極星

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3/10/2026, 10:07:38 AM

愛と平和を歌う俺に、お前はせせら笑いを向けて背を向けた。お前に贈る愛の歌を、どうにも気難しい俺の細君は、お気に召さなかったらしい。

そんなことより、今日の夕飯は何がいいの? 歌よりも好物を言え、この馬鹿!

酷すぎる言い様に俺は頭を抱え、蹲る。そして今日もまた、俺は叩きつける雨の中で蹲っていた。
家の鍵を忘れた、どうしよう。アイツは旅行中なのに。困り果てていると、俺の携帯に着信があり、これは天の救いかと取れば、それは絶望への誘いだった。

「奥様が事故に……」

もう死亡確認がされているから、直ぐに来てくれ。そんな言葉に俺はまたもや蹲り、あの日のことを思っていた。

3/10/2026, 8:25:26 AM

過ぎ去った日々はお前との証だ。俺に付き従い、何処までも骨になるまで、土の下で眠るまで、俺と共に過ごしてくれた人よ。
どうして今になって、アイツが俺以外を愛していた証を俺は見つけてしまったのだろうか。
こんなものがなければ、そうすれば俺はきっとアイツを。アイツのことを、最後まで純粋に愛せたのに!
憎たらしい人、呪いたい人。どうか昨日までの俺の無垢な愛を返せ、返してくれ。
だからどうか、土の下から這い出てきてくれ、愛しい人よ。
そうしなければ、お前の愛したあの男を殺してやろう!
雷鳴と雨が踊り狂う墓場でそう怒鳴り散らしても、お前は俺には逢いに来てくれない。本当に酷い奴だなお前は。
ならばどうか天国で待っていてくれ、いつか俺がお前を地獄に引きずり落としてやろう。

3/8/2026, 11:21:58 AM

『金より大事なものがあるとすれば、それはお前の瞳だ』

そんな気障ったらしい台詞を吐いて、僕の元を去った男は今日、骨になって帰ってきた。

「……嘘つき、いつか僕をお嫁さんにしてくれるって言ったくせに。お前が何より大切だって、そんな言葉ばかり僕に言っていたのに」

あの男は結局、叶わぬ約束ばかりを残しこの世を、僕の元を去った。愛しい男、嘘つき男、おべっか男。
思いつく限りの罵詈雑言を並べてみても、足元の水溜まりは僕の瞳から溢れ落ちる雫で、質量を増すばかりだった。

3/7/2026, 11:49:36 AM

「この美しい月夜に乾杯! 」
「ええ、乾杯」

顔を突き合わせ、視線を絡ませて、ふたりは杯を掲げて互いを労い合う。今日がふたりで過ごせる最後の日。だからこそ、いつもと何ら代わりのない日々を過ごすのだ。
指は絡めず、愛は誓わない。それでも名残惜しくて、瞳だけは絡ませ合ってしまう。だから最後の口付けは、互いに瞳を閉じて交わすことにした。
そうしなければきっと、互いに縛り付けてしまうから。愛を、魂を、唇を、構築する全てを。

3/6/2026, 11:20:26 AM

絆なんてありはしない。所詮それはまやかしであり、偽善だ。でなければ何故、僕は彼に裏切られたというのだろうか。絆を信じ、義を重んじ、ひたむきに戦場で戦い続け、そうして戦場で散った彼に。
彼はまやかしを信じたから、今はもう冷たい土の下にいる。僕は彼の見せるひと時の夢を愛してしまったから、ここから離れられない。

ねぇ、どうしてあんな誓いをして、僕の元から笑顔で旅立ったの? 戦場で愛剣だけを残して、僕に何一つ形見なんて残さないでこの世から消え去ってしまったの?

あの男のことを思えば、愛しさで胸が埋め尽くされ、それと同時にギリリと歯噛みしたくなる。それは、腹の底で得体の知れない何かが、ずっと沸騰しているからだ。

これに何と名前を付ければいいのかを、僕はずっと知らないでいる。だって名前をくれた彼は、もう墓石の下なのだから。

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