『空が泣く』
「雨が降っていた」
時刻は夕方6時30分。
田舎とも都会とも言い難い町の、細いとも太いとも言い難い道の真ん中に、君はいた。
濡れた髪が額に張り付き、雨を含んで色が濃くなった服が、重たそうに地面へと伸びている。
君の左後ろにはチカチカと点滅を繰り返す街路灯があって、少し離れた所でぽつねんと生えているカーブミラーがそれらを映し出していた。
地面のアスファルトを雨が打つ度に、雨粒が爆ぜてキラキラとした光を弾く。
「強い雨が降っていたんだ」
分厚い雲に覆われた空の下、君の近くに出来た小川は、夕日に照らされて鮮やかな朱色を魅せていた。
何時までも降る、雨に見られて。
『喪失感』
死んだらそこでお終いだ。
死のうと思えば何時でも死ねる。
けれど一度死んでしまえば、二度と生きることはない。
何時か誰にでも訪れるそれには、恐怖というより虚しさを覚える。
宇宙が誕生してから137億年。
その中の一瞬にも満たない時間、まるでバグのように産まれてしまった私に、一体なんの意味があるというのか。
死んだらそこでお終いならば、如何して私は産まれてきたのか。
生きていることの方が不自然だと、そう考えるのは自然じゃないのか。
一寸にも満たない虫《バグ》がいて、それが生死について考える。
誰がそんな与太話を、信じて聴いてくれるというのか。
産まれてしまったが故に、死ななければならないならば。
産まれなければ死なずにすんだと、空虚なことを言うのであれば。
この世で命を獲得《喪失》した時、既に私は死んでいたのか。
既に私は死んでいて、終わった世界を生きているのか。
ならば私が感じるこの喪失感も、"夢中に夢を説く"ような、取り留めもないことなのだろう。
※偏見に塗れた物凄く不快な考えの人物が主役となります、予めご了承ください。読まずにとばすことをオススメします。
『世界に一つだけ』
世界に一つだけ……? ッハ、笑える。
本当にそんな大袈裟に捉えていたのか? もしそうなら救いようがないな。
それはお前が思ってるほど特別なものじゃないよ。何処にでも落っこちてるような……なんの価値もないありふれたものの一つだ。
なんならそれはゴミだ。
ゴミだって全く同じものを探しても、そうは簡単に見つからないだろう?
種類もそうだし、汚れや皺の付き方だって何かしらの違いはあるもんだ。
それでもそれはゴミなんだよ。
そんな些細な違いなんてどうでもいいんだ。誰もそんなの気にしない。
ゴミの一つを手に取って、『これは世界に一つだけ!』……なんて言う奴が何処にいる。
誰から見てもそれはゴミなんだ。
ただのゴミ。
ゴミクズ。
廃棄物。
それ以上にはならんのよ。
どんなものにも価値はない。それは単なるお前の妄想だ。
お前が勝手に自分で貼った、それこそなんの価値もないレッテルなんだよ。
……理解したかな? 妄想癖のある"ゴミ"さん?
おっと失礼、間違えた!
"世界に一つだけのゴミ"さん??
『きらめき』 170
心が震え、熱が生じた。
温度は次第に高くなり、ある時を境に火花が散りだす。
きらきら きらきらと輝くそれは、見ていてとても気分が良い。
雅で美しく。
儚くて綺麗だ。
しかし永遠には続かない。
何時かは心の震えも無くなり、熱が冷め、その輝きは過去の栄光へと変わるだろう。
そうして最後に残るのは、焦げ付いた醜い心だけ。
ほらもう……きらめきの残穢はすぐそこに。
『心の灯火』
新涼灯火
本を読む
秋の夜長ということで
灯りの下で本を読む
暗い時間が長いほど
その灯火は役に立つ
月の前の灯火と
侮る前に火を灯せ
月を遮る暗雲を
ものともせずに照らすだろう
私が望んだものを見るには
小さな灯火一つで足るのだ