ノーム

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※人によっては不快な表現があります。予めご了承ください。


『寒さが身に染みて』


震える指で煙草を吸う。

とある田舎の一軒家。それを取り囲む塀にもたれかかりながら、ため息と同時に紫煙を吐き出した。
自宅前の道を挟んだ路肩にある、少し前に新調されたばかりの街路灯が、自分とその周辺をぼんやりと照らす。
時刻は既に0時を回り、冬の寒さに肩を窄めながら空を見上げれば、田舎特有の綺麗な星空が広がっていた。

「……何してんだろな」
ポツリと言葉が漏れる。

こんな時節に、薄手のシャツとジーンズのみを着て、一人外で煙草を吸っている自分を自嘲する。

地元の高校を卒業した後、夢を叶えるために上京し、お金を稼ぎながら努力した。
苦労はしたが、少しづつ夢に向かって近付いていく感覚はとても心地良く、自分はその熱に浮かされていたんだ。
……実家の母から父が罹患し倒れたと聞いたのは、それから数年後の事だった。
その時に聞いた母の悲痛な話し声が、今も脳裏から離れない。

急いで帰郷した自分を待っていたのは、こちらに対して気丈に振る舞う母と、病室のベッドに呆けた様子で座っている父の姿。
……血栓症による脳梗塞だった。
母だけで介護は無理だ。
父を独り施設に預けるのもしたくない。
田舎だから家までヘルパーを呼ぶのも難しい。
だから……だから自分は──

──夢を諦めて家業を継いだんだ。

これは自分の選択だ。
自分の決めた人生だ。
自分を育ててくれただけでなく、身勝手な夢まで応援してくれた母と父に、少しでも恩返しがしたかった。
そのためなら自分の夢なんてどうでもよかった。
……どうでもよくなったんだ。

そう思っていた筈なのに、未だに自分の中では微熱が燻っている。

自分に言い聞かせるように、小さな声で俯いてボヤく。
「誰だって妥協しながら生きてるんだ。
何も自分が特別な訳じゃない。
そんなに引きづることなんてないだろ?
……なぁ、そうだろう??」

震える指で煙草を吸う。

何時もより紫煙が長く尾を引いたのは……きっと寒さのせいだろう。

1/11/2024, 6:16:41 PM