蜜柑

Open App

遠くにいる君へ走って近づく。君は、立ち止まって空を見上げていた。暗い空からは雨が流れる。君は、ただ、濡れていた。よく、見えなかったけれど。薄らと見えた君の頬は、雨以外の雫もかかっているような気がした。「ねえ!」声をかける。雨音に掻き消されてしまいそうに思った僕の声は、きちんと君に届いたみたいだ。君はこちらに視線を向ける。「僕は、君と!」何を言うか、よく考えていた訳ではなかった。それでも浮かぶままに言葉にした。「一緒にいたい! ずっと! 死んでも!」そんな僕の言葉を聞いて。君は、ただ、悲しげに微笑んだ。「……いいのよ、わたしに気を遣わなくて」「遣ってない!!」間髪入れずにそう口にする。君は驚いたように、目を見開いていた。「僕は! 君と共にいれたらいいんだ! ……ただ、それだけが望みなんだ」君に近づき、頬に触れようとする。……君は、拒まなかった。ただ、どこか戸惑ったように。けれどどこか喜びを隠しきれないような表情をしていた。その彼女の姿を、僕は信じることにしよう。

4/3/2025, 11:05:56 AM