無音

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【18,お題:夜の海】

海中から見た月は丸くない。海面が揺れるせいで、ぐにゃりふにゃりと気まぐれに形を変える。
それは今のオレのようで、馬鹿みたいに生きることに必死になって、目標一つも掲げられないオレみたいで...

風にあおられて高くなった波が、誰も知らないうちにオレの存在ごとさらってくれたらいいのに。

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オレって変わり者なんだって

いつだったか誰かに言われた「お前って変な奴だよな」って言葉
言われた時はなんとも思わなかったし、なんなら謝るまで追っかけ回してやったけど
今思い返すと、胸の奥辺りが痛い。

...確かに変なのかもしれない、他の人魚たちと違ってオレ小さいし
好き嫌いするからだってみんな言うけど、仕方ないじゃん 食べることってすっげー退屈だしめんどーなんだから

でも、やっぱりなんか......なんか、痛い。



夜の海は青くない、そもそも海は青いとか言い出した人間は馬鹿なんだと思う。

海面から頭だけ出してぼんやりと虚空を眺める。海水が目に入ったのか、月がひどく歪んで見えた。

夜の海は黒い、黒くて広くて死の匂いがする。
知ってる?海の匂いって生き物が死んだ匂いなんだって、誰かが言ってたなぁ...思い出せないけど

...........ポチャン...

「なに見てんの?盗み見?」

ビクリと気配がはねる、オレは耳も目も良いほうだし
そもそも夜の海ってすごく静かだ、バレないように近付くほうが難しい

おもむろにオレの後ろの海面から誰かが顔を出した。

「あの、聞き耳立てるようなことしてすみません...決して悪気があった訳じゃないんです」

「悪気ねぇならなんで聞き耳立ててんの?趣味悪~」

吐き捨てるように言う、そういえばこいつ誰だっけ
金色の瞳に整った顔立ち、どっかであったような気がしなくもないが

「すみません...貴方が1人で群れを抜けていったので気になって...」

「はあっ!?そんな前からつけてきてんの?悪気あんだろそれ!」

しばしの沈黙、波打つ海面の音だけが静かに響いた。

「貴方は...」

沈黙を先に破ったのは向こうだった

「貴方は、何故ここに?」

「...知らない、来たかったから来た。そんだけ」

ふむ、とそいつが口許に手を持っていって考え込むような素振りを見せた後、また沈黙が場を支配する。

なんとなくもう一度空を見上げた、月は雲に隠れて見えない
波が高くなっている気もするし、もしかしたら嵐が来るのかもしれない。

「お前さぁ、なんでオレについてきたの?」

今度はこっちから沈黙を破った。

「?強いて言うなら、面白そうだったからでしょうか?」

「...あっそ」

「貴方と居たらなにか面白いものが見れる、そんな気がしたんです。」

波の高さが増す、これ以上ここに居たら危険だと本能が警告音を鳴らしている
...オレは動かなかった。
高波に飲まれたら大人の人魚でも死ぬって言われてる。少し気になっていた、飲まれたらどうなるのか
死ぬかもしれない、でも別にそれでもいっか...

「お前、戻んないの?」

いよいよ海が荒れだす、勢いよく雨粒が叩きつけられた。このままとどまるのは危険だ。
しかし、目の前のコイツは動かない。

「戻る?何故?」

「あぶねーじゃん」

「貴方だって戻る気ないんでしょう?同じですよ」

雨の勢いが増した、海の天気は変わりやすい。オレらを飲み込もうと牙を向く黒い海
怖さはない、たださっきから身体の自由がきかない、上下左右滅茶苦茶に引きずられている感覚があった。

あ、オレ飲まれたんだな。

目が回る、全身のあらゆる所に変な力が入って苦しい、死ぬかもな、オレ。
ぼんやりと意識が遠退きそうになりながら、考えていると

...ゴボッ...ドボン!

いきなり腹に手を回されて、強い力で引っ張られた

「下に向かって泳いで!早くッ!」

言われるがままヒレを動かし水を蹴る、無我夢中で泳いでいるとフッと波の勢いが途切れて身体に自由が戻った。

「クッ...ふふっ、あはははっ」

笑い声に顔を向けると、堪えきれないと言うように笑うアイツの姿があった

「なに笑ってんの」

「ふふっ、すみません...ッ」

呆れながらも、つられて少し笑ってしまった。そういえば笑ったの久しぶりかもしんねーなぁ...

「やっぱり貴方面白いですね」

笑い疲れたのか、呼吸を整えながらお前が言う

「僕は、カイルっていいます。認知されているかわからないけれど、一応貴方とは兄弟ですよ。」

 「オレは、シアン」

「よろしくお願いしますね、シアン」

「...ふはっ、なにそれすっげー堅苦しい挨拶じゃん」

馬鹿真面目に差し出される右手が、なんか面白くて
その手をしっかり握って、群れへと戻った

場所が海中でよかった、陸だと涙は下に落ちるらしいから。

8/15/2023, 3:56:12 PM