【27,お題:やるせない気持ち】
昨日兄が死んだ。
俺は泣けなかった、泣く資格なんて無いと思ったから。
道路で転んだ時、運悪く走ってきた車に跳ねられてそのまま亡くなった兄
みんな事故だって言うけど、俺は知っている。
自殺だ
本当は自殺なんだ兄貴は
少し前に言われた「生まれ変わったら長生きしたいなぁ」って言葉
死ぬ前の日に電話ごしに言われた「俺、明日死ぬんだ」って言葉
俺はなにも言えなくて、ただ黙って話を聞いていた
兄貴は最後に言ったよ
「弱い兄ちゃんでごめんなぁ...颯、お前は長生きしろよ」
じゃあな、って言われて電話が切れた。
あの時かけ直せばよかったんだ、家まで押しかけてやればよかったんだ
「なんで死ぬんだよ、ふざけんなよ」って何時間も問答してやればよかったんだ。
火葬される前の棺に入った兄貴は、なんだか苦しさから解放されたような顔をしていて
どろどろとした感情に任せて棺に花を詰め込むと、さっさとその場から離れた。
兄を止めれなかった俺は、共に悲しんでいい人間ではないと思ったから
葬儀が終わって、家までの道を1人行く
やるせない気持ちに飲まれながら、ふらふらと歩く帰り道
あの時止めればよかった、でもそうしたら兄貴はもっと苦しむことになったっかもしれない
兄が楽になれたならこれでよかったのだろうか?
...でも、なんで。どうして
「俺はそんなに頼りなかったのか?...兄貴」
【25,お題:裏返し】2023/08/22 ※保存を忘れ消滅。
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【26,お題:海へ】
「ねぇ、みんなで海へ行こうよ!」
最初に言い出した奴、絶対許さない。
地図にも載ってないようなクソ山奥のド田舎村をでたのはいつだったか、すでにかれこれ4日ほど歩き続けている。
「ひぃぃ無理だよぉ疲れたぁ、休もうよヒカル~」
「俺も...マジでキツイ、せめてバスとか乗れないか?」
「あーもう誰だよ、歩いて海まで行こうとか言い出した奴~~~!!!」
...お前ら叫ぶ体力があるなら、バス停を探してくれ
現在、俺たち4人は夜明け前の薄暗い町中を歩いていた。
何故こうなったのかって?それは次の通りだ
誰かが海まで歩こうと言い出す→行けるんじゃないかと思い村を飛び出す→現在に至る
なんでOKしてしまったんだあの時の俺よ...
「僕もう無理ぃ...死んじゃうよー」
「...ッあ!お前ら静かにしろ...なんか聞こえないか?」
ザザン...ザバン...
どこかからか、微かに聞こえる奇妙な音
小豆を桶のなかで転がしたときとよく似ている
もしや、と思って顔を見合わせた
「「「「マジか」」」」
誰からとなく走り出した、今までの疲れとか関係ない
目の前に迫ったゴールに俺たちのテンションはMAXに到達した
ちょうど日が昇る、金色の光が降り注ぐ
胸一杯に大きく吸い込んだ潮の香りが鼻を刺した。
「っっいいやったああぁぁっっっ!!!!」
思い切り叫んで、石造りの階段を駆け降りる
慌てて追いかけてくる3人を横目に、俺はリュックを投げ捨て海へ飛び込んだ
冷たい、あとしょっぱい!
「しょっぱ!?マジでしょっぱいじゃん!すげぇーっ」
「しょっぱいっていうか、辛い!」
「っはは!マジで来ちゃったぁ!」
ギャーギャーはしゃぎながら朝焼け色の海を走り回る
初めての海は、見たことない程美しく
そして、潮の味がした。
【24,お題:鳥のように】
僕は生まれつき足がない
正確には膝から下が作られなかったんだって、何が原因なのかは分からないそうだ。
そんな僕には夢がある
一回でいい、たとえ夢でも構わないからパルクールをしてみたい。
自分の足で立って 走って 転びたい。
全身を使いながら、まるで鳥のように空中を駆ける人たち
テレビに映ったその姿は、とてもいきいきとしていて
ベットから動けない僕には、太陽みたいに眩しかった。
僕もあんな風に動けたら...
「やってみたいなぁ、パルクール...」
「パルクールがしたいのか?」
「えっ?」
突如として部屋に入ってきた声
声の方向を探ると、黒く焼けた肌の小柄な少年が立っていた。
「翔くん!?いつの間に遊びに来てたの?」
「さっき来たばっか、てかお前パルクールしたいって」
うわぁ、独り言聞かれちゃった...恥ずかしい
「うんテレビでよく見るんだけど、やっぱ僕には出来ないよね...」
翔くんが何か考え込んじゃった、迷惑だよねこんなこと言って...
「出来るんじゃないか?パルクール」
「へっ?」
「俺の父さん、VRの会社で仕事してんだけどそこの技術使わせてもらえば、擬似体験くらいは出来るぞ」
頼もうか?と翔くんがスマホを出してくれる、当然僕の答えは一択だ。
「ッうん!お願いします!」
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そして当日、翔くんのお父さんや他の大人達がたくさん来て、僕の体に変な機械を着けてくれた
何か聞いても、「体験したほうが早いよ」の一点張り、聞き出すことは出来なかった。
実際に走っている人の映像を僕のほうに送る?らしい、そしてなんと実際に走るのは翔くんなんだって!
最近急に日焼けしたと思ったら、パルクール教室に行ってたらしい。ちょっと羨ましいかな
『ブッ...準備できたか?』
「うん!バッチリだよ!」
今僕の頭には、ゴーグルが付けられている。これを通して翔くんのカメラの映像が僕に送られてくるんだって
『よし、じゃあ行くぞ』
そう言うが早いが、僕の視界が大きく揺れる。
思わず、うわっと声が出た。体に風を感じる。僕、走っているんだ
風を切る音、空気の匂い、縛るのものはなにもない
あぁ、なんて自由なんだろう
そうして長年鳥かごに囚われた小鳥は、その身を踊らせつかの間の自由を目一杯楽しんだ。
「今日はありがとう翔くん!」
「あぁ、喜んでもらえてよかった」
「...翔くん、僕義足にチャレンジしてみるよ」
着けたところで、走れないとずっと避けてきた義足
「それで、僕絶対に走れるようになるから。そしたらその時は僕と一緒にパルクールしようよ」
ぱちぱちと目をしばたいた後、ふっと安心したように翔が笑う
「わかったよ、約束な」
「うん!約束!」
【23,お題:さよならを言う前に】
ガダン...ガタン...
少し軋んだような高い音をたてながら、一両の列車が進む
最新の、というよりは少し昔のSLとかが近しいだろうか?
その中を俺は必死で走っていた。
本来なら絶対ダメな行為だが、今だけ許して欲しい
この電車が終点に着く前に、絶対に会わなきゃいけない奴がいるんだ
ガララッ
これで四両目...居ない、居るのは老人ばかりだ。俺のような若者は別の車両なのだろうか?
ガララッ
五両目...居ない、老人以外もちらほら座っている。なんならおくるみに入った赤ん坊まで居る。俺は少し悲しくなった。
ガララッ
「...ッ!」
居た
真ん中の席に腰かけて、うとうとと船を漕いでいる。
他の乗客は...よし、居ないな
スゥー
「いっつまで寝てんだこの居眠り男ッ!さっさと起きろ馬鹿野郎ッ!」
自分に出せるであろう最大音量の声で、おまけに耳元で叫んでやる
案の定お前はビクッと肩を震わせた後、慌てて立ち上がり転んで額を強打することとなった。いい気味だ
「いっったいな!力也みたいに馬鹿になったらどーすんだよ!」
「んだと!?もう一回言ってみろ!」
「あぁ何度でも言うね、力也のばーか!」
「テメェこのやろう...ここじゃなかったらぶっ飛ばしてるぞ」
イーッと変な顔で威嚇してくるコイツを無視して、向かいの席に座る
コイツのペースに巻き込まれてる場合じゃない
俺の雰囲気に気付いたのか、スッとコイツも大人しくなった。
「お前、何で俺を-」
「わー見て見て力也、星だよ星ー!」
コイツ話を逸らしやがった。
「お前-」
「ねー力也、あの星黄色いよ!あっ向こうは-」
「話を聞けッ!」
ガンッ!
座席に体を叩きつける、ぐっと少しうめいたあと
「何だよ」と言うようにこっちを睨んできた。
「お前、何で俺を助けた。」
あの光景が頭によみがえる、黒い闇 瞳を刺した眩い光線 そして-
ふっと、嫌味っぽく笑うとお前は言う
「なんでって、僕がそうしたかったからだけど?」
「そうじゃねぇ!」
唇を噛み締める、鈍い錆の味がした。
「柊、お前まで死ぬことなかったんだ」
死のうとした、何もかもが灰色だった。死んだら楽になれる
それを信じて実行しようとした。
だけど、
電車に引き殺されてしまおうと、線路に飛び出したその刹那
ドンっと後ろから強い力で突き飛ばされた。
柊は言った。
「死なないで、力也」
「なんで、お前俺のこと嫌いだろ」
なにも感じてないかのような真っ黒な目
俺を見ているようでいて、どこか遠くを見ているような目
いつも見ていたその目が、今だけは凄く恐い
「力也、僕はね。君が嫌いだよ」
じゃあ何でと言おうとして、柊の目線がなにかを堪えるように下を向いている事に気付く
「嫌い、だからだよ。」
次の瞬間、柊はばっと顔を上げニヤっと笑って見せた
「苦しめよ!まだ死なせないから、100歳まで生きるんだよ力也は!」
「...は?んだよ、それ...」
柊がいきなり立ち上がると、電車のドアを開け放った
風が入り込んで、ブワッと強風が吹き付けた
「僕の分もあわせて200歳まで生きろ!早死にしたら許さないからね!」
高らかに、そして誇らしそうに柊が叫ぶ
「それだけなら、別にお前まで死ぬ必要なかっー」
「僕が死んだら、負い目に感じて力也が死ににくくなるでしょ?」
クツクツと笑みを溢す、コイツ本当に性格悪い
「...呪いみたいな奴だなお前は」
柊に腕を引かれる、開いたドアが近付く
「またね力也、死のうとしたら許さないよ」
「ああ、お前の報復は恐いからな」
トンッ...
笑って手を振ったのを最後に、アイツの姿は電車と共に遠くなり消えた。
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「あ、目を覚まされました!大丈夫ですか?2週間寝たままだったんですよ」
白い部屋で目を覚ます。
痛みを堪えて右に首を回したが、隣のベットに人は居なかった。
「...ぁ...」
静かに流れた涙が、シーツを濡らした。
【22,お題:空模様】
空の模様は心の模様 今日の空は雨模様
僕の心も雨模様
悲しい訳じゃない 辛いわけでもない
何故か延々と雨が降る
止まない雫 心の町
いつか雨が上がるまで
僕は袖を濡らしてうずくまる
その時だった
空から伸びる 光の束
まだ雨は降っている それでも空は笑ってる
「なんだよそれ」
瞳を濡らしたまま呟いた
なんでもないのに笑顔が溢れて
声を上げて笑ったのは いつぶりだろう
空の模様は心の模様
空が笑えば 僕の心も笑う
人と空は切っても切り離せない
特別な絆で結ばれている