『今日にさよなら』
記憶が爆ぜた
色とりどりの断片が
視界をこれでもかと覆い
喜怒哀楽の感情が
ごちゃ混ぜになって押し寄せる
ただ一言
「幸せだった」
棺が爆ぜた
ささくれだった木片が
自分をこれでもかと穿ち
めくれ上がった畳と血肉が
ごちゃ混ぜになって押し寄せる
ただ一言
「辛かった」
──が爆ぜた
爪が折れ
歯が砕け
目が潰れた
散り散りとなった心の欠片
その中の一片に映る負け犬が
騒々しくも遠吠えを繰り返す
『涙を拭え』
『足元の砂を払え!』
『乱れた髪なんてどうでもいい!!』
『立ち上がって前を向けッ!!!』
……何となくだ
何となく緩慢とした動きで立ち上がり
それはそれは気怠げに顔を上げる
折れた爪を剥ぎ取った
砕けた歯を吐き捨てた
潰れた目でギロりと睨み──
ただ一言
「いい人生だった」
2/18/2024, 4:14:39 PM