薫雨

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11/2/2024, 11:58:52 AM

気づけば0時。
眠りにつく前、湿った髪を乾かすついでにベランダで煙草をくゆらせながら眠らない街を一目見る。
ネオンライトに緋く鳴り響くサイレン、五月蝿いような物悲しいような誰かを救うための音。
眼下の白と赤の車体を見送った。

不健康生活真っ只中の自分が言うのは何となく申し訳ないが。
ご苦労様です、本当に。
大変さは少ししかわからないけど。
だって体験してないもので。

そうしているとさっきまでは不味くもなかった煙草が苦くなってきた。
知らない。
これが何の味かなんて。

ただ、捻れた願望と性癖の指し示す理想論にしたがっている。
でも死にたくはない、ただどうせこんなことで人は死へと走りはしない。

楽観的な思考にいつかの破滅を予感して、煙草を捻じ切り水に浸けてベットに貧相な女の肉体を投げた。

題目【眠りにつく前に】

10/28/2024, 8:30:48 AM

例えるのならチャイのような。
たっぷりの香草の茶葉にシナモンをひとつかみ。
それを鍋にほおりこんでくるくる、くるくるかき混ぜる。

おもいびとのお姉さんの付ける、あまり似合わない香水のかおりにまぎれていつも練り込まれたかおり。
変わらないそれ。
『香水だけじゃないあったかいかおりがするけど、なんのかおり?』
いつだったか、そうやって舌足らずに聞いたらレシピを教えてくれた。
最初に作ってみたときには少し、口には合わなかったけれど。

だんだん癖になるそれは、あの人に染まるようでむず痒いような、甘く痺れるような。
そんな、かおりがした。

なんだかんだ気まずくなって疎遠になって会わなくなって。
だけれど憧れは変わらずに、あの癖になるかおりが鼻に入ればつい探してしまう。
忘れられない、香り。

私は貴方に染まりゆく。

【題目】紅茶の香り

10/24/2024, 2:20:47 PM

心揺れる、揺らぐ
行ってしまうのならば待っていよう、そう決めたはずなのに

騒ぐ心は止まらぬまま
行かないでと呟いた

10/6/2024, 1:54:16 PM

電車に乗って。
吹き抜ける風をただ心待ちにして、いつかを思う。

文化祭、体育祭、なんてことない日常。
今の3日分が1日分で、エネルギッシュで青さに満ち溢れていたいつかを。

定期テストの辛さも今なら思い出だ。
結局大人になれば離れられると思っていた勉強は、今でもずっとつきまとう。

私は勉強が本当に嫌いだったし暗記も苦手だったから、今の大手ではないけどそこそこの会社でもあまり良い成績を残しているわけではない。

でも、取り忘れていた有給をとることを勧められるくらいには一応真面目に働いていたつもりだ。

5日ほど纏めてとらされた有給を消化するため、今どこにいくかも決めずに当てのない放浪をしようと揺れる座席に座っているのだから。

景色がどんどんとすぎていく。
ああ、今視界から消えて見えなくなったあの山ももう『過去』。
ほんの少し前までは『現在』だったのに。

さぁ。
行き先はどこにしようか。
金なら一応あるものだから、県を越えたって良い。

時間も余ってるようなものだ。
せっかくだし、過去……つまりは過ぎた日々を懐かしんだついでに青春の友のところへと行ってみようか。


驚く顔が目に浮かび、思わず最近不機嫌に固まっていた口角が上を向いた。
それがいつぶりだろう……と考えていた自分に驚き、あんまりにもあんまりな状況に陥っていたことに苦笑を漏らす。

そういえば、ここ1ヶ月は推しの配信さえもスルーしていた。
いつもなら彼女の明るい声を愛で、ゆるゆるとした元気を貰っていた筈なのに。
悪循環、自省しかない。

思わず天を仰いだ視界の隅。
つり革が並んだ電車の天井から、はみ出している鮮烈なまでの青と白。

嗚呼、今日はきっと旅行日和だ。
過ぎた過去がもたらしてくれた贈り物。

せいぜい楽しむとでもしよう、とため息をひとつついてそのまま目線をずらして空に魅いられることにした。

10/1/2024, 12:01:27 AM

【きっと明日も】

クッションをかき抱いて顔を埋める。
昨日恋人がくれたそれには、まだ残り香と吐息が十全にしみこんでいた。

『私、君の何かがないと眠れなくなってしまった』

君依存な僕はどうして生まれてしまったのか。
多分よくある話。

僕はよくある恵まれた家庭に育ち、よくある良い感じの給料だけはましな会社に就職し。
給料以外ブラックもいいとこだったけど、ほんとに金払いだけはよかったからやめる人は少なかった。


結局僕は馴染めなくて退職したけど。

ああ、原因はある。
僕は表面上は『私』と取り繕っても、独白では『僕』を多用する。
だから、まぁ、うっかり漏れてしまうこともあったから。
娯楽に飢えた若い……いや若くないのもいたけど、女の子には格好の悪口の矛先だ。

痛い女、そうレッテルを貼られること。
初めはそう堪えなかったが、上京した身寄りもない一人暮らし。

職場で必要最低限の言葉しかかけられない。
遠巻きにされひそひそ、ひそひそ聞こえるようにあることないこと噂される。

それは案外心に来るものだった。

それで、耐えかねて退職した。
退職金もこの勤続年数にしてはそれなりに出たのは救いだった。

『これからどうしよう』

小さなため息、拾われることはない。
誰もいない裏路地には、声が届く人なんて誰もいなかった。

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