無音

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【30,お題:雨に佇む】

ザアアアアアアアア............

絶え間なく打ち付ける、冷たい雫
いや、雫じゃないなきっとこれは誰かの涙だ。

数多の命あるものたちが流してきた、温かく冷たい涙

ツ...ツタタッ...

雨に濡れたアスファルトの悲しい匂い
いつもよりも暗い街並みを、黒猫が走る

どこに向かおうとしているのか、自分でも分からなかった

ただひたすらに、自分の居場所を探し求める浮浪者。いやこの場合は浮浪猫だろうか

闇が一層濃くなる時間、街灯の明かりが灯り始め夜の始まりを唱え出す。雨はまだ止まない

寒さと空腹に飢えた体が悲鳴を上げる
走り続けてどれくらいだ?すでに足裏の感覚はない
横になって少し休もう、これ以上は死んでしまう

...ガチャ



不意にまばゆい光が黒猫を包む
横たわった体を動かす気力はなく、目だけで相手を睨み付けた

「こんばんは、小さな黒猫さん」

相手の少女は黒猫の精一杯の威嚇に臆することなく
しゃがみこんで背中を撫でた

「お腹空いてるの?ちょっと待っててね」

小さな手にのせられた小さなハムの切れ端
もう片方の手には、ミルクが入ったコップがあった。

「ほら、お食べ」

普段ならば、人間から貰った物など意地でも食べないが
今回ばかりはそうも行かない

ゆっくりと咀嚼するその猫を少女は愛おしそうに眺めた。

雨はまだ止まない

「私ね今日お留守番なの、昨日もその前もお留守番」

ママは私のこと好きじゃないんだって
そうこぼした少女の瞳は、降り続ける雨のように暗く見えた。

「あなたは一緒にいてくれる?」

黒猫は澄んだ瞳でそれを見返す。

まだ雨は止まない、止むまでの間なら一緒にいてもいいだろう

「にーお、うにゃう」

「嬉しい!ありがとう!」

小さな黒い猫は、新しい友達とともに温もりの中に消えた。

8/27/2023, 10:22:56 AM