ノーム

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2/29/2024, 7:39:12 PM

『列車に乗って』


景色が過ぎ去る。

「明日の天気は晴れたらいいね」
いつかの深夜に、君はそう言って傘を用意した。

景色が過ぎ去る。

「才能がある人は羨ましいね」
いつかの日暮れに、君はそう言って僕を魅了した。

景色が過ぎ去る。

「あなたにはきっと分からないね」
いつかの早朝に、君はそう言って僕の前から姿を消した。

揺れる視界に映る車窓。
心電図のように規則的なリズムで、僕は振動を繰り返す。

ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン

待ち構えていたトンネルが大きな口を開ければ、そこには先の見えない暗闇が広がっている。
暇を持て余した乗客のスマホが、窓に反射して星のように光を放った。
チープで醜いプラネタリウム。

あの日から僕は君の真似ばかりしている。
愛おしくて憎らしい、矛盾を孕んだちぐはぐさ。
この偽夜が明けた後で、僕はおそらくこう言うのだろう。

「君にはきっと分からないね」

そうしてまた一つ、景色が過ぎ去っていくんだ。

2/27/2024, 6:53:46 PM

『現実逃避』


月まで続く線路を歩く
てくてく てくてく てくてくと
廃線となって久しい線路
冷たい空気に息が溶け込む

寂れた駅には星の欠片を
きらきら きらきら きらきらと
忘れ去られた星座が駅名
踏切は点滅の仕方を忘れてる

見飽きた星空に鼻歌を歌う
足先は常に月へと向ける
前を見るんだ
月だけを見るんだ
振り返ってしまうのは
自分が弱いせいなんだ

辿り着けないことなんて知っている
言われなくても分かってる
それでも それでも それでもと
欠けてく心が足を動かす

月まで続く線路を歩く
三日月 半月 満月と
形を変えてく月を望んで

2/18/2024, 4:14:39 PM

『今日にさよなら』


記憶が爆ぜた

色とりどりの断片が
視界をこれでもかと覆い
喜怒哀楽の感情が
ごちゃ混ぜになって押し寄せる

ただ一言
「幸せだった」


棺が爆ぜた

ささくれだった木片が
自分をこれでもかと穿ち
めくれ上がった畳と血肉が
ごちゃ混ぜになって押し寄せる

ただ一言
「辛かった」


──が爆ぜた

爪が折れ
歯が砕け
目が潰れた

散り散りとなった心の欠片
その中の一片に映る負け犬が
騒々しくも遠吠えを繰り返す

『涙を拭え』
『足元の砂を払え!』
『乱れた髪なんてどうでもいい!!』
『立ち上がって前を向けッ!!!』

……何となくだ
何となく緩慢とした動きで立ち上がり
それはそれは気怠げに顔を上げる

折れた爪を剥ぎ取った
砕けた歯を吐き捨てた
潰れた目でギロりと睨み──

ただ一言
「いい人生だった」

2/5/2024, 2:54:42 PM

『溢れる気持ち』


たまーにですよ?
ホントにたまーに消えたくなることがあるんです。

明るい人。
楽しそうな人。
笑顔の人。

いわゆる幸せそうな人達を見るのが、自分は好きです。
何だか元気がもらえますからね。
……本当ですよ?
けれど同時に、ほんの少しだけ羨ましくも感じてしまうだけなんです。

青春だとか恋愛だとか、キラキラしていて眩しいぐらいで、自分なんかでは直視するのも難しいんです。
頭では分かっていても、ついつい想像しては羨ましく思うんです。

やっぱり羨ましいんです。
自分には無いものだから。
自分なんかには無理なものだから。

なんだかんだと羨ましいんです。
なんだかんだと羨んで、それに気付いて虚しくなるんです。
それに気付いて虚しくなって、最終的には消えたくなるんです。

消えたくなるんです。

自分よりも恵まれない人達なんて、探せばいくらでもいるのに……こればかりは仕方が無いんでしょうね。


──────────
【あとがき】

アプリを開けた時に、皆さんの『もっと読みたい』が届くことがあります。
なかなか投稿できていない時でも、読んでくれている人がいるのは本当に嬉しく思います。
何時もありがとうございますね!

1/21/2024, 6:13:58 AM

※人によって不謹慎に感じる描写があります。
予めご了承ください。
過去作のリメイクです。


『海の底』 200


高台にある学校から帰ると、我が家が海に沈んでいた。
学校から大通りを真っ直ぐ下り、その右手側。
何時もならそこに我が家が見えてくるのだが……そこは既に海の中であった。

(そうか、もうここまで海になったんだ)

ちょうど一年ほど前だったか。
なんの前触れもなく海面が上昇し始めたかと思えば、それは急速に私達の町を呑み込んでいったのだ。
人も車も家も、町にあるものは全て同じように海に呑まれては消えていく。
なんでも、そのまま海の底で眠っているのだとか。

別にこの町だけの話では無く、世界中で同じ様な現象が起きているらしい。
……まぁ、あまり詳しくは知らないけれど。
というのも、別にニュースで報道されたりしている訳では無いのだ。
ネットで調べてみても出てくる情報は個人のSNSだけ。
海に沈んだ町並みを背景に、高校生ぐらいの子達が記念撮影をしている画像が並ぶ。
何だか分からないけれど、きっとそういうものなのだろう。

そうして海を眺めてボーっとしていると、後ろから声をかけられた。

「あー! 〇〇ちゃんちょうど良かったわ。
ちょっと待っててくれる?
一度家に戻るから!」

それだけ言うと、こちらの反応も待たずに急ぎ足で坂の上へ戻っていく女性。
母の友人で、何時も私にも親切にしてくれる△△さんだ。
数分後、何かを持ってこちらに歩いてくる。

「コレ、前に〇〇ちゃんのお母さんに肉じゃが頂いたのよ。
その時に預かったのを返そうと来てみたら、〇〇ちゃんのお家がもう海に沈んじゃってるでしょ?
どうしようかと思ってたの!」

渡されたのはタッパーだった。
そういえば前に母からそんな話を聞いた気がする。

「『肉じゃが美味しかったわ』ってお母さんに伝えておいてくれる?
〇〇ちゃんも待たせちゃってごめなさいね。
風邪、ひかないようにね……?」

そうして△△さんは、今来た道を引き返して家へと帰っていった。

△△さんを見送った私は、取り敢えず我が家に帰るため海に入る事にした。
右足から入って左足、腰、胴、肩……そして頭。
全身が海にすっぽりと入ったが、不思議と体に対して浮力は無く、地面に足をつけて歩く事が出来る。
……恐ろしさは感じなかった。
それどころか、心が落ち着いていく感覚すらある。

そのまま我が家の前まで来た私は、玄関の鍵を回し扉を開ける。

「ガポァイバァ ー《ただいまー》」

口から泡を出しながら声をかけると、廊下の奥から鮫が現れ、ゆったりとした動きでこちらに向かって泳いでくる。
そしてそのまま私の目の前を通り過ぎると、開けたままだった玄関から外へと出て行った。

玄関を閉めた私は自室へと鞄を放り投げると、台所にタッパーを浮かべる。
そのまま両親の寝室に行き、中を覗いてみれば……二人とも既に布団へ横になり眠っていた。
メモ紙が浮いている。

『〇〇へ
先に寝ています
父、母より』

(……それぐらい見たら分かるよ!)

私の両親は二人ともおっとりしていて、少し天然気味だ。
この話題になると何時も本人達は否定するが、私は間違いないと思っている。

……ともかく、私ももう寝る事にした。
自室でパジャマに着替えた後、掛け布団と枕を持ってくると、両親の間に割入って横になる。
普段は一人で寝るのだが、今日ぐらいはこういうのも悪くないだろう。

(次に起きたら、肉じゃがのこと教えてあげないとな)

少しずつ眠りに落ちていく私の鼻先を、小魚達がくすぐった。


──────────
【慰霊の言葉】

自然災害によって亡くなられた方々のご冥福を、心よりお祈り申し上げます。

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