答えてくれない。素直になれって。
でも、今日はいつもより話が続かない…気がする。
学年内でも人気のある彼だけど、距離感がバグってるから誑かしてる?としか思えない。
「いつも思ってたんだけどさぁ」
「何?」
「なんでそんないつも構ってくるの?」
「え」
目を丸くしたかと思えば、ぽっと顔が赤くなってしまった。そういう表情、私にも移るからやめて…
「…今日の放課後」
「え?」
「今日の放課後、屋上来てくれたら、教えてあげる」
「へっ」
鈍感女に憧れてしまう私。察するな、という方がおかしい。
かわいい女の子のような「わぁっ!」と言うような声は一生出せないと思うが、この時間だけで何回驚いたことか。お昼後の授業は…察しの通りです。
───おまけ───
「あんたどうしたの、机に求愛行動でもしてるの?」
「…馬鹿なこと言うな…」
「…可愛いとこあるんだね」
「心外な。…私だって恋する乙女ですよ」
「ふーん、恋、しちゃったんだ?」
「あっ」
20250126 【わぁ!】
学生から大人にかけて
関係性の名前について考える。
───
「…僕と、付き合ってください」
頬が血色を帯びながら私に伝えてくれた言葉。
この時を忘れたことは一度もない。
かくいう私も目に涙をためながら「はい」と答えたのも今となってはいい思い出である。
───
今日は彼が単身赴任で帰ってくる日。
彼に夜ご飯何がいい?と聞いたら「え、いいの」と喜んでる顔が目に見えるような声で言った後、「和食がいいかも」と言ってきたので気合いを入れて作ってみた。
気合入れすぎって思われたら恥ずかしい…
───
…ん?
時計の時刻は二十一時。
予定は二十時だったはずだけど、彼の姿は見えない。
ご飯も冷めちゃったかな…帰ってくるのって今日であってるよね…?
もう帰ってこなかったらどうしよう。
そう思うとだんだん涙が目に浮かんできた。
その時、玄関で物音がした、気がした。
「───っただいま!」
頭が回らず、何も言えない。というか、こんな顔見られたら恥ずかしすぎる。
「遅れてごめんね」
ズサーーっと音がするように私の前に来たと思えば即下がる彼の頭。
「…心配したじゃん」
「ごめんなさい」
「ご飯多分冷めちゃったし」
「後でみんな食べるよ」
…後で、ってなんだ?
それに、なんだか彼がほんの少しだけいつもよりドギマギしているように見える。
「えーっと…何かあったの?大変だっただろうし、話ならいくらでも…」
「じゃあとりあえずここ来てほしいな」
「…?」
彼の言うここ、というのは我が家のソファで、彼の座っている位置の隣。
言われるがまま、位置につく。
「まず──今日の約束の時間に遅れてごめんなさい。たくさん準備してくれたのに」
「仕方ないことだよ。忙しかった?」
「えーと…そういう訳では無いけど、忙しかったよ」
「?」
良くない想像が広がる。
「そういうこと」はしないと信じているけど、不安は拭いきれなかった。
いろんな意味で心臓の鼓動が早まるのを感じる私に対して、彼は体をこちらに向ける。
「僕は、こうやって自分の恋人に心配や迷惑をかけるような人間だけど」
「うんそうだね」
「ちょっとは否定して?」
「事実だし」
「そうだけど…、で、そんな人間だけど、僕は君を幸せにしたいっていう気持ちは誰よりも強いんだよ」
この流れ、私も感の悪い女じゃないから何となく分かった。予想で来た瞬間、本当かはまだ分からないのに、体は涙を溜める準備をはじめていた。
「だから」
僕と、結婚してください。
そういって出てきた、小さな箱に入る一際輝く指輪。
この景色、付き合った時と似てるなぁ。
あの時と同じように、私は「はい」と答えた。
関係性の名前が変わっても、私たちの関係は終わりを知ることはなかった。
───おまけ───
「ご飯食べよ?」
「こんな泣いてんのにご飯食べろなんて言うの?」
「僕のために作ってくれたご飯、食べさせてよ。奥さん?」
「はいはい分かりましたよ、旦那さん?」
20250125 【終わらない物語】
大人のカップルです
デート前に服を選んでもらう。
───
「この服、どっちが似合うと思う?」
「どっちも似合うと思うけど」
「え〜、いっつもそう言ってるじゃん。もうちょっと彼女に対してさ、こう、なんか言ってもいいんじゃないですか…」
「…事実だし…」
「うわ急なデレやめて」
「は?」
「すんません」
世間の彼氏彼女の方々が一度は考えたことがあるであろう、「どっちが似合う?」問題。
ご覧の通り、私の彼は「どっちも似合う」と言う。
たまには「こっち」とか言っても私は嬉しいんだけどな…だから聞いてるっていうのに。
「たまには選んで欲しいんだけど…」
「じゃあこっち」
「いや早くない?」
「だって選べって言ったのそっちでしょ」
「いやそうですけど…ならいつもこんな感じて言ってくれれば私だって困んないの」
するとこちらを見つめていた猫目な彼がそっぽを向いてぼそぼそ言った。
「だって…」
「だって?」
「アンタの服も、俺が決めたら、俺の好きなようにしすぎちゃうから」
「は」
え?さすがにツンからのデレは無理…じゃなくて!
なんだこの可愛い男は!!!
要約すると、自分が好きなようにしたら彼女の自由が効かなくなってしまうことを恐れていた、ということらしい。可愛すぎんだろ…
「私が選んで欲しいから聞いてるんだよ」
「そうしたらほんとに俺の好みになるけどいいわけ?」
「そりゃもちろん!逆に私以外にそんなことしたらぶん殴るからね」
「アンタのパンチ弱いけどね」
「口答えしないの」
彼のやさしい嘘は今日から正直に変わりました。
20250124 【やさしい嘘】
前々作に書いた地学部の二人です
これだけでも読めますが、両方読んだ方がより楽しめるかと思います
結末は想像にお任せします
───
「私、いいんですか?」
「君が、いいんだよ」
私を見据えているこの方は、私がひょんなことで入部した地学部の先輩。
私のことが好きらしい。
私は最初ちょっかいをかけてくることに対して(申し訳ないが)鬱陶しいと思っていたけど、日に日に増すアプローチにころっと落ちて今、ここにいる。
つまり、私は先輩のことが好きになってしまった。
でもこの事実は先輩は知らない。
この気持ちを伝えたら、なんて言うかな。泣いたらちょっと引くかもしれない。
現時点、先輩は私が先輩を方位磁針代わりにしていい───人生の指針と言えばいいか───と言われた。いきなりそんな重いことを言われても困るので、とりあえず質問した、という流れである。
「───ぞんざいに扱うかもしれないですけど」
「物を雑に扱うのは良くないよ?」
「ぞんざいに扱うのは先輩の方です」
「なおさらひどいよそれ」
───なんて返せばいいか。
私の気持ちを伝えるチャンスなんてもうこれから無いかもしれない。
事実、先輩は引退間近なのだ。先延ばししてもいいことはないだろう。
女は度胸!もう一思いに言ってしまおう!!
「っ、あの、」
「?なに急に。僕のこと好きになっちゃった?」
「は?なんでそんなムードのかけらもないこと言うんですか」
「え、ごめんね?あと先輩にそんな口答えは良くないんじゃないかな?」
「すみません」
「で、どうしたの?」
正直、言う気を無くしそうだ。
なんでこんな人を好きになってしまったんだ?私。
「はぁーーーーーー」
「え、ほんとにごめんね、何がしたいの君は?あとムードって何?そういう空気だった?」
「いえ、私のタイミングがトンチンカンでした」
「えと、大丈夫なんだけど…何か言いたいことでも…?」
「はぁーーーーーー!」
「え、だから何、怖いんだけど」
覚悟を決めなおした私は、先輩の顔を見つめる。
…恥ずかしくて軽く死にそう。
目を閉じれば何とか言える気がする。
夜空の下、瞳をとじて、今。
「私、先輩のこと───」
20250123 【瞳をとじて】
「はい、これ」
「ありがと」
委員会で隣になった男の子兼私の想い人が消しゴムを忘れた。
それを見た私は消しゴムを貸した。
ただそれだけの事。
貸した時に「手きれいだな…」って思ったのは内緒。
──────
委員会終了後、
「…はい」
「?あぁ、ありがと」
…返してもらったはいいものの、目が合わない。どうしたんだ急に。どことなく気まずい。
返してくれた消しゴムを見ると、丸くなってるところにボールペンで
「一緒に帰ろ」
と。
彼は気持ちを形にしてくれたのだ。
私は形のない贈り物をしても、彼に受け取ってもらえるだろうか。
(こんなの消えちゃうとこに書かれちゃ、この消しゴムもう使えないじゃん…)
20250122 【あなたへの贈り物】