蜜柑

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4/6/2025, 1:22:23 AM

「好きだよ」愛しい人からそんな言葉が出る。「……いつも言ってるけど、その嘘止めて」私がそう告げれば、彼女は愛おしそうに頬を緩めていた表情から、意地悪そうに口を歪めた表情に変わる。「え〜騙されてくれたっていいのに」「タチ悪い」「ふふ、いいじゃん。嘘でも言われて嬉しいでしょ?」一瞬、言葉が止まる。けれどすぐに、不自然ではないような口調で続けた。「嘘だったら尚のこと嬉しくないよ」「うーん、価値観の違いかぁ」「そうじゃない?」ほら、早く帰ろ、と彼女の表情を見ずに帰路へと着く。私の視線が逸れた先で、彼女がどんな表情をしていたかなんて、わからない。私の心に渦巻く感情を、彼女は知らない。どこまでもすれ違う関係にいつ終止符が打たれるのか。誰にだって、わからない。

4/5/2025, 8:38:20 AM

桜の花びらが舞う。そんな風景を後ろにして、少女は笑った。「綺麗だね」隣には、少年が1人。少年は、ただ眩しそうに目を細め、少女を見つめていた。「……うん、綺麗だ」少女の視線と少年の視線は交わらない。それがどこか寂しいものだと。きっと、少年だけが思っていた。

4/3/2025, 11:05:56 AM

遠くにいる君へ走って近づく。君は、立ち止まって空を見上げていた。暗い空からは雨が流れる。君は、ただ、濡れていた。よく、見えなかったけれど。薄らと見えた君の頬は、雨以外の雫もかかっているような気がした。「ねえ!」声をかける。雨音に掻き消されてしまいそうに思った僕の声は、きちんと君に届いたみたいだ。君はこちらに視線を向ける。「僕は、君と!」何を言うか、よく考えていた訳ではなかった。それでも浮かぶままに言葉にした。「一緒にいたい! ずっと! 死んでも!」そんな僕の言葉を聞いて。君は、ただ、悲しげに微笑んだ。「……いいのよ、わたしに気を遣わなくて」「遣ってない!!」間髪入れずにそう口にする。君は驚いたように、目を見開いていた。「僕は! 君と共にいれたらいいんだ! ……ただ、それだけが望みなんだ」君に近づき、頬に触れようとする。……君は、拒まなかった。ただ、どこか戸惑ったように。けれどどこか喜びを隠しきれないような表情をしていた。その彼女の姿を、僕は信じることにしよう。

4/3/2025, 9:47:31 AM

「何をしているの?」空を見上げて手を合わせる友人にそう尋ねる。友人はこちらを見て、恥ずかしそうに笑って言った。「いつか、どこかで亡くなった方に、ゆっくりお眠り下さいって思ってたの」ほら、人知れず亡くなってしまった方がさ、誰にも想われないのは悲しいじゃん。友人はまた空を見上げて続けた。「もちろん、誰かに知られて亡くなった方もいらっしゃるだろうけど。でも、遥か昔に亡くなった方は、きっとその誰かも今は存在していないだろうから」だから、どんな人が亡くなったかは知らなくても、手を合わせたいなって。そう告げた友人の瞳は、悲しげなものだった。……そしてどこか、寂しげなものだった。「……なら、私もしようかな」「……うん! 一緒に手を合わせよう」そうして訪れる沈黙の合間。私は手を合わせた。「(……どうか、安らかに。ゆっくりお眠り下さい)」きっと、誰一人欠けては、今の私もいないだろうから。その感謝も込めながら。

4/1/2025, 10:38:14 PM

「はじめまして、おにいさん」目の前に現れた彼女はそう告げる。見たことの無い少女だった。……けれど、どこか懐かしい雰囲気のする少女だった。「……は、初めまして?」戸惑いながら僕はそう返事する。君はどこか懐かしそうに笑っていた。「これからよろしくね」その表情は無くなり、君は眩しい表情で笑う。僕は、ただ圧倒されたように頷く他なかった。

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