今朝、道端で子猫を見つけた。
捨て猫だろうか、近くに転がっていた空の段ボールからそう推測する
目は空いている、足取りもしっかりしている。
いつ頃からここにいたのか分からないが、子猫の体調は安定しているようでひとまず安堵した
警戒させないように、ゆっくり手を出してそっと持ち上げる
たんぽぽの綿毛のように軽くてふわふわなその身体の奥で、しっかりと鼓動する命の重さがあった。
すると、急に地面から足が離れたことに驚いたのか
子猫の身体がぐにゃんと捻れた、落としたら大変だ、いくら猫でもまだ産まれたばかりなのだから
慌てて抱え込むように抱き直すと、逃げる選択肢を潰された子猫は小さな歯で僕の手を噛んだ
「いたっ...!」
子猫だがちゃんと痛かった。
毎年この時期になると、本格的に夏が来たなぁと思う
もう昔ほどはしゃぐことは出来ないけど
まだ自分は短冊を書こうと思えるし、笹に飾る折り紙を折ることが出来る
まだ、夜空に夏の大三角を探せるし、雨の匂いがする夜風を美しいと思える
ああどうか、来年も再来年もこの平凡な幸せが続きますように
いつから物を手放すのを怖がるようになっただろう。
私は物忘れが結構激しい、本とかスマホとか眼鏡とか
よくあると思うけど、話そうとした瞬間何話そうとしたか忘れるやつとか
それくらいなら日常茶飯事だし、物なら何かで代用がきくかもしれない
でも私は、この「覚えていられない」ことに対して人並み以上の恐怖を感じるのだ
それは全ての「覚えていられない」事柄にではなく、「思い出」や「記憶」に限定される。
スマホや眼鏡とは違う、「記憶」には実体がない
実体がないということは、もし忘れた時に手っ取り早く思い出す手段がないのだ
調子に乗ってた、浮かれてた、馬鹿だった。
どうにかなるんじゃないかって、きっかけ一つで全てもとに戻るんじゃないかって
きっと2人を笑顔に出来るような完璧な言葉を、この口から吐けると思っていた
そんなわけないのに
目の前に立って、口を開こうして初めて気付く。声が出ないことに
どうやって話してたっけ、なんて切り出せばいいんだっけ、「凄かった」?「お疲れ~」?
向こうはどう思うかな?変じゃないか?急に話すなんて、どうしたらいい? ...怖い
息が出来ない
スッと熱が冷める感覚がして、冷たい汗が肌を伝って、夢うつつだった目が現実を見る
ああ、最悪だ。
【300,お題:月に願いを】
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