無音

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【17,お題:自転車に乗って】

オレの家は、家族仲があまり良くなかった。
いつも家の中はギスギスしていて、家族みんなで食卓を囲んだことなんて片手で数えるほどしかない。
そんな重苦しい雰囲気に、4兄弟の末っ子に生まれたオレが耐えられるはずもなく...


初めての家出は、小学3年生の時だった。
両親が大喧嘩して、父が食卓の机をひっくり返した時
恐怖に勝てなくなったオレは、玄関に走り外へ飛び出した。

庭にあった時自転車をつかんで飛び乗り、思い切りペダルを踏む
家の横が坂道なこともあって、自転車はすぐ加速しあっという間に家が見えなくなった。

とにかく遠い場所に行きたくて、がむしゃらに自転車を漕いで 漕いで 漕いで
疲れて足が上手く回らなくなってはじめて、オレは自転車を止めた。



夕暮れ時、涼しい風が肌を撫でていく
疲れきって、起き上がる気力すら残ってなかったオレは
草むらに仰向けに寝っ転がりながら、空を眺めていた。

「ふっ...あっはははっ!」

無性に笑いがあふれて止まらない

「はははっ!馬鹿だなぁ、オレは!」

世界はこんなに広かったんだ、少しの勇気さえあればどこにだって行けるんだ
家族の怒鳴り声が怖くて、風呂場に逃げ込み震えていた自分に言ってやりたい

世界はこんなにも広くて美しいんだって

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当時小3だったオレは、あのあと家出少年として警察に保護され
発見場所から16kmも離れた自宅に、強制送還された。
小3で16kmも自転車で漕ぐなんて大したものだと今になっても思う。

現在オレは新聞配達のアルバイトをしながら、趣味であるサイクリングに勤しんでいる。

初めて家出をしたときから、自転車はオレにとって最高の相棒だ
今でも休みがとれると、自転車に乗って当てもない旅に出ることがある

行った先々で、いろんな人々や生き物、景色に出会えることがオレにとっての最高の幸せだ。


8/14/2023, 1:13:36 PM