学生の話
季節的情感がないのはご承知おきを。
あなたの事を、見て知りたい。
───
「あっつ〜…」
「日本の夏暑すぎでしょ」
「外国と比べるとやっぱそうなんだね」
まぁね、と呟く隣の彼は、近所に住む2つ下の男の子。
3年ほど海外にいたが、この夏休みが終わってから私と同じ学校に通い始めるらしい。
家が近かったこともあり、顔見知りになったという流れだ。
私は家の近くを走っていた彼に(恥ずかしいが)一目惚れしてから、暑い日本の夏に耐えながら彼のロードワークに付き合うようになった。
実際私も部活上、体づくりしないとなぁなんて思ってたし、一石二鳥と言ったところか。
「ねぇ、そこの公園で休憩しない?」
「さすがにしないと倒れるでしょ」
そう言って木陰の下にベンチがある公園に入る。
久しぶりに来たけど、遊具がなんだか小さく感じた。
「ひぃ〜疲れたぁ」
「この暑さの中でも走るとか、先輩も物好きなんスね」
「いや、うん、まぁね…」
下心がバレないように必死に会話を繋げる。
外国ってどんな感じなの、とかは会った時に聞きすぎちゃってるから、最近はテレビの話とか、そんなの。
「あ」
「どうしたんスか?」
「ちょっとあそこの水道で顔だけ洗ってきてもいい?汗だらけで気持ち悪くって」
「なら俺も行く」
足を振り上げるように立ち上がった彼は、私と身長は変わらない。ちょっとだけ私の方が高いと思うけど。
被っていたキャップを脱いでから、バシャバシャと出てくる水を手で掬い、顔の汗を流す。
暑いのも汗ばんでたのも、これだけでだいぶスッキリした。
「は〜すっきり」
顔をハンカチで拭き、1つしかない水道の場所を空ける。
「めっちゃ気持ちいいよ」
そう言ってから彼の顔を見上げてみると、彼は何も言わずに水道の蛇口を捻った。
バシャバシャと音を立てる水より、彼のなんとも言えない顔が気になった。
元より、彼は表情があまり変わるタイプでは無い。
何を考えているのか分からないから、少し心配になった。どうしたんだろうか。
「───ほんとだ、スッキリする」
でしょ、と言いたかった。
彼の顔をパッと見ると、水と汗が滴った髪に暑さのせいか少し紅潮した頬が見えた。
あまりのかっこよさに、言葉が出ない。
固まる私に、彼ははぁ、と息をついた。
何も言えなかった私に愛想をつかれてしまったのだろうか。
「え、あ、えと」
「わかったでしょ」
どこから弁解すればいいのか、と下を向いて混乱する頭を必死にフル回転していると、私の足元に影が出来ていた。
「…これ被ってて」
頭に被せられてつばをぐっと下げられたキャップは、私の頭の大きさより一回り大きかった。
顔を上げて彼の顔を見ると、私のキャップで顔を隠していてよく見えない。
私たちの夏は、気温以上に暑くなる予感がした。
───おまけ───
「ねぇ私のキャップ返してよ」
「…先輩の頭って俺よりちっさいんスね」
「うるさいな」
「じゃあ帰りも俺に着いてこれたら返すんで」
「なにそれ…って、置いてくな!待て〜!」
20250128 【帽子かぶって】
1/28/2025, 11:36:14 AM