無音

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8/29/2023, 4:15:59 PM

【32,お題:言葉はいらない、ただ・・・】

「そばにいて」

「ぁあ?」

布団に潜った状態で、頭だけだしてこっちを見つめている二つの瞳
口に出した後で、やべっみたいな顔しても遅いぞ。めっちゃ聞こえたから

「何だぁ?寂しいんか?」

「...」

小さくコクンと頷く、マジかよ俺の弟可愛すぎじゃん

「あー、じゃ母さん呼んでくるか?」

「やだ」

「あぁ?」

「にーにがいい」

とたんに鈍器でぶん殴られたような衝撃が走った。
はい可愛い、マジ可愛い、間違いなく俺の弟世界一だわ

わかった側にいるよ、と言うと。えへへ、にぃにといっしょだぁ、とはにかんで見せる弟
可愛い、てか尊い、尊すぎてなんかもう心臓痛い

「んで、どーする?絵本でも読むか?」

「んぅ...」

眠いのか、うとうとしながら必死に目を開けようとしてる。可愛い

結局眠気に抗えず、幸せそうに寝息をたてて寝てしまった

「あーこりゃ仕事はパスだな」

可愛い弟に頼まれちまったからな、側に居てくれって
部下に電話をかけながら、寝てしまった弟の頭をそっと撫でた

間違いなく世界一可愛い俺の弟
コイツの幸せを守るためなら、俺は何でもできる。

8/28/2023, 11:02:52 AM

【31,お題:突然の君の訪問】

ドダドダドダッッッッ!!!!!!!

...今ものすごい音が聞こえた気がする。...気のせいだよな、きっとそうだそう思うことにしy((

ズッシャンドシャンズドドガガガアァァァンンン!!!!!!!

うん、気のせいじゃないなこれ!

手にあった本を机に戻し、急いで地下への階段を3段飛ばしで駆け降りる
なんか、すでに焦げ臭い気がするが...

「おい類!今度は何を爆破した!」

言いながらドアを開け放つ
めちゃくちゃに散乱した機材の真ん中に、煤にまみれた顔がひょっこりと覗いた

「やあ遥くん!今日も実験日和だね!」

「地下室まっ黒こげにしてなに言ってんだよ...」

床だけじゃなく、壁にも天井にも煤が...しかも前より傷が増えてるな
そのうち類に建物ごと壊されそうだ

「まあまあ、そんな難しい顔しないで。今日は良い日になるよ、僕にも君にとってもね」

「良い日?」

「そろそろかな?、3...2...1...」


「うっ!?何でこんなに焦げ臭いんだ...?」

「ゼロ」の声と同時にもう1人の声が重なった。上の階からだ
地下から1階に戻ると、漂う焦げ臭い匂いに鼻を覆っている訪問者がいた。

「駿!?」

あまりに突然の訪問に、何事かと身構えてしまう

「...そんなに構えなくても何もないから安心しろ」

「やあ駿くん、君からなんて珍しいじゃないか」

類が階段を上がってくる
...部屋は片付けたんだろうな?

「来たかったから来た、別に特段用事もない」

「そうかい、じゃあ久しぶりに3人で出かけようじゃないか」

幼馴染みだった俺たち、中学を出てからはみんな疎遠になってしまって
なかなか会えない、会えても3人揃うことができない日々が続いていた

「良いなそれ、鞄とってくるから少し待っててくれ」

長らく使ってなかったショルダーバック、俺の誕生日に2人がくれたものだ
俺も、少し懐かしさを感じるほどには寂しかったんだろう

きつくなったベルトを少し緩めて肩にかけ、スマホと財布を突っ込んで外に飛び出す。
3人で昔そうしたように、横に並んで歩きながら。どこに行くかと話し合う

少年の頃に戻ったような感覚に、なんとなく安堵しながら
俺は石畳の上をほんの少しだけ、スキップしながら歩いた。

8/27/2023, 10:22:56 AM

【30,お題:雨に佇む】

ザアアアアアアアア............

絶え間なく打ち付ける、冷たい雫
いや、雫じゃないなきっとこれは誰かの涙だ。

数多の命あるものたちが流してきた、温かく冷たい涙

ツ...ツタタッ...

雨に濡れたアスファルトの悲しい匂い
いつもよりも暗い街並みを、黒猫が走る

どこに向かおうとしているのか、自分でも分からなかった

ただひたすらに、自分の居場所を探し求める浮浪者。いやこの場合は浮浪猫だろうか

闇が一層濃くなる時間、街灯の明かりが灯り始め夜の始まりを唱え出す。雨はまだ止まない

寒さと空腹に飢えた体が悲鳴を上げる
走り続けてどれくらいだ?すでに足裏の感覚はない
横になって少し休もう、これ以上は死んでしまう

...ガチャ



不意にまばゆい光が黒猫を包む
横たわった体を動かす気力はなく、目だけで相手を睨み付けた

「こんばんは、小さな黒猫さん」

相手の少女は黒猫の精一杯の威嚇に臆することなく
しゃがみこんで背中を撫でた

「お腹空いてるの?ちょっと待っててね」

小さな手にのせられた小さなハムの切れ端
もう片方の手には、ミルクが入ったコップがあった。

「ほら、お食べ」

普段ならば、人間から貰った物など意地でも食べないが
今回ばかりはそうも行かない

ゆっくりと咀嚼するその猫を少女は愛おしそうに眺めた。

雨はまだ止まない

「私ね今日お留守番なの、昨日もその前もお留守番」

ママは私のこと好きじゃないんだって
そうこぼした少女の瞳は、降り続ける雨のように暗く見えた。

「あなたは一緒にいてくれる?」

黒猫は澄んだ瞳でそれを見返す。

まだ雨は止まない、止むまでの間なら一緒にいてもいいだろう

「にーお、うにゃう」

「嬉しい!ありがとう!」

小さな黒い猫は、新しい友達とともに温もりの中に消えた。

8/26/2023, 11:22:25 AM

【29,お題:私の日記帳】

私の日記帳は、あの日からずっと白紙のままだ

あの日、地震が起きた日
黒く唸った海は陸を飲み込み、大地を抉りとった。

保育園にいた私は、母が迎えに来てくれるのを待っていた
ほかの子たちのパパやママが、泣きながら我が子を抱きしめる光景を何回見送ったんだろう

「おかあさん、おそいな......」

ホールの隅っこで膝を抱えうずくまる私を、先生達は何度も励ましに来てくれた
きっとお母さんは道に迷ってるだけなんだよ、と
もう少ししたらお母さんが迎えに来てくれるよ、と

でもきっと、心のどこかでわかってたんだ。信じたくなくて見ないふりを続けていた。
私以外の子が全員居なくなった、ホールには私と先生が3人くらい


結局、最後までお母さんが迎えに来てくれることはなかった。きっとこの先も


あの巨大地震から10年たった。
意外にも町はすぐ活気を取り戻したようだ

私は、ペンを握ったままページの半分以上が白いままの日記帳を眺めていた。

今日こそはなにか書き込もうとペンをとってから1時間
いまだに何も書けず、ペンを持った右手が震えている

書くことがない訳じゃない、むしろたくさんあるほうだ
同じクラスの茜ちゃんが映画に誘ってくれたんだよ。
2組の芹澤くんは絵が凄く上手いんだよ。

書くことはいっぱいあるのに書けない
いまだに母の幻影に囚われたまま

母に買ってもらった茶色いシンプルな表紙の日記帳
「紗奈ったら大人だねぇ~」と笑った母の姿

お母さんとの思い出を、お母さんがいない日々で上書きするのが怖い
もうお母さんは居ない、この事実を受け止めるのが怖い

もしかしたら、ひょっこり帰ってきて
「ただいま紗奈~」って抱きしめてくれるかもしれない

「会いたいよ、お母さん...」

今日も白いままの私の日記帳
お母さんとの温かい思い出の詰まった宝箱
続きに書くことは、『お母さんとまた会えました』で始めたいから。

8/25/2023, 10:41:36 AM

【28,お題:向かい合わせ】

家に居るワンコの話。

私の家のワンコ、“ふうた”は鏡を前にすると挙動がおかしくなる

その...何て言うのかな?
凄く説明しにくいんだけど、、、踊るんだよね...
踊るっていうかそう見えるだけなんだけど

鏡の前に立って、自分が写っているのを確認すると
そのとたんに、はしゃぎ出して手が付けられなくなるの

この前なんか散歩の時間になるまで30分も続けてたんだよ?疲れないのかな?

お父さんが言うには、写った自分を仲間だと思っているらしいけど...私は少し違う気がする

もしかして、ふうたってナルシストなのかな......?

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