【21,お題:鏡】
人は人を鏡のようにして自分を見るんだって
だから、可愛いって言われたら「自分は可愛いんだ」って思うし
逆に、不細工とかキモいって言われると「自分は不細工でキモい奴なんだ」って思ってしまう
どんなに見ないようにしても、そこら中鏡で囲まれたら嫌でも目に入るし
必死で目を瞑っても、それはそれで不安になって結局見てしまう
そんなときは、自分で鏡を持てばいい
周りの鏡に映った自分じゃなくて、自分の鏡に映る自分を信じてあげよう
そしたら、ほんの少しでも自分を好きになれるかもしれない。
【20,お題:いつまでも捨てられないもの】
いつまでも捨てられないものは、この心です。
まだ、淡くて 柔くて 温かい 子供時代に与えてもらったたくさんの温もりと
いまだ色褪せない思い出を、いっぱいいっぱい詰め込んだ宝石箱
まだ手放すことは出来ません。
みんな大人になる度に、大切なものを失っていく
あんなに優しく、夢や希望を語っていた人が
急に、冷たく固くなる。子供時代の思い出から目を背けるように
そうやって社会に怯え、社会に溺れながら
必死に生きようと、がむしゃらに手をのばす。
大人になるってこういうことなんだ
自分で生きていくために、仕方ないとしても
僕は、この心を捨てれません。
まだ失いたくないものが沢山詰まってる
どうか僕から奪わないで
僕はまだ夢を持ったままの子供でいたい。
傘村トータさんの楽曲、『僕が夢を捨てて大人になるまで』『僕は夢を持ったままの子供でいるだけ』より引用
本当に素敵な曲なので、是非聴いてみて欲しいです。
【19,お題:誇らしさ】
僕の誇れるところってなんだろう?
高校の帰り道、今日はテスト期間だから早めに学校が終わった日だ
「具合が悪い」と嘘をつき部活をサボって
いつもより日が高い通学路を歩きながら、何となく頭に浮かんだ疑問
僕の誇れるところ、強いて言うなら背が平均より少し高いところとか?
でも、背が高い人はいっぱいいるよな...
あ、折り紙の鶴をめちゃくちゃ綺麗に折れるとことか!
でも女子にはもっと綺麗に折れる子がいたっけ...
「僕の...誇れるところ...」
「おーい律!」
ダダダダダッーッと、慌ただしい足音
振り返ると、野球部らしい短く切った短髪に何故かユニホームの姿のままで走ってくる男子がいた。
「あれ龍介?部活あるんじゃないの?」
肩で息をする龍介、学校からここまでだいぶ離れてる気がするけど
...もしかしてぶっ通しで走ってきた?
「ゼェッ...ハァッ...」
「え大丈夫?死なないそれ?」
「ッ...大丈夫だ!毎日鍛えてるからな!」
はははっと太陽のように笑って見せる龍介
さすが野球部、体力の回復スピードがえげつない。もう元気になってるし
「ってか律、具合悪いって聞いたけど平気か?」
「あー部活めんどくてさ...仮病使っただけだよ、全然元気だし大丈夫」
「なんだよー心配したぞー」
僕のために、わざわざ部活を抜けてきたっていうのか
龍介はすでに僕と同じ方向に歩きだしている。
「あれ?部活戻んないの?」
「今から戻っても部活終わってるだろうからなー、俺もサボりだな!」
僕に背を向け歩きだした、龍介の小麦色の肌は活発で明るい雰囲気がある
いつもクラスの中心にいて、ムードメーカーでトラブルメーカー
後輩たちからも慕われてるし、裏表ない性格のため先生からの信頼も厚い
そんなみんなにとっての太陽のような存在である彼の友達が僕のような奴でいいのだろうか
「...龍介」
ふと不安になって、小さく声に出す。
「なんだ?律」
驚くことに、ちゃんと彼は拾ってくれた。
「僕、本当に龍介の友達でいいのかな」
きょとんと数秒首をかしげた後 、「当たり前だろ!」君は言った。
「律は俺のブキヨーなとことか、いつもカバーしてくれるし 頭もいいし 勉強もできるだろ?
俺そーゆーの苦手だからさ、律のことすげーって思ってる。」
それに、と彼は続けた。
「律は俺のことよく気付いてくれるだろ?前の怪我の時も、うまく隠したつもりなのにバレちゃっててビックリしたよ
律は大事な俺の“親友”だ!いつもありがとうな!」
屈託のないよく晴れた青空のような顔で、龍介はニカッと笑った。
なんだよ、勝手に悩んだ僕が馬鹿みたいじゃないか
「僕、龍介が親友でよかったよ」
夕焼けの河川敷を二人でのんびり歩く。
間違いない、僕の誇れるところは
龍介っていう親友と出会えたことだ。
【18,お題:夜の海】
海中から見た月は丸くない。海面が揺れるせいで、ぐにゃりふにゃりと気まぐれに形を変える。
それは今のオレのようで、馬鹿みたいに生きることに必死になって、目標一つも掲げられないオレみたいで...
風にあおられて高くなった波が、誰も知らないうちにオレの存在ごとさらってくれたらいいのに。
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オレって変わり者なんだって
いつだったか誰かに言われた「お前って変な奴だよな」って言葉
言われた時はなんとも思わなかったし、なんなら謝るまで追っかけ回してやったけど
今思い返すと、胸の奥辺りが痛い。
...確かに変なのかもしれない、他の人魚たちと違ってオレ小さいし
好き嫌いするからだってみんな言うけど、仕方ないじゃん 食べることってすっげー退屈だしめんどーなんだから
でも、やっぱりなんか......なんか、痛い。
夜の海は青くない、そもそも海は青いとか言い出した人間は馬鹿なんだと思う。
海面から頭だけ出してぼんやりと虚空を眺める。海水が目に入ったのか、月がひどく歪んで見えた。
夜の海は黒い、黒くて広くて死の匂いがする。
知ってる?海の匂いって生き物が死んだ匂いなんだって、誰かが言ってたなぁ...思い出せないけど
...........ポチャン...
「なに見てんの?盗み見?」
ビクリと気配がはねる、オレは耳も目も良いほうだし
そもそも夜の海ってすごく静かだ、バレないように近付くほうが難しい
おもむろにオレの後ろの海面から誰かが顔を出した。
「あの、聞き耳立てるようなことしてすみません...決して悪気があった訳じゃないんです」
「悪気ねぇならなんで聞き耳立ててんの?趣味悪~」
吐き捨てるように言う、そういえばこいつ誰だっけ
金色の瞳に整った顔立ち、どっかであったような気がしなくもないが
「すみません...貴方が1人で群れを抜けていったので気になって...」
「はあっ!?そんな前からつけてきてんの?悪気あんだろそれ!」
しばしの沈黙、波打つ海面の音だけが静かに響いた。
「貴方は...」
沈黙を先に破ったのは向こうだった
「貴方は、何故ここに?」
「...知らない、来たかったから来た。そんだけ」
ふむ、とそいつが口許に手を持っていって考え込むような素振りを見せた後、また沈黙が場を支配する。
なんとなくもう一度空を見上げた、月は雲に隠れて見えない
波が高くなっている気もするし、もしかしたら嵐が来るのかもしれない。
「お前さぁ、なんでオレについてきたの?」
今度はこっちから沈黙を破った。
「?強いて言うなら、面白そうだったからでしょうか?」
「...あっそ」
「貴方と居たらなにか面白いものが見れる、そんな気がしたんです。」
波の高さが増す、これ以上ここに居たら危険だと本能が警告音を鳴らしている
...オレは動かなかった。
高波に飲まれたら大人の人魚でも死ぬって言われてる。少し気になっていた、飲まれたらどうなるのか
死ぬかもしれない、でも別にそれでもいっか...
「お前、戻んないの?」
いよいよ海が荒れだす、勢いよく雨粒が叩きつけられた。このままとどまるのは危険だ。
しかし、目の前のコイツは動かない。
「戻る?何故?」
「あぶねーじゃん」
「貴方だって戻る気ないんでしょう?同じですよ」
雨の勢いが増した、海の天気は変わりやすい。オレらを飲み込もうと牙を向く黒い海
怖さはない、たださっきから身体の自由がきかない、上下左右滅茶苦茶に引きずられている感覚があった。
あ、オレ飲まれたんだな。
目が回る、全身のあらゆる所に変な力が入って苦しい、死ぬかもな、オレ。
ぼんやりと意識が遠退きそうになりながら、考えていると
...ゴボッ...ドボン!
いきなり腹に手を回されて、強い力で引っ張られた
「下に向かって泳いで!早くッ!」
言われるがままヒレを動かし水を蹴る、無我夢中で泳いでいるとフッと波の勢いが途切れて身体に自由が戻った。
「クッ...ふふっ、あはははっ」
笑い声に顔を向けると、堪えきれないと言うように笑うアイツの姿があった
「なに笑ってんの」
「ふふっ、すみません...ッ」
呆れながらも、つられて少し笑ってしまった。そういえば笑ったの久しぶりかもしんねーなぁ...
「やっぱり貴方面白いですね」
笑い疲れたのか、呼吸を整えながらお前が言う
「僕は、カイルっていいます。認知されているかわからないけれど、一応貴方とは兄弟ですよ。」
「オレは、シアン」
「よろしくお願いしますね、シアン」
「...ふはっ、なにそれすっげー堅苦しい挨拶じゃん」
馬鹿真面目に差し出される右手が、なんか面白くて
その手をしっかり握って、群れへと戻った
場所が海中でよかった、陸だと涙は下に落ちるらしいから。
【17,お題:自転車に乗って】
オレの家は、家族仲があまり良くなかった。
いつも家の中はギスギスしていて、家族みんなで食卓を囲んだことなんて片手で数えるほどしかない。
そんな重苦しい雰囲気に、4兄弟の末っ子に生まれたオレが耐えられるはずもなく...
初めての家出は、小学3年生の時だった。
両親が大喧嘩して、父が食卓の机をひっくり返した時
恐怖に勝てなくなったオレは、玄関に走り外へ飛び出した。
庭にあった時自転車をつかんで飛び乗り、思い切りペダルを踏む
家の横が坂道なこともあって、自転車はすぐ加速しあっという間に家が見えなくなった。
とにかく遠い場所に行きたくて、がむしゃらに自転車を漕いで 漕いで 漕いで
疲れて足が上手く回らなくなってはじめて、オレは自転車を止めた。
夕暮れ時、涼しい風が肌を撫でていく
疲れきって、起き上がる気力すら残ってなかったオレは
草むらに仰向けに寝っ転がりながら、空を眺めていた。
「ふっ...あっはははっ!」
無性に笑いがあふれて止まらない
「はははっ!馬鹿だなぁ、オレは!」
世界はこんなに広かったんだ、少しの勇気さえあればどこにだって行けるんだ
家族の怒鳴り声が怖くて、風呂場に逃げ込み震えていた自分に言ってやりたい
世界はこんなにも広くて美しいんだって
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当時小3だったオレは、あのあと家出少年として警察に保護され
発見場所から16kmも離れた自宅に、強制送還された。
小3で16kmも自転車で漕ぐなんて大したものだと今になっても思う。
現在オレは新聞配達のアルバイトをしながら、趣味であるサイクリングに勤しんでいる。
初めて家出をしたときから、自転車はオレにとって最高の相棒だ
今でも休みがとれると、自転車に乗って当てもない旅に出ることがある
行った先々で、いろんな人々や生き物、景色に出会えることがオレにとっての最高の幸せだ。