蜜柑

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3/30/2025, 11:22:27 AM

「待って!」離れていく君に、そう、声をかける。君は、悲しそうに微笑んでいた。「……ダメだよ」告げた言葉はそんなもの。けれどそれが確かな拒絶だと。僕は確かに気づいてしまった。「……ごめんなさい」君はそう告げ去っていく。夏風と共にやってきた君は、春風と共に去っていった。「……」彼女の決意が、その意思が。確かに強いものだと。きっと、僕だけが知っていた。

3/29/2025, 6:09:04 PM

ぽろぽろと、目の辺りから流れるこれは、なんと言うのだろうか。流れる水をそのままに彼女へ視線を向ければ、彼女は目を見開く。「大丈夫!? 何かあった?」その言葉に、私は素直に答えることにした。「……わからない」そんな言葉の意味がきっと態度としても表れていたのだろう。彼女はゆったりとした調子で言葉を口にした。「……それは、涙、って言うんだよ。悲しい時とか、あとは嬉しい時にも出るの」その言葉を心の中で反芻する。そうして口から出たのは。「……うれしい、のかも」こんな言葉だった。俯かせていた視線を彼女へ向ける。「……」彼女は心底安心したように、そしてどこか嬉しそうに頬を緩めていた。

3/29/2025, 3:54:25 AM

仕事帰り。酷く疲れた体に鞭を打ち帰路を歩く。「……!」その最中に見つけた本屋に、思わず引き込まれた。今日は沢山頑張ったんだから。そう自分で言い訳して、どんな本があるか見ていく。その中で見つけたのは、私の好きな作家さんの見たことの無い本だった。「……(出てたんだ……)」そう心の中で呟きながらその本を手に取る。そしてそのまま財布を出し支払いへと向かった。
本屋から出た私にあるのは、大切な本と、そして疲弊した自分。けれどこういう楽しみがあるのなら。私はこれからも頑張っていける。小さい幸せが積み重なるだけで日々は生きていけるものだから。

3/28/2025, 12:03:29 AM

「きれい……」あなたがそう口を零す。その言葉に上を見ると、そこには春のお花が彼女の言う通り綺麗に待っていた。「……えっと、こういうの、なんて言うんだっけ」ん〜と口元に手を当て唸り出すあなたに、私も揃って口元に手を当てる。「なにかな……」「なんだろう……」私の方が難易度高いと文句は言わない。こういう一緒に悩む時間も大好きだから。「……あっ!」思いついたように表情を輝かせ、あなたは口にする。口元に当てていた手は人差し指だけ上げて、後は握り込まれていた。「春爛漫、って言うんだ!」「……春爛漫?」「そう! こんな景色のこと、そう言った気がする!」ニコニコと、嬉しそうに笑んでいるあなたがそう言うのなら、きっとそうなのだろう。あなたは私の顔を覗き込むようにして顔を見上げ、そして笑った。「……これからも、この春爛漫の季節を、あなたと迎えられたら嬉しいな」……そんな嬉しい言葉を告げられてしまえば、返すべき言葉などたった一つだけだ。「……私もだよ」「……! へへっ」返事をすると彼女は一層嬉しそうに顔を綻ばせる。……そんなあなたの表情をこれからも見ていたい。その思いも込めながら、私も頬を緩ませていた。

3/26/2025, 1:21:28 PM

七色に輝くそれは、虹、と言うらしい。おねえさんが教えてくれたそれは、空に薄らとかかっている。雨が無くなると見えるそれは、なんとなく、眩しいような気がした。そして同時に、心が温かくなるような気がして。「わたしって、おかしい?」横に立っていたおねえさんに聞けば、おねえさんは眩しそうに目を細めて口にする。「おかしくないわ。それが普通よ」「ふつう……普通……そっかぁ」なら、よかったぁ。そう口にしたわたしを、おねえさんが眩しそうに、けれど嬉しそうに見つめる。おねえさんが喜んでるなら、尚のことよかったかな。そんな言葉は口から出なかった。

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