ひどりみ

Open App
3/28/2026, 12:54:14 PM

【見つめられると】

 月に一度も会えない距離に済む私は、いざ君の視線に晒されるとなると正常さを保てない。
 「どうしたの」っていつものように言うけれど。答えを知っていながら聞いているのだと、私は知っている。細められた視線の奥をまっすぐ見つめ返せたことはないのではないだろうか。見つめられるだけで舞い上がり、鼓動が早くなって、すぐに目を逸らしてしまう。そんな光を内包する君の瞳には、なにか魔法があるのではないかと、私は疑っていた。
 「……!」
 感嘆符だけ飛ばして黙って……というより、言葉が何も発せなくなった結果として口を噤んだ私は、苦し紛れに君の手をとり、口付けをした。甘く痺れる感覚が直に脳へと流れる。君と触れ合う全てがこの感覚で埋め尽くされているから、きっとこれが幸せの触感なのだ。
 「ふふ。」
 心底愛おしそうに目を細めた君は、黙って私をまた見つめる。あまりにもその顔が嬉しそうなものだから、私は堪えきれなくなって、その顔を量の手で捉えてキスをした。

3/27/2026, 4:18:14 PM

【My heart】

 心ここに在らず、そんな言葉を知っているだろうか。時折、自分の体だけが世界に取り残される感覚に陥る。心がどんどん離れていって、僕は冷たい自我だけで世界に触れることになるのだ。
 何も面白くない。何も集中できない。冷たさは体を犯していって、やがて棘に蝕まれた思考が体までを傷つけていく。それに涙を流せる心もないことが酷く苦しくて、暗い洞穴に差し込む僅かな光を求めるように、体から逸脱してしまった心を求めてもがくのだ。
 心が体を返してと泣く。こういう時、僕という存在は体にあるのだろうか。心にあるのだろうか。ともかく、僕は心に体を返すべく、黒い世界を追い返そうと刃を手に取った。
 意識を戻すのに最も効率的な方法であるのは、痛みだ。一本、また一本と、赤い筋が出来ていく度に、心が体に近付いてくる感覚を覚える。もやに包まれていた思考が澄み、僕のものではない思考が同じ極に面した磁石のように離れていく。
 腕の一面が赤くなったあたりでようやく、僕は心を抱きしめた。痛みと、「もういいよ」の声に行動の異常性に気付かされて。
 泣いている心を助けるためにした事なのに、心は幾重もの傷が増えている。

どうして。
泣かないで。
くるしいよ。

 そうして僕も、涙を流す。近頃はやっと、あたたかくなってきたばかりだ。

3/4/2026, 5:05:45 PM

【大好きな君に】

 僕は非常に怒りを覚えていた。いや、これを怒りとは呼びたくないし、怒りと呼ぶべきでもないと思う。
 きっかけはなんだったであろうか。いつもより話した時間が少ないとか、触れ合いが思うようにできなかったとか、そんな些細な「残念」が引き金だったような気がする。普段は気にもしない空白にやけにムカついて、心臓に張りつくムカムカを薙ぎ倒すように「あー!」と声を上げる僕。その滑稽さに、今がひとりである事を心底嬉しく思った。
 彼女はこの数日旅行に行っていて、友達といる時間が多いためかいつもの様子とは少し違っている。そう、足りないのだ。時間も、柔らかさも。僕の知っている彼女はこう、もっと甘えてきて、ふにゃふにゃで、かわいい生物だったはずだ。久々に外向きの表情を長く浴びたから、僕はとても寂しかったのだと思う。
 その寂しさがどういうわけが怒りに転換してしまって、今に至る。説明のつかないこの事象を説明するために、ぼやあと浮かんだ言葉を見つけようと検索にかけた。

「かわいさ余って憎さが百倍……」
 好きが余って憎しみ……なんてぼんやりした言葉で調べたが、今どきの検索エンジンは優秀である。ムカつきの正体を手にしたように思えたが、どうもしっくり来なかった。
── かわいがっている度合いが強いほど、一度憎いとなるとその憎しみの度合いも並大抵のものではなくなること。
 別に、彼女のことを嫌いになったわけではない。憎いわけでも。些細なことに不満を持ってしまって、なんだかイライラしてしまうだけ。
 もやを晴らすがごとく、指を上へと払って画面をスクロールしていくと、ひとつの言葉が目に留まった。
── 憎い憎いは可愛いの裏
 対義語として紹介されていたことわざが、僕の手にぴったりとはまる。……そうだ。僕の怒りは、全部が好きな気持ちから来ている。
大好きだから、いっぱい喋りたい。
大好きだから、たくさん甘えてほしい。
大好きだから、足りない。
願いが叶わなかったから、僕はだだっ子のように不満を怒りとして表してしまったのだ。こうしてみると、まあ、滑稽だ。幼稚さに苦笑いを零す。今がひとりで、本当に良かった。

 大好きな君に言えない気持ち。それは結局、「大好き」の裏側なわけで、いつも伝えていることと大差はないんだな、と思った。ムカムカはいつの間にか、暖かな気持ちに戻っていた。

3/2/2026, 8:11:00 AM

【欲望】

 たまには欲望のままに書き連ねてみようと思うのです。そう言いつつ、この形式が増えているのは、私が欲望に弱い証拠ですね。

 欲望といいますと、やはり三大欲求が思い浮かびます。私は常々、現代においては承認欲求もランクインさせた方がいいのではないかと思っていまして。このように自語りをして、いいねをもらって喜ぶのは現代人の性であり業ですからね。やめられないとまらない。
 私は長らく睡眠障害を患っておりますから、睡眠欲とは常々向き合ってきました。近頃はストレス発散の方法が深夜に間食をすることになってしまいまして、夜間の食欲とも常に向き合う一方でございます。
 性欲とも向き合う機会がありました。私には同性の恋人がいるのですが、恋人は明確に同性愛者という訳ではありませんでしたので、付き合った当初は相手を性的に見ていいものかどうか不安だったものです。なんなら私は、性愛を覚えるのが初めてでしたから、それもあって非常に悩みました。
 大人の皆様に問いたいのですが、性欲の芽生えというものには苦悩がつきものなのでしょうか。まあ、私も文字書きの端くれですから、どんな苦悩も創作のネタにするのですけれどね。

 人の欲望は尽きることはありません。けれど、それはつまるところ創作のネタも尽きることはないということです。
 いつか、ちゃんと一本書き上げたいですね。それが今の私の欲望です。

2/27/2026, 2:03:55 AM

【君は今】

「君は今、何を思っているの。」

 最近になって、そう思うことが増えた。どんなをしていて、どんな表情をしているのだろう。メッセージアプリに届くちょっとした報告が嬉しくて、目を細めながら画面に釘付けになっていく。
 以前はどうやって過ごしていたのか、もう思い出せない。数分おきに通知を確認しては、友達に野次を飛ばされたっけ。君もそうであってほしい、と願うのは、出すぎた願いだろうか。

 君を知りたい。君の経験する全てを共にしたい。嬉しいことも、辛いことも、分け合いたい。
 ぜんぶを、おしえてほしい。

 君は今、誰を想っているの。

Next