無音

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8/13/2023, 12:04:28 PM

【16,お題:心の健康】

心の傷が視える人に会ったことがある。

どんな風に視えるのかと聞くと、彼は「人による」と答えた。

「丸くくり貫かれたような人もいるし、棘みたいなのが無数に刺さってる人もいるよ
僕が視た中で一番すごかったのは、全身滅多刺しで血みたいなのが流れてた人」

他には何か視えるのか?

「んー、僕のこれは霊視じゃないからなぁ...
ユーレイとかも視れたら、霊能力者とか名乗ったりできるんだけどねぇ」

...辛くないのか?

「辛い?別に辛くないよ。視えたところで『この人疲れてんな~』くらいにしか思わないし」

.........

「でもアレだよね、心の健康って大事だよね~、心と体は一心同体!ってよく言うけど
あれね、わりととマジなんだよ視える人から言わせてもらうとね!」

...............

「心の健康は、体の健康に直結します。これメモっときな!」

明るく喋る彼は、気付いてないのだろうか?


ーーー君の心が今にも壊れそうなほど、ボロボロだということに。


僕の目を通して視た君の心は、手で触れられないほど無数の針で多い尽くされていた
ドクドクと苦しげに脈打つ度に、赤い液体が滲み出て命を削っているようだった。

気付いてないわけないんだろう?知ってて目をそらしてるんだろう?

なんで?、とは聞けない。ただ、いつかは話して欲しい


「結城」

「ん?何?」

ニッと笑って語りかける。

「飯行こうぜ、俺が奢るわ」

パアッと君の顔が変わった。

「マジ!ありがとー優真」

日が暮れ出した道を歩きながら思う。

抱え込みすぎないでくれ、話したい時でいい頼ってくれ周りを
お前は、お前が思っている以上に愛されてるよ。






8/12/2023, 11:19:40 AM

【15,お題:君が奏でる音楽】

僕は人じゃない。
黒光りする羽にグゥアァ、ガアとしゃがれた鳴き声
僕はカラスだ。

僕は生まれたときから森の奥深くで、息を殺しながら生活してきた。

その森は、色とりどりのカラフルな鳥たちで溢れかえっていて
綺麗なさえずりや羽の美しさを競いあい、鳥たちはより美しく優美に輝いた。

......いつの間にかこの森では、美しさがすべての基準になっていた。

醜かったり、上品にさえずれなかった鳥たちは次々とこの地を離れた
離れた...と言うより追い出されたんだ、宝石に混じった石ころを摘まみ出すようにして
地味な鳥たちは数を減らし、ついには僕だけになってしまった。

僕は離れなかった。

離れたくなかったんだ。

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薄暗い夜明けの光の中、僕は木のうろにある寝床からこっそり抜け出した。
幸いにも、黒い羽はまだ明けきらない闇に溶け込める
今日は見つからずに出ることが出来そうだ。

木の密集している中を音を立てないようにしばらく歩いて、木が少なくなったところで極力ゆっくり飛び立つ
なだらかな丘を少し飛んだ先に“それ”は見えてきた。

......今日はまだ起きてないな

その小さな家は街から離れた丘の中腹に建っていた。
僕が寝床に石を投げ入れられても、頭から水をかぶせられても、ここから離れようとしない理由がこの家だ。

庭の木にとまって、羽繕いをしながら“その人”を待つ。
少し早く来すぎたかな?そう思い始めたとき

ガラガラガラッ

向かいの窓が開いて女性が顔を出した。
視線が誰かを探すように動き、僕の前でピタリと停止する
その瞬間に彼女の綺麗な顔がほころび、片手を前に出して僕の名を呼ぶ。

「ネーロ!おいでっ」

バサササッ!

木の枝を蹴って飛び立ち、彼女の出された手にのる
僕は彼女のことが大好きだ。

「おはようネーロ、いい朝だねぇ」

グアァガァ(そうだねアリア今日は晴れて良かったよ)

彼女の全部が愛おしい、これまでに何度人間になりたいと思ったことか
彼女の声 笑いかた 話し方 もちろん全てが好きだけど、特に好きなのは

「じゃあ、今日も聞いていてねネーロ」

グァア!(もちろんだよ)

アリアは僕を椅子の上に降ろすと、おもむろに古いグランドピアノの鍵盤に手をのせ
ゆったりと弾き始めた。

遅いテンポでのんびりとした曲調、君の奏でる音に聴き入ってると、ふともう一つ音が重ねられた

「~~~~♪~~~~♪」

音楽に合わせて楽しげに弾む歌声、心からピアノが好きなのが伝わってくる

君の奏でる音楽が僕は大好きだ、心から楽しそうにピアノを弾く君が大好きだ
君が居るから僕はここに居ることができるんだ。

8/11/2023, 10:58:42 AM

【14,お題:麦わら帽子】

「お姉ちゃんはなんで麦わら帽子をかぶってるの?」

少し前に、小さな男の子に言われた言葉。
多分、夏でもないのに麦わら帽子をかぶっている私を不思議に思ったんだろう

「今夏じゃないよ?」

無邪気な質問だ

「これね、私の大切な人がくれたの」

「大切な人?お母さん?」

きょとんと首を傾げる仕草が可愛くて、少し笑みをこぼしながら「違うよ」と答える

「じゃあ、お父さん?」

「それも違うなぁ」

「友達!」

「んー違う」

「お兄ちゃん!」

「ち~がう」

「お姉ちゃん!」

「違うよ~」

うぐぐ、としかめっ面で考え込む男の子
表情がコロコロ変わって愛らしい。

......“あの人”からも私はこう見えていたのだろうか

「わかった!おばあちゃんだ!」

「んー違うなぁ」

「ええー!もうないよぉー」

男の子はむすーっとした顔で下を向いてしまった。

あれ、そういえばこの子

「君、お母さんは?」

「あ」

やっぱり

「もしかして、迷子だったりする?」

「......うん」

不安げな顔で泣きそうになる男の子

「じゃあ、お母さん探そっか私も手伝うよ」

男の子の手を握って、お母さんはどこかなぁ~?と語りかける
ゲームのようなテンションになってきたのか、男の子の表情が少し柔らかくなった気がする。





拝啓 神楽さんへ

あの時私を助けてくれてありがとう
今日、公園で迷子の子供を見つけました
神楽さんにも、あんな風に私が見えていたんですか?
あなたがくれた麦わら帽子、春なのにかぶっていたら「なんで?」って言われちゃったw
今どこに居るんですか?
もし逢えるなら、もう一度話がしたいです。
元気で居てください

                           遥

8/10/2023, 12:28:12 PM

【13,お題:終点】

「悠人、これは...約束...だから」

焼けたゴムとアスファルトの不快な匂い
周りの喧騒に紛れて、サイレンの音が聞こえる
でも、そんな騒がしさすら恐怖で塗りつぶされて感じない

「ッおれの...夢、...叶えてね...」

徐々に温度が抜けていく、顔が青白くて声が震えている
何とか声をだし「うん」と答えると、兄はふっと微笑んだ。

「ッごめん...ありがと...ね」

「...ッうん...」

それっきり兄は喋らなくなった。
背中に回したてが手がじっとりと濡れていて、押さえても滲み出るそれが
兄を向こう側に連れていってしまうようで怖かった。

その後すぐに救急車が到着したが
一時間後、亡くなったと伝えられた。

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俺は今、兄の夢であったアイドルをやっている。
正直人前に立つのは苦手だし、ましてや歌って踊るなんて僕に...俺にとってはかなりの苦痛だった。
でもこれが兄ちゃんの夢なら、自分の歌と踊りで皆を笑顔にするのが兄ちゃんの夢なら
俺はやり遂げて見せるよ。

だから、俺の人生の終点駅で待ってて
ちゃんと叶えたよって報告するまで、まだ時間がかかりそうなんだ
終点でまた合えたら、よくやったねって褒めてほしい。

じゃあそれまで、またね兄ちゃん。

8/9/2023, 2:44:52 PM

【12,お題:上手くいかなくたっていい】

私たちは生まれたときから皆、羽を持って生きている。
大きさも色も形もそれぞれ違って、同じものは誰1人存在しない

私の羽は青色“だった”。

“だった”と過去形にしたのは、今の私の背に羽はないからだ
私の羽は、10年ほど前にちぎられてなくなった。

あれほど痛んだ傷口も、あれほど流れた涙も今となってはなんとも思わない
ただ漠然とした焦燥感に揉まれながら、作業のように毎日を消化していた。


ーそんなある日だった、あの子に出会ったのは。


とっくに終業時間は過ぎてるのに、明かりがつけっぱなしの部屋があったから見に行ったとき
中を覗いたら、1人作業をしている君の姿があった。
真っ先に視線が捉えたのは、君の背に羽があったことだった。

「え、その...羽......」

思わず声が出る、静かだったぶんよく聞こえたみたいで
驚いて振り返った君は、扉の横で棒立ちになっている私を見て二重に驚いていた。

「うわびっくりした!って、センパイ!?何で?」

「いや私、今日当番で...それよりその羽って...」

「......気になります?」

彼女の羽は酷くボロボロだった。

「この羽ねぇ、あたしが作ったんスよ!」

バッと椅子から立ち上がり、両腕を広げてニッと笑う君

「どうッスか?結構上手く出来たつもりなんスけど」

「......」

お世辞にも上手いとは言えない出来だ
骨組みの木は形が揃っていないし、そこに張られた布も所々汚れてるし破れている。

「あはは...やっぱそーゆー反応ッスよねぇ~」

「ぇ...なんで...」

どうして笑えるの?その問いを察したのか彼女は答えてくれた。

「あたしの羽、ちぎれて無くなっちゃったんス。でも、それで終わりって訳じゃないッスよね?
もう一度自分で作り直せば今度こそ飛べる。そう思った次第ッス!」

「まあ、まだ飛ぶのは無理ッスけど」と笑って見せる彼女
その背中の羽は、見たよりもずっと大きく感じた。

「でもッ、出来ても上手く飛べないんじゃ」

「上手くいかなくたっていいんス」

私の声を遮って彼女が言う

「上手くいかなくたっていい、いつか絶対飛べる
それに、こうやってなにかに向けて必死に努力する感覚が、なんか懐かしくって」


またニカッと笑って見せた彼女
ああ、眩しいな。私もそうなれるかな、いつか不格好でも飛べる日が来るだろうか、もしそうなら
彼女のようにもう一度だけ、努力をしても、いいかな......

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