無音

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【23,お題:さよならを言う前に】

ガダン...ガタン...

少し軋んだような高い音をたてながら、一両の列車が進む
最新の、というよりは少し昔のSLとかが近しいだろうか?

その中を俺は必死で走っていた。
本来なら絶対ダメな行為だが、今だけ許して欲しい
この電車が終点に着く前に、絶対に会わなきゃいけない奴がいるんだ

ガララッ

これで四両目...居ない、居るのは老人ばかりだ。俺のような若者は別の車両なのだろうか?

ガララッ

五両目...居ない、老人以外もちらほら座っている。なんならおくるみに入った赤ん坊まで居る。俺は少し悲しくなった。

ガララッ

「...ッ!」

居た

真ん中の席に腰かけて、うとうとと船を漕いでいる。

他の乗客は...よし、居ないな

スゥー

「いっつまで寝てんだこの居眠り男ッ!さっさと起きろ馬鹿野郎ッ!」

自分に出せるであろう最大音量の声で、おまけに耳元で叫んでやる

案の定お前はビクッと肩を震わせた後、慌てて立ち上がり転んで額を強打することとなった。いい気味だ

「いっったいな!力也みたいに馬鹿になったらどーすんだよ!」

「んだと!?もう一回言ってみろ!」

「あぁ何度でも言うね、力也のばーか!」

「テメェこのやろう...ここじゃなかったらぶっ飛ばしてるぞ」

イーッと変な顔で威嚇してくるコイツを無視して、向かいの席に座る
コイツのペースに巻き込まれてる場合じゃない
俺の雰囲気に気付いたのか、スッとコイツも大人しくなった。

「お前、何で俺を-」

「わー見て見て力也、星だよ星ー!」

コイツ話を逸らしやがった。

「お前-」

「ねー力也、あの星黄色いよ!あっ向こうは-」

「話を聞けッ!」

ガンッ!

座席に体を叩きつける、ぐっと少しうめいたあと
「何だよ」と言うようにこっちを睨んできた。

「お前、何で俺を助けた。」

あの光景が頭によみがえる、黒い闇 瞳を刺した眩い光線 そして-

ふっと、嫌味っぽく笑うとお前は言う

「なんでって、僕がそうしたかったからだけど?」

「そうじゃねぇ!」

唇を噛み締める、鈍い錆の味がした。

「柊、お前まで死ぬことなかったんだ」



死のうとした、何もかもが灰色だった。死んだら楽になれる
それを信じて実行しようとした。
だけど、

電車に引き殺されてしまおうと、線路に飛び出したその刹那
ドンっと後ろから強い力で突き飛ばされた。
柊は言った。

「死なないで、力也」



「なんで、お前俺のこと嫌いだろ」

なにも感じてないかのような真っ黒な目
俺を見ているようでいて、どこか遠くを見ているような目
いつも見ていたその目が、今だけは凄く恐い

「力也、僕はね。君が嫌いだよ」

じゃあ何でと言おうとして、柊の目線がなにかを堪えるように下を向いている事に気付く

「嫌い、だからだよ。」

次の瞬間、柊はばっと顔を上げニヤっと笑って見せた

「苦しめよ!まだ死なせないから、100歳まで生きるんだよ力也は!」

「...は?んだよ、それ...」

柊がいきなり立ち上がると、電車のドアを開け放った
風が入り込んで、ブワッと強風が吹き付けた

「僕の分もあわせて200歳まで生きろ!早死にしたら許さないからね!」

高らかに、そして誇らしそうに柊が叫ぶ

「それだけなら、別にお前まで死ぬ必要なかっー」

「僕が死んだら、負い目に感じて力也が死ににくくなるでしょ?」

クツクツと笑みを溢す、コイツ本当に性格悪い

「...呪いみたいな奴だなお前は」

柊に腕を引かれる、開いたドアが近付く

「またね力也、死のうとしたら許さないよ」

「ああ、お前の報復は恐いからな」

トンッ...

笑って手を振ったのを最後に、アイツの姿は電車と共に遠くなり消えた。

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「あ、目を覚まされました!大丈夫ですか?2週間寝たままだったんですよ」

白い部屋で目を覚ます。
痛みを堪えて右に首を回したが、隣のベットに人は居なかった。

「...ぁ...」

静かに流れた涙が、シーツを濡らした。

8/21/2023, 9:45:22 AM