学生から大人にかけて
関係性の名前について考える。
───
「…僕と、付き合ってください」
頬が血色を帯びながら私に伝えてくれた言葉。
この時を忘れたことは一度もない。
かくいう私も目に涙をためながら「はい」と答えたのも今となってはいい思い出である。
───
今日は彼が単身赴任で帰ってくる日。
彼に夜ご飯何がいい?と聞いたら「え、いいの」と喜んでる顔が目に見えるような声で言った後、「和食がいいかも」と言ってきたので気合いを入れて作ってみた。
気合入れすぎって思われたら恥ずかしい…
───
…ん?
時計の時刻は二十一時。
予定は二十時だったはずだけど、彼の姿は見えない。
ご飯も冷めちゃったかな…帰ってくるのって今日であってるよね…?
もう帰ってこなかったらどうしよう。
そう思うとだんだん涙が目に浮かんできた。
その時、玄関で物音がした、気がした。
「───っただいま!」
頭が回らず、何も言えない。というか、こんな顔見られたら恥ずかしすぎる。
「遅れてごめんね」
ズサーーっと音がするように私の前に来たと思えば即下がる彼の頭。
「…心配したじゃん」
「ごめんなさい」
「ご飯多分冷めちゃったし」
「後でみんな食べるよ」
…後で、ってなんだ?
それに、なんだか彼がほんの少しだけいつもよりドギマギしているように見える。
「えーっと…何かあったの?大変だっただろうし、話ならいくらでも…」
「じゃあとりあえずここ来てほしいな」
「…?」
彼の言うここ、というのは我が家のソファで、彼の座っている位置の隣。
言われるがまま、位置につく。
「まず──今日の約束の時間に遅れてごめんなさい。たくさん準備してくれたのに」
「仕方ないことだよ。忙しかった?」
「えーと…そういう訳では無いけど、忙しかったよ」
「?」
良くない想像が広がる。
「そういうこと」はしないと信じているけど、不安は拭いきれなかった。
いろんな意味で心臓の鼓動が早まるのを感じる私に対して、彼は体をこちらに向ける。
「僕は、こうやって自分の恋人に心配や迷惑をかけるような人間だけど」
「うんそうだね」
「ちょっとは否定して?」
「事実だし」
「そうだけど…、で、そんな人間だけど、僕は君を幸せにしたいっていう気持ちは誰よりも強いんだよ」
この流れ、私も感の悪い女じゃないから何となく分かった。予想で来た瞬間、本当かはまだ分からないのに、体は涙を溜める準備をはじめていた。
「だから」
僕と、結婚してください。
そういって出てきた、小さな箱に入る一際輝く指輪。
この景色、付き合った時と似てるなぁ。
あの時と同じように、私は「はい」と答えた。
関係性の名前が変わっても、私たちの関係は終わりを知ることはなかった。
───おまけ───
「ご飯食べよ?」
「こんな泣いてんのにご飯食べろなんて言うの?」
「僕のために作ってくれたご飯、食べさせてよ。奥さん?」
「はいはい分かりましたよ、旦那さん?」
20250125 【終わらない物語】
1/26/2025, 3:13:01 AM