無音

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【134,お題:手を繋いで】

「うわっ!?」

ドタドタドタっ

「え、ちょ!?は?」

勢いよく階段を踏み外し、僕は数メートル下まで転がり落ちた
少し前を歩いていた君は、驚いて裏返った声で叫びながら慌てて階段を下ってくる

「いったぁ~い」

「いやアンタ...大丈夫なの...?」

「うんまあね、これが初めてじゃないし~」

手をぐっぱして、正常に動くか確認
足も触ってみたけど折れてなさそうだし、ちゃんと受け身取れたっぽいかなぁ

一方君の方は、本当に理解できないと言ったような顔で「は?」やら「え?」やら繰り返してる
まあ、いきなり同級生が階段から落っこちたらそうなるか

「初めてじゃない?...ってことはアンタもしかして」

「あ、うん、結構よく落ちちゃうんだよね、やっぱ段差は見にくくてさぁ」

はあ...?と心底呆れたような顔で溜め息をつく君

僕は生まれつき目がちゃんと見えない、眼鏡とかで補助してなんとか1人で行動出来るレベルにはなったけど
物との距離感を掴むのが特に苦手で、こうしてよく階段を踏み外したり、物にぶつかったりする
そのせいで打撲や擦り傷、酷い時には捻挫骨折が絶えない

「アンタ危ないから外に出んのやめたら?」

「それはよく言われるけど、...それだと障害者だって、皆とは違うって言われてるみたいで嫌なんだよね」

僕だって皆同じ人間なんだ、心配してくれるのは嬉しいけど、それが必ずしも僕のためになるとは限らない

君は、わがままなんだから、と呆れたように呟いてスッと手を差し出した

「はぁ、じゃあ手貸して」

「手?」

「そ、手繋いでおけば少しは怪我が減るでしょ?」

ほら手、と当たり前のように差し出してくれる
僕は嬉しいやら恥ずかしいやら、君いつもは絶対こんなことしないでしょ

「えへへ~、ありがとぉ」

「なに笑ってんのよ...」

君の手を借りて立ち上がる、その手は僕よりも少し温かくて安心できる温度だった
トクトクと心臓がうるさく鳴るのを感じながら、君も同じ気持ちならいいなぁ、とふと思った

12/9/2023, 11:20:45 AM