ノーム

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1/11/2024, 6:16:41 PM

※人によっては不快な表現があります。予めご了承ください。


『寒さが身に染みて』


震える指で煙草を吸う。

とある田舎の一軒家。それを取り囲む塀にもたれかかりながら、ため息と同時に紫煙を吐き出した。
自宅前の道を挟んだ路肩にある、少し前に新調されたばかりの街路灯が、自分とその周辺をぼんやりと照らす。
時刻は既に0時を回り、冬の寒さに肩を窄めながら空を見上げれば、田舎特有の綺麗な星空が広がっていた。

「……何してんだろな」
ポツリと言葉が漏れる。

こんな時節に、薄手のシャツとジーンズのみを着て、一人外で煙草を吸っている自分を自嘲する。

地元の高校を卒業した後、夢を叶えるために上京し、お金を稼ぎながら努力した。
苦労はしたが、少しづつ夢に向かって近付いていく感覚はとても心地良く、自分はその熱に浮かされていたんだ。
……実家の母から父が罹患し倒れたと聞いたのは、それから数年後の事だった。
その時に聞いた母の悲痛な話し声が、今も脳裏から離れない。

急いで帰郷した自分を待っていたのは、こちらに対して気丈に振る舞う母と、病室のベッドに呆けた様子で座っている父の姿。
……血栓症による脳梗塞だった。
母だけで介護は無理だ。
父を独り施設に預けるのもしたくない。
田舎だから家までヘルパーを呼ぶのも難しい。
だから……だから自分は──

──夢を諦めて家業を継いだんだ。

これは自分の選択だ。
自分の決めた人生だ。
自分を育ててくれただけでなく、身勝手な夢まで応援してくれた母と父に、少しでも恩返しがしたかった。
そのためなら自分の夢なんてどうでもよかった。
……どうでもよくなったんだ。

そう思っていた筈なのに、未だに自分の中では微熱が燻っている。

自分に言い聞かせるように、小さな声で俯いてボヤく。
「誰だって妥協しながら生きてるんだ。
何も自分が特別な訳じゃない。
そんなに引きづることなんてないだろ?
……なぁ、そうだろう??」

震える指で煙草を吸う。

何時もより紫煙が長く尾を引いたのは……きっと寒さのせいだろう。

1/7/2024, 1:07:37 PM

『雪』


夢を諦め熱を失い
ゆらり ゆらりと落ちていく

生きたくないけど死にたくない
死にたくないけど生きたくない
贅沢でいて我儘な
矛盾を行ったり来たりする

冷たいままに彷徨い歩き
かじかむ心の感覚は
いつしか麻痺して無くなった

差し伸べられた手を避ける
今のこんな自分では
人肌でさえ溶けそうで

1/6/2024, 3:11:21 PM

『君と一緒に』


ケン ケン パッ
ケン ケン パッ
つまらないけど
ケン ケン パッ

向かいの坂崎さん宅の
塀に映った影法師
アナタが消えてしまうまで
二人で一緒に
ケン ケン パッ

輪っかの中に
ケン ケン パッ
外さないよう
ケン ケン パッ

アナタはずっと待っている
私が失敗する時を
顔が無くても分かるんだ
ニヤニヤ ニヤニヤ
こっちを見てる

私がこの輪を外れてコケたら
きっとアナタは笑うんだ
私の真似して皮肉にコケて
こっちを見やって嗤うんだ

だから私は
ケン ケン パッ
つまらないけど
ケン ケン パッ

アナタが消えてしまうまで
二人で一緒に
ケン ケン パッ

1/5/2024, 1:22:38 PM

『冬晴れ』


妬み嫉みの毎日で
人の不幸は冬日和

やれ『あの人が失敗をした』
やれ『あの人が怪我をした』

"ざまぁみろ"
"情けない"
"自業自得の結果だな"

冷える心を暖める
人の不幸をもっとくれ

やれ『あの人が離婚した』
やれ『あの人が自殺した』

"馬鹿なヤツ"
"不甲斐ない"
"無価値な人生お疲れさん"

小馬鹿に人を見下して
悲痛な無様を嘲笑う

心は何時でも冷え込んで
どれだけ待っても春は来ない

1/4/2024, 5:03:23 PM

『幸せとは』 195


雨が降っては人が減り
傘をさしてはクルクル回す

小さく歌を口ずさみ
街灯だけを頼りに歩く

ピッチ ピッチ
チャップ チャップ
ラン ラン ラン

夜になっては人が減り
靴を履いてはトントン叩く

明るく楽しく軽やかに
待って望んだ夜を行く

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