【15,お題:君が奏でる音楽】
僕は人じゃない。
黒光りする羽にグゥアァ、ガアとしゃがれた鳴き声
僕はカラスだ。
僕は生まれたときから森の奥深くで、息を殺しながら生活してきた。
その森は、色とりどりのカラフルな鳥たちで溢れかえっていて
綺麗なさえずりや羽の美しさを競いあい、鳥たちはより美しく優美に輝いた。
......いつの間にかこの森では、美しさがすべての基準になっていた。
醜かったり、上品にさえずれなかった鳥たちは次々とこの地を離れた
離れた...と言うより追い出されたんだ、宝石に混じった石ころを摘まみ出すようにして
地味な鳥たちは数を減らし、ついには僕だけになってしまった。
僕は離れなかった。
離れたくなかったんだ。
------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------
薄暗い夜明けの光の中、僕は木のうろにある寝床からこっそり抜け出した。
幸いにも、黒い羽はまだ明けきらない闇に溶け込める
今日は見つからずに出ることが出来そうだ。
木の密集している中を音を立てないようにしばらく歩いて、木が少なくなったところで極力ゆっくり飛び立つ
なだらかな丘を少し飛んだ先に“それ”は見えてきた。
......今日はまだ起きてないな
その小さな家は街から離れた丘の中腹に建っていた。
僕が寝床に石を投げ入れられても、頭から水をかぶせられても、ここから離れようとしない理由がこの家だ。
庭の木にとまって、羽繕いをしながら“その人”を待つ。
少し早く来すぎたかな?そう思い始めたとき
ガラガラガラッ
向かいの窓が開いて女性が顔を出した。
視線が誰かを探すように動き、僕の前でピタリと停止する
その瞬間に彼女の綺麗な顔がほころび、片手を前に出して僕の名を呼ぶ。
「ネーロ!おいでっ」
バサササッ!
木の枝を蹴って飛び立ち、彼女の出された手にのる
僕は彼女のことが大好きだ。
「おはようネーロ、いい朝だねぇ」
グアァガァ(そうだねアリア今日は晴れて良かったよ)
彼女の全部が愛おしい、これまでに何度人間になりたいと思ったことか
彼女の声 笑いかた 話し方 もちろん全てが好きだけど、特に好きなのは
「じゃあ、今日も聞いていてねネーロ」
グァア!(もちろんだよ)
アリアは僕を椅子の上に降ろすと、おもむろに古いグランドピアノの鍵盤に手をのせ
ゆったりと弾き始めた。
遅いテンポでのんびりとした曲調、君の奏でる音に聴き入ってると、ふともう一つ音が重ねられた
「~~~~♪~~~~♪」
音楽に合わせて楽しげに弾む歌声、心からピアノが好きなのが伝わってくる
君の奏でる音楽が僕は大好きだ、心から楽しそうにピアノを弾く君が大好きだ
君が居るから僕はここに居ることができるんだ。
8/12/2023, 11:19:40 AM