【137,お題:心と心】
心と心を通わせる
決して簡単じゃない事だけど
それが出来たときにはきっと
永遠の絆が芽生えるだろう
【136,お題:何でもないフリ】
私のクラスにはいじめがあった。
最初は転校生の子、髪をツインテールにした綿菓子みたいにふわふわの女の子
その子は仲良くしようと頑張ってたけど、1ヶ月経った辺りから学校に来なくなって
そのしばらく後に、転校したって知らせが入った。
次のターゲットは、クラスで一番頭の良かった男の子
テストがいつも満点で、ちょっと話が長いけどクールで優しい子
その子は日に日に痣が増えてきて、先生に相談したみたいだけど全然いじめは止まなくて
数か月後、やっぱり学校に来なくなった。
止めろって思われるかもしれない、見て見ぬふりはダメだって
でも私は正義のヒーローじゃない、皆が皆人を助けられる器じゃない
私の船は1人乗りで、あと1人乗せたら沈むかもしれない
そんなリスクを抱えてまで誰かを救えるほど、私は出来た人間じゃないの
でもきっと、私はどこかで安心してたんだ
そういうものだって何でもないフリして、いつしかそれが当たり前になって
だからこれは、私への罰だ
「......えっ.........」
机に置かれたのは百合の花の花瓶
真っ白い紙に『ご愁傷様です。』と書かれたメッセージカードが添えてある
「なに...これ?......ねえ、みんな...?」
何で?昨日まで別の子だったでしょう?どうして急に...
クスクス嗤う子、気まずそうに目をそらす子
......前の私みたいに、塀の向こうの出来事だと、ただに日常の1部としか見てない子
そっか...こんな気分だったんだ...
見ないフリしてた手前、助けてなんて言えない
誰も助けてくれない、誰も止めてくれない、永遠にも思える絶望感
これが私への罰か
静かに鞄を開け、これがこれからの日常なんだと
何でもないフリをしながら呟いた。
【135,お題:仲間】
仲間って言うのは、他人以上友人未満みたいな関係を指すもので
俺とアンタの関係も、どんなものかと聞かれたら「仲間だ」と言うに等しいと
そう思っていたんだ
アンタはいっつも呑気でだらしなくて楽観的な奴だったな、原稿の提出期限だってちゃんと守る方が少なかった
俺が原稿書いてるときだって、横から後ろから「ゲームしよう」だとか「ねぇ暇なんだけどー」とか...
うるさい、と怒鳴って席を立つと、きゃあきゃあ言いながら走って逃げて
まるで同い年じゃなくて、5歳児か、話の通じないペットと生活しているような気分だったよ
うるさいし、邪魔ばっかりするし、いたずらやドッキリ...
金遣いは荒いし、酒癖も悪い。後先考えずに突っ走るし、それに俺を巻き込むし
だから急に居なくなった時も、いつもの浮浪癖だと思ったんだ
コーン...コーン...コーン...
「この度はご愁傷様でございます。謹んでお悔やみ申し上げます。」
そう挨拶した時、アイツの母親は泣きながらも
「あの子と仲良くしてくれてありがとう」と繰り返し言っていた
「...俺を呼んで良かったんですか?特に接点もない、他人ですよ?」
「いいのよ...あの子と一番仲が良かったのは、貴方だもの」
「そう...ですか、」
大量の花と共に棺に収まったアイツの姿を見た、その姿はとても"らしくなくて"
もしかしたら全てドッキリで、いまにも起き上がって「騙されたーw」と愉快に笑うのではないか
そう思ったが、手に少し触れたとき、もうすでに人の温度ではなくて漠然とした虚無感があった
「なんで、コイツ死んだんすかね」
誰に聞かせるつもりもなく、小さく呟く
「アンタ、なんで死んだ?」
別に死んだのが悲しいとか寂しいとか、死んでほしくなかったという執着があったわけじゃない
死ぬときは死ぬんだし、訃報を聞いた時も「そうなのか」くらいにしか思わなかった、だが
「変な感じだ」
少なくとも、俺よりは生きるだろうと思っていた。こんなに早く死ぬとは思わなかった
アイツの母親は、「あの子と一番仲が良かったのは貴方だ」と言っていた
そうだっただろうか、本当に俺とアイツは仲が良かったのか
でもまあ、そうか
「仲間」なら、はいそうですか。で終わるもんな
こうして葬儀にも来て、俺はちゃんと悲しくなっている
「死ぬ時くらい連絡しろよ」
ようやく俺達は、対等な友人になれたのかもしれない
【134,お題:手を繋いで】
「うわっ!?」
ドタドタドタっ
「え、ちょ!?は?」
勢いよく階段を踏み外し、僕は数メートル下まで転がり落ちた
少し前を歩いていた君は、驚いて裏返った声で叫びながら慌てて階段を下ってくる
「いったぁ~い」
「いやアンタ...大丈夫なの...?」
「うんまあね、これが初めてじゃないし~」
手をぐっぱして、正常に動くか確認
足も触ってみたけど折れてなさそうだし、ちゃんと受け身取れたっぽいかなぁ
一方君の方は、本当に理解できないと言ったような顔で「は?」やら「え?」やら繰り返してる
まあ、いきなり同級生が階段から落っこちたらそうなるか
「初めてじゃない?...ってことはアンタもしかして」
「あ、うん、結構よく落ちちゃうんだよね、やっぱ段差は見にくくてさぁ」
はあ...?と心底呆れたような顔で溜め息をつく君
僕は生まれつき目がちゃんと見えない、眼鏡とかで補助してなんとか1人で行動出来るレベルにはなったけど
物との距離感を掴むのが特に苦手で、こうしてよく階段を踏み外したり、物にぶつかったりする
そのせいで打撲や擦り傷、酷い時には捻挫骨折が絶えない
「アンタ危ないから外に出んのやめたら?」
「それはよく言われるけど、...それだと障害者だって、皆とは違うって言われてるみたいで嫌なんだよね」
僕だって皆同じ人間なんだ、心配してくれるのは嬉しいけど、それが必ずしも僕のためになるとは限らない
君は、わがままなんだから、と呆れたように呟いてスッと手を差し出した
「はぁ、じゃあ手貸して」
「手?」
「そ、手繋いでおけば少しは怪我が減るでしょ?」
ほら手、と当たり前のように差し出してくれる
僕は嬉しいやら恥ずかしいやら、君いつもは絶対こんなことしないでしょ
「えへへ~、ありがとぉ」
「なに笑ってんのよ...」
君の手を借りて立ち上がる、その手は僕よりも少し温かくて安心できる温度だった
トクトクと心臓がうるさく鳴るのを感じながら、君も同じ気持ちならいいなぁ、とふと思った
【133,お題:ありがとう、ごめんね】
淹れたばかりのコーヒーを片手に、ある部屋の一室へ向かう
ノックし、「入るよ」と声をかけながらドアを開けると、その音に反応したのか
ビクリと肩を揺らしてこちらを振り返る少年の姿があった
「驚かせてしまったかな?すまないね、もう身体は平気かい?」
「...いえ......なんか、すんません...俺、凄い迷惑かけてて...」
少年の身体は、全身包帯で覆われていて痛々しい
どこか物憂げな瞳の奥には、怯えるような光が反射していた
「子供は迷惑かけるのが仕事だろう?なにも謝ることないさ」
コーヒーを1口飲み、少し苦くしすぎたな、と顔をしかめる
その間、突き刺すような視線がじっと向けられていたのは気にしないで置こう、殺意があるわけじゃないんだ
ごほん、とわざとらしく咳払いをすると、またビクリと肩を揺らし少年が怯えたように視線を彷徨わせた
「まあ、希死念慮 自傷癖 脱走癖はちょっと困るけど」
「...!......」
少年がいる部屋は、病室のようなベットが1つ
その他は恐ろしいほどなにもない、窓は板材で塞がれ、壁は全てまっさらな灰色
まるで牢獄のような部屋だ、まあ、こうなったのにも訳がある
この保護した少年が、希死念慮 自傷癖 脱走癖を持っており
少し目を離すと、窓から飛び降りる 腕を咬み裂こうとする 血まみれになって暴れるのだ
少年とは思えない程の馬鹿力で、落ち着かせるのに何度苦労したことか
「なにか、君のことに関係があるのかな?」
「ッ......」
ちょっとデリケートな話題だったか、急に踏み込んでいい内容じゃなかったかもな
分かりやすく動揺した少年は、悲しみとも嬉しさとも嫌悪ともつかない曖昧な表情で
しばらく視線を彷徨わせ、それからぽそっと口にした
「俺は......生きてちゃ駄目なんだ」
「......どうしてそう考えるんだい?」
両腕で身体を抱き抱えるようにしながら、少年は細々と話す
「俺は......人を殺した、......1人じゃない、大勢の人が俺のせいで死んだ。俺が...殺したんだよ」
「......それは、君が悪い訳じゃない」
「...いや俺だよ、......あんた達には感謝してる。ありがとう、でもごめん」
俺は死にたい、その言葉からは到底少年が背負うには重すぎる過去の責任が見て取れた
何もかも受け入れてしまったかのような、死んだ泉のような静かな目
その目の奥には、彼が押し殺した、弱い少年が膝を抱えて泣いている
「死にたがるのは別にいい、でもそれは君の本心かい?」
「......。」
「そうか、君の力は人を救うことだって出来るのに、かい?」
「えっ...」
小さく顔を上げる、それはようやく少年らしい表情だった
「君の力で救われる人がいるかもしれない、そしてそれは君にしか出来ないことかもしれない
......強い力も受け入れてしまえばただの個性さ、力の使い方を学ぼう、死ぬのは別にそれからで構わないだろう」
戸惑ったような顔でこっちを見てくる少年
それはいまにも泣き出してしまいそうな、迷子の子供のような顔で......なんだ、全然普通の子供じゃないか
こういうとき何て言ったらいいのか分からないのか、言葉にならない空気の塊を何度か吐き出して
ようやく喉を震わせた
「......あり...がとう、ございます...迷惑かけてすみません」
「...ごめんなさいは要らないかな」
「...ありがとう...ッ」
「うん、大丈夫だよ」