無音

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【24,お題:鳥のように】

僕は生まれつき足がない

正確には膝から下が作られなかったんだって、何が原因なのかは分からないそうだ。


そんな僕には夢がある
一回でいい、たとえ夢でも構わないからパルクールをしてみたい。
自分の足で立って 走って 転びたい。

全身を使いながら、まるで鳥のように空中を駆ける人たち
テレビに映ったその姿は、とてもいきいきとしていて
ベットから動けない僕には、太陽みたいに眩しかった。

僕もあんな風に動けたら...


「やってみたいなぁ、パルクール...」

「パルクールがしたいのか?」

「えっ?」

突如として部屋に入ってきた声
声の方向を探ると、黒く焼けた肌の小柄な少年が立っていた。

「翔くん!?いつの間に遊びに来てたの?」

「さっき来たばっか、てかお前パルクールしたいって」

うわぁ、独り言聞かれちゃった...恥ずかしい

「うんテレビでよく見るんだけど、やっぱ僕には出来ないよね...」

翔くんが何か考え込んじゃった、迷惑だよねこんなこと言って...

「出来るんじゃないか?パルクール」

「へっ?」

「俺の父さん、VRの会社で仕事してんだけどそこの技術使わせてもらえば、擬似体験くらいは出来るぞ」

頼もうか?と翔くんがスマホを出してくれる、当然僕の答えは一択だ。

「ッうん!お願いします!」

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そして当日、翔くんのお父さんや他の大人達がたくさん来て、僕の体に変な機械を着けてくれた
何か聞いても、「体験したほうが早いよ」の一点張り、聞き出すことは出来なかった。

実際に走っている人の映像を僕のほうに送る?らしい、そしてなんと実際に走るのは翔くんなんだって!
最近急に日焼けしたと思ったら、パルクール教室に行ってたらしい。ちょっと羨ましいかな

『ブッ...準備できたか?』

「うん!バッチリだよ!」

今僕の頭には、ゴーグルが付けられている。これを通して翔くんのカメラの映像が僕に送られてくるんだって

『よし、じゃあ行くぞ』

そう言うが早いが、僕の視界が大きく揺れる。
思わず、うわっと声が出た。体に風を感じる。僕、走っているんだ

風を切る音、空気の匂い、縛るのものはなにもない
あぁ、なんて自由なんだろう

そうして長年鳥かごに囚われた小鳥は、その身を踊らせつかの間の自由を目一杯楽しんだ。


「今日はありがとう翔くん!」

「あぁ、喜んでもらえてよかった」

「...翔くん、僕義足にチャレンジしてみるよ」

着けたところで、走れないとずっと避けてきた義足

「それで、僕絶対に走れるようになるから。そしたらその時は僕と一緒にパルクールしようよ」

ぱちぱちと目をしばたいた後、ふっと安心したように翔が笑う

「わかったよ、約束な」

「うん!約束!」

8/22/2023, 4:44:15 AM