【凍てつく星空】
「わあ……」
感嘆に吐き出した息が白く広がっていく。それが消えないうちに、私は君の手をきゅうと握った。きれいだね。とっても。声を出さずとも、同じリズムで吐き出される白い息と、互いに握り返す手と手が代わりに会話をしている。
夜空を包む薄い雲がちょうどここだけ無くて、澄んだ黒と切り立つ光が美しいコントラストを描いている。いつしか作った手製のプラネタリウムのような景色が、薄氷の奥にあるみたいだ。
「すごい。」
「……こっちに出てきて、よかったね」
「うん。」
やがて吐き出す息すら冷えて、雪のように消えた。私たちは手を繋いだまま雪原に身を横たえる。先程までそうしていたように。冷えきった手にはもうぬくもりが無くて、感覚も凍りつき始めている。
「最期にあなたとこんな綺麗な景色がみれて、うれしい」
「こんどは来世で、一緒に見れるかなあ」
そういうと、君は「そういうとこ、案外ロマンチストだよね」と笑った。本気なんだけどな、と少しむくれながら、その女の子らしい笑顔にキュンとしてしまう。
「あったかいね」
「うん、あったかい」
凍てつく星空。凍てつく私たち。凍てつく世界。そこにあるのは、愛のあたたかさだけだった。
【見えない未来へ】
人生というのは、真っ暗闇だと思っていた。
そうはいっても、希望がなかったわけではない。人並みに楽しんで生きていたと思うし、嬉しいこともあったし。苦労を乗り越えた達成感も、難しいことに取り組む喜びも、……まあ過大評価だと分かって言うが、かなり充実はしていたと思う。
けれど、いつも。未来が無かったのだ。一歩先を照らすために動いて、そこへ歩を進めているだけ。その先に何があるかとか、どんな道を辿りたいかとか、そういったものが見えない。見渡す限りの漆黒を歩くのは、少し怖い。子供などそんなものだと思うだろう。私もそう思っている。だから、歳が進めば進むほど、その暗闇が晴れず、照らせる範囲が変わらないことに怯えるようになった。
私はいつだって、明日のことを決めるのでやっとなのだ。
「憧れの職業が」
「理想の恋人は」
「子どもが出来たら」
「老後の過ごし方は」
どうしてみんなはそんなに先を照らせるのか、疑問で仕方がなかった。
君のことを好きになったのはそんな頃だろうか。
きらめく一等星?明けの明星?いや、そんな高貴なものじゃない。もっと身近で、親しく、あたたかで、やわらかい。君を想う気持ちというのは、君という人は、そんな光だった。
「家で帰りを待ちたい」
「行ってみたいところがある」
「たくさん二人で過ごしたい」
「歳をとっても同じ会話がしたい」
人生というのは、真っ暗闇だと思っていた。
今なら見える。"君と共に過ごす"という確かな目標が。
未来というのは不確定なものだ。相変わらず暗闇は同じだけれど、私は自信を持って、共に一歩を踏み出そうと君へ手を差し伸べることができる。
きっと君なら、手を取ってとびきりの笑顔をくれるだろうから。
【寂しくて】
いつもより進みの遅い秒針を眺めていた。一周は同じ一分のはずなのに、永久のように感じる。これがデジタルデトックスか、なんて考えながら、返信の来ないスマートフォンを放って自分の身を布団に投げる。
四六時中君と話しているからなのか、スマホを触っているからなのか。今の時間は合理的な理由で返事が来ないと分かっていても、なんだかそわそわしてしまう。それがだんだん加速して、いたまれなくなって、心臓が輪ゴムに何重にも締め付けられるように苦しくなる。だから、私はこの時間が苦手だった。
「うーん」
また無意識にスマホを開いて、時計だけが表示されるロック画面を静かに閉じた。
寝たいな、と思う。大して眠くはない。でも、寝てしまえば、この永久の時間をスキップできるのだ。
一縷の望みをかけて目をつむってみる。
「……駄目だなあ。」
結果は残念、余計に寂しくなるだけだった。いつものおやすみの言葉。同じ布団にいた君の温かさ。柔らかな頬に落ちた長いまつ毛の影。そこから覗くつぶらな瞳。
布団に籠って、「すき」と呟いてみる。そこに居た君に宛てたのと同じ温もりで。何度も、なんども。そうしていたら、そこに君がいてくれるような気がして、体も心もふわりとあたたまってきた。
ぎゅうと抱き枕をだきしめる。いつか君を抱きしめられる日を夢みて。
「おやすみ、またあとでね」
だいすきだよ。いつでもその暖かな気持ちが私の心を動かす。
寂しくて寝るときは、特別君が好きだと認識するときだ。
【おもてなし】
今日は特にネタがあるわけでもないのでこの文体にしておこう。いつもお題が発表された日のうちに書いている私が、翌日の昼に書いている時点でそれなりの葛藤があったことを汲んでいただければ幸いだ。
おもてなし、といえばやはり、某滝川某リステルさんの顔が思い浮かぶ。O-MO-TE-NA-SHI。日本人はどちらかというとおもてなししたい側の人間が多いような気がしてならない。受けた恩を返すというか、些細な感謝も大事にするというか。お礼する、と細やかなプレゼントをくれるのもおもてなしの一部と言っていいだろう。
おもてなしされたらそれを次回で返して、それがまた……とやっているうちに、どっちが偉いのだかだんだん分からなくならないのだろうか。私はなる。そういうのが友情のきっかけになってもエモというやつだと思う。各国首脳陣の関係も、おもてなしの連鎖で健やかになってくれればいいのに。
このアプリでのおもてなしといえばやはり「もっと読みたい」だろうか。一度作者をお気に入りした上で押すという工程を経るし、なにより工数により広告が流れる回数が増す。ハートを、誰がいつ、どれを見て送ってくれたのかが分からないところがこのアプリの好きなところではあるが、オタク心としてはあなたのファンですよ!と声を大にして伝えたい。しかしおもてなし心にはオタクは邪魔だ。
私はただ黙々と、お気に入りの作者さんの更新を楽しみに待って、更新を見つけた輝かしい気持ちを健やかで素晴らしい気持ちに変えてから「もっと読みたい」を押している。この私のおもてなしの心が作者様へ伝わっていれば嬉しいのだが。
ここまで書いていて思ったが、いいねを本当におもてなしの内と言って良いのだろうか?そもそも、おもてなしとは……と掘り下げてしまうと、結局よく分からないことになりそうなので、「気持ちの込める行動こそがおもてなしの真髄」というそれっぽい事を言っておく。
それから、無様にもあなたからのおもてなしハートを乞いて文を締めることにした。
【消えない焔】
私は飽き性だ。何に関しても突然、ふっと興味の焔が消えてしまう。これを私は、興味の範囲が狭くて移りやすいのだと結論付けた。あんなに熱中していたはずの趣味も、今となってはただの荷物だ。これを解除するにはまた興味が戻ってくるのを待つしかなくて、その度つくづく面倒な人間だなあと自分で思う。
人に対してもそうだ。どんなに相性の良い人でも、やっぱり焔が陰る瞬間というものがあって、段々と私は殻にこもりがちになっていくのだ。焔が戻ってきたら、急激に社交的になっての繰り返し。
ああ、よくないな。いやだな。その気持ちを抱えたまま、熱の上下に身を任せるしかなかった。
でも、君だけは違った。
君の焔はずっと昔から胸の奥に居続けていた。焔が小さかった頃から、私の活動の源になっていた。それに気づいた瞬間、突然大きく膨れ上がる焔。これまで体験したことの無い熱が身体中を襲う。焼け付くような熱が、不思議と心地いい。
それからというもの、この焔は一切陰らなかった。それどころかどんどんと大きくなっていっている。楽しい気持ち、嬉しい気持ちで温まった体を増してくれるのがその焔で、悲しい気持ち、辛い気持ちに疲れた体を癒してくれるのもその焔で、新しい幸せな感覚を与えてくれたのもその焔だった。
いつしか、その焔を大切したい気持ちより、君を大切にしたい気持ちが大きくなっていた。……いや、初めから、君を大切にしたい気持ちが焔となっていたのかもしれない。だから、この焔はこんなにも暖かで幸せな光を放っているのだ。
私は自然とそれを口にした。
その時ぽうっと、君にも焔が灯ったのが分かった。
きっと、人はこの焔を「愛」と呼ぶのだろう。