【133,お題:ありがとう、ごめんね】
淹れたばかりのコーヒーを片手に、ある部屋の一室へ向かう
ノックし、「入るよ」と声をかけながらドアを開けると、その音に反応したのか
ビクリと肩を揺らしてこちらを振り返る少年の姿があった
「驚かせてしまったかな?すまないね、もう身体は平気かい?」
「...いえ......なんか、すんません...俺、凄い迷惑かけてて...」
少年の身体は、全身包帯で覆われていて痛々しい
どこか物憂げな瞳の奥には、怯えるような光が反射していた
「子供は迷惑かけるのが仕事だろう?なにも謝ることないさ」
コーヒーを1口飲み、少し苦くしすぎたな、と顔をしかめる
その間、突き刺すような視線がじっと向けられていたのは気にしないで置こう、殺意があるわけじゃないんだ
ごほん、とわざとらしく咳払いをすると、またビクリと肩を揺らし少年が怯えたように視線を彷徨わせた
「まあ、希死念慮 自傷癖 脱走癖はちょっと困るけど」
「...!......」
少年がいる部屋は、病室のようなベットが1つ
その他は恐ろしいほどなにもない、窓は板材で塞がれ、壁は全てまっさらな灰色
まるで牢獄のような部屋だ、まあ、こうなったのにも訳がある
この保護した少年が、希死念慮 自傷癖 脱走癖を持っており
少し目を離すと、窓から飛び降りる 腕を咬み裂こうとする 血まみれになって暴れるのだ
少年とは思えない程の馬鹿力で、落ち着かせるのに何度苦労したことか
「なにか、君のことに関係があるのかな?」
「ッ......」
ちょっとデリケートな話題だったか、急に踏み込んでいい内容じゃなかったかもな
分かりやすく動揺した少年は、悲しみとも嬉しさとも嫌悪ともつかない曖昧な表情で
しばらく視線を彷徨わせ、それからぽそっと口にした
「俺は......生きてちゃ駄目なんだ」
「......どうしてそう考えるんだい?」
両腕で身体を抱き抱えるようにしながら、少年は細々と話す
「俺は......人を殺した、......1人じゃない、大勢の人が俺のせいで死んだ。俺が...殺したんだよ」
「......それは、君が悪い訳じゃない」
「...いや俺だよ、......あんた達には感謝してる。ありがとう、でもごめん」
俺は死にたい、その言葉からは到底少年が背負うには重すぎる過去の責任が見て取れた
何もかも受け入れてしまったかのような、死んだ泉のような静かな目
その目の奥には、彼が押し殺した、弱い少年が膝を抱えて泣いている
「死にたがるのは別にいい、でもそれは君の本心かい?」
「......。」
「そうか、君の力は人を救うことだって出来るのに、かい?」
「えっ...」
小さく顔を上げる、それはようやく少年らしい表情だった
「君の力で救われる人がいるかもしれない、そしてそれは君にしか出来ないことかもしれない
......強い力も受け入れてしまえばただの個性さ、力の使い方を学ぼう、死ぬのは別にそれからで構わないだろう」
戸惑ったような顔でこっちを見てくる少年
それはいまにも泣き出してしまいそうな、迷子の子供のような顔で......なんだ、全然普通の子供じゃないか
こういうとき何て言ったらいいのか分からないのか、言葉にならない空気の塊を何度か吐き出して
ようやく喉を震わせた
「......あり...がとう、ございます...迷惑かけてすみません」
「...ごめんなさいは要らないかな」
「...ありがとう...ッ」
「うん、大丈夫だよ」
12/8/2023, 2:38:24 PM