愛する、それ故に命を潰していく。誰もが彼に見向きもしないように。誰もが彼をいないものとして扱うように。私が望む彼のために、ただ人の命を壊していく。いずれ罪を課されても。それでも、私が愛している彼のために。今日も私は人の命を無くしていった。
静寂が辺りを包んでいる、なんてなんだかかっこいいが、単純にたった一人で真っ白な世界にいるだけ。いやもちろん大したことなどあるのだが、でもわたしにとっては慣れた世界。当たり前に静寂を許容しながら、ただ日々を過ごしていた。やることなど、限りもない白の中で、想像力を膨らませるだけ。いつからいるかなんてわからない。いつまでいるかもわからない。それでも、わたしにはそれしかないのだと。ただ、静寂の中、頭を物語で満たしていた。
聞こえていますか。少女は問う。辺りは真っ黒で、何も見えなくて。そんな空間にただいることを知った少女は、問いかけ続ける。誰か、いますか。聞こえていますか。私の声が届いているのなら、どうか、応えて。そんな少女の声に反応する者はいない。それでも少女は問い続ける。意味なんてなくても。他の道が最善であることを知っても。少女は問い続ける。ただ、問い続けていた。
「子供の頃の夢って覚えてる?」
「あんまり覚えてないかなぁ。あ、でも女優になりたいとは思ってた!」
「あなたらしいなぁ」
「そういう君は?」
「色々と夢見てたから、その色々は覚えてないけど。でもたった一つだけ、覚えてる」
「私と同じ感じか」
「そ」
「……その夢は、叶えられた?」
「叶えられてないかもなぁ」
「……叶えたかった?」
「ううん。別にいいかなぁって感じ。だって子供の頃と今で環境違うし。あのまま同じ夢見続けていたところで、幸せな未来が待っていたとも思えないから」
「……そんな修羅の夢持ってたの?」
「いや、違うけど。……まあ、そうなってもおかしくなかったんじゃないかなぁって、今は思うだけ」
「……そっかぁ」
「……あなたの今の夢は、もう叶った?」
「今の夢? ……ふふ、もう叶ってる」
「早いねぇ」
「今は身近にある小さな夢を思い描いているからね」
「じゃあその夢はもう終わり?」
「ううん。その夢を持ち続けて、大事に仕舞って、ずっと願い続けるよ。この夢に終わりなんてないからね」
「そっか。……終わりがない夢は、きっと少し大変だけど。でも持ち続けられるのは良い事だね」
「そう、なのかな。……そうかも」
「ふふ。……さて、メロンソーダも無くなってきたし、帰ろっか」
「君は本当にそれが好きだねぇ」
「うん、大好き。そういうあなたはコーヒーが好きだねぇ」
「いやぁ、手っ取り早くカフェイン取り入れられるのこれくらいしか浮かばなくて……」
「苦いのが好きとかじゃないんだ!?」
「うん、カフェイン重視」
「カフェイン苦手とかなら聞いたことあるんだけどな……」
「違って良いでしょう?」
「違うのは良い事だけど、程々にね?」
「もちろん。溺れる真似は致しませんよ」
「ならよし。……それじゃあ、帰ろうか」
「うん。……それじゃ、またね」
「……うん。またね」
雨が止む。傘を畳み、空を見れば、綺麗な色彩が視界に入った。そんな風景に、思わず頬は緩む。雨はとても、憂鬱になってしまうけれど。でもそんな雨が止んだ後の空がこんなに綺麗なら。きっと私は、雨だって好きになれるんだろうな。そんなことを心の端で思いながら、目的地に向かって止めていた足を動かした。