たまには昔みたいにあなたに飛び乗りたい。そう、子供みたいに。穏やかな風みたいに。
背中側からこそりと飛びつき、大きく叫び声をあげるくらいに、もう一度あなたを驚かせて。
そうしたらきっと、この胸から冷たい何かが流れ落ちていくのが止まるはず。
ねぇあなた、何故僕に逢いに来てくれないの? ずっと、約束した通りに、僕はいい子で待っているのに。
あなた以外を記憶することも拒否したし、会話することも放棄した。それでもあなたは来てくれない。
あなたの活躍を伝える風の便りだけは、遠く離れたこの場にも届くのに。
大好きなお前に、花束を贈ろう。俺の故郷の蒲公英と、それから色とりどりの花を添えて。
そうしたら、お前はあの壊れきり凍てついてしまった顔を、少しは綻ばせてくれるだろうか?
それとも、俺から俺から贈られた花束では、役不足だろうか?
そんな意図から選んだ花束を片手に、俺はお前に逢いに行く。
そうして辿り着いた先で俺が見たものは、あの前途有望な若者から花束を受け取り、鮮やかに微笑むお前の顔だった。
祝福してやりたい、でもお前とアイツを壊してもやりたい。だから俺は、花束をお前に投げつけて走り去る。きっとこれが、お前に対する愛情だと信じて。
来世でまた逢おう、我が愛しの恋人よ。
たった1つの希望はあなたの首に絡めた指だった。固くギリギリと汗とあなたの口から垂れる唾液で滑る指を僕は必死に絡ませて、正気を失い魔天に堕ちたあなたを葬る為に力をこめ続ける。
数日前にあなたから贈られた指輪が、あなたの口許から垂れた唾液と血液で濡れそぼっていく。
それが酷く虚しくて、僕は唇を噛み締めた。
グッと喉仏を押し込んで、あなたの息の根を止める。先程までガリガリと僕の腕を掻きむしっていた指が、ダラリと垂れて動かなくなった。そのまま僕はあなたの脱力した体に縋り付き、最期の息吹を感じる為に半開きのままのあなたの口に、許されざる口付けをした。
ごめんなさい、愛しい人。どうか僕を許さないで、離さないで。
離したく、許さない。愛なんて全て燃やして、燃やし尽くして、灰にしてやる。
あなたを奪った魔天に……いいや、僕を置いていったあなたを、この蒼炎で焼き付くそう。
そうしてあなたは新生する。僕の炎の一部として。
握りこんだ指が手にくい込み、息が上がる。そんな風に俺のことを熱くかき乱した張本人は、涼しい顔でこちらを見上げている。まるで俺など目に入らぬというように。
確かに視線は合うのに、俺を見ていない。それが嫌で無理矢理唇を奪った。
それでも俺は認識されない。ずっと暗く落ち窪んだ目で、彼は俺を見る。
彼の指が震え、俺の肩から滑り落ちた。
そのさまを、俺は熱く滾る欲望を抱えながら、冷たい眼差しで見つめていた。
「ねえ、あなた」
「ん?」
目を伏せて"遠くへ行きたい"と僕が呟けば、彼は無言でこちらを柔らかく抱きしめ、僕の肩口に顔を埋める。
真正面から抱きしめてきた彼の口が、僕の耳元でハクハクと動けば、その空気の動きが僕の耳を擽りこそばゆい。
この何気ない仕草も、彼の震える腕も、今ある幸福全ては、数日後には消え去ってしまうものだとは、僕にはまだ膜を隔てたことのように思えてしまう。