【この道の先に】
ある時は敷かれた道の上は棘だらけで
ある時は目隠しされて前を見失って
ある時は背中を的にされて
ある時は持ち物を全て捨てろと門番に言われ
ある時はとおせんぼされて遠回りをさせられて
もはや道を歩いているかさえ怪しくて
あの時にきみが見つけてくれなくちゃ
きっと周りに唆されるまま
崖の向こうへ続く見えない道を進んでしまってた
僕を突き落とそうとしたみんなはもういなくなって
どの場所を歩いて行ったかもわからないし
みんなが道と呼ぶものが僕には見えないけど
きみと手を繋いだ時に感じた方向にただ進んできた
この道の先に
きみが存在し続ける未来を創っていくために
2024-07-03
【日差し】
はじまりは真っ白な紙だった
そこにきみから教わった言葉を
きみに許してもらった言葉を書き連ねて
そんな日々が重なっていつの間にか分厚くなった
出会ったばかりの頃の紙なんて
気が付いたら日差しで焼けて茶色くなってた
偶に見返して”こんなこともあったね”って笑って
そんな風に年を取れたら
何年経っても変わらない姿のきみに
何か残せるだろうか
今日も暖かな陽だまりをくれるきみの横で
いつか日焼ける今日を思って
真っ白な紙に綴るきみと僕のこと
2024-07-02
【窓越しに見えるのは】
生まれつき視力が弱かった
目に映る全部の輪郭がぼやけて
代わりに見えちゃいけないものが見えてしまって
何にも信じられなくなった
与えられてすらいない窓枠をのぞき込んで息をのんだ
見えている世界が違うのだ
のぞき込んだ世界の青さに目をやられて
自分のいた場所に戻ろうとしたのに
頭の中に勝手に流れ来て止まらない
窓枠は僕にまとわりついて
視野を矯正しようと目に情景を焼き付ける
いつの間にか踏み外していた白線の上も
難なく歩けるようになってしまった
でもこの窓越しに見える綺麗な世界は
本当の僕の世界でないことだって知ってるんだ
だから「きっとこれは夢だ。永遠に醒めない、君と会えた、そんな夢」
2024-07-01
【赤い糸】
数秒の出来事
なのに焼き付いて離れない
僕はただの大勢の中の1人でしかなかった
それなのにきみは”僕に会えてうれしい”と言う
世界でふたりぼっちだってきみが寄り添うから
小指を絡めて約束をした
お互いの壁越しの細い細い糸が繋がれる
きっとすぐに切れてしまう
どうしてもそんなノイズが入るけど
でも、少なからず僕から千切ることは無いんだろう
今でも瞼の裏側に焼き付けたメロディーがあるから
2024-06-30
【入道雲】
夏の匂いが少しした
土砂降りの雨が通り過ぎた後のこと
調子外れの鼻歌まじりにきみが旅に誘ってくる
退屈に揺れるカーテンが今日は
どこまでも行ける翼のようで
突発的な言動はいつものきみのこと
仕方ないなと立ち上がり重い荷物を持ち上げる
どうしてか不服そうな顔をするきみに
手を引かれて家を飛び出す
気が付けば海のすぐ近くまでやってきていた
僕の荷物からおもむろに古びたカメラを取り出して
「笑って」なんて言ってくる
きみに教えてもらったものの、
未だにぎこちない苦笑いが写し出される
波に反射した光が眩しいなんて思えるほど
世界は鮮明になっていく
今ここに君と居た証として残るならいいかと
また楽しそうなきみに手を引かれる
いつの間にか肩が軽くなった気がするけど
ついていくのにやっとで
荷物のことなんて確認していられない
また次の場所に着いた時に考えればいいやと
きみの背中を追いかける
イヤホンを流れる無色透明な光の粒が
景色に灯りを灯していく
僕ら以外の音が聞こえない
遠い場所までやってきていたようだ
一息つきたくて背負っていたリュックを触る
中身が入りきれずにあふれ出して
留め具が壊れていたリュック
肝心な中にあったものの跡形は
何一つ無くなって底が見えるほど
落としてきてしまったのかと慌ててきみを見ると
いたずらっこの笑顔が満開だった
その首元には僕のカメラ
苦笑いで返す僕が言葉を見つけるよりも前に
『これでようやくきみだけの言葉が聞ける』
『きみが見てきたものも受けた言葉も全てボクが持ってるから』
『こんな誰かから押し付けられたもの捨ててしまっていいんだよ』
『大事なものは最初からキミの中に』
揺れるカーテンが頬をくすぐって目を覚ました
晴天の空の下、何よりも光を集めているきみが
僕に笑いかけるユメ
僕が子供だったころに突然に旅に連れ出された時のユメ
どれくらい時が過ぎたって僕が大事に持っている思い出
いつまでだって僕はあの入道雲を追いかけるだろう
2024-06-29