『列車に乗って』
景色が過ぎ去る。
「明日の天気は晴れたらいいね」
いつかの深夜に、君はそう言って傘を用意した。
景色が過ぎ去る。
「才能がある人は羨ましいね」
いつかの日暮れに、君はそう言って僕を魅了した。
景色が過ぎ去る。
「あなたにはきっと分からないね」
いつかの早朝に、君はそう言って僕の前から姿を消した。
揺れる視界に映る車窓。
心電図のように規則的なリズムで、僕は振動を繰り返す。
ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン
待ち構えていたトンネルが大きな口を開ければ、そこには先の見えない暗闇が広がっている。
暇を持て余した乗客のスマホが、窓に反射して星のように光を放った。
チープで醜いプラネタリウム。
あの日から僕は君の真似ばかりしている。
愛おしくて憎らしい、矛盾を孕んだちぐはぐさ。
この偽夜が明けた後で、僕はおそらくこう言うのだろう。
「君にはきっと分からないね」
そうしてまた一つ、景色が過ぎ去っていくんだ。
2/29/2024, 7:39:12 PM