大狗 福徠

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6/21/2025, 10:53:41 AM

君の背中を追って
いつの日からか君が目につくようになった。
成績優秀。
容姿端麗。
品行方正。
良い子の集合知のような貴方。
気に食わなかった。
一番ははいつだってあたしだったのに。
だからねじ伏せようとして、血が滲むような努力をした。
食事を、睡眠を切り詰められるだけ切り詰めて。
あくる日も、あくる日も。
頑張って、頑張って、頑張って、頑張って。
倒れるくらい限界になって、ようやく気づいた。
君は手が届かないところにいる。
ずっとずっと、てっぺんの近く。
そのお膝元に君はいる。
手が届くはずがない。
持ち合わせた"モノ"が、
"才能"が、違いすぎる。
あたしは普通の子になった。
一番じゃ無ければ、誰だってあたしを見はしない。
あなたは凄い子ねと言った先生も、
これなら将来は心配ないなと行った担任も、
あなたなら何だってできるだろうと言った顧問も、
教えなくたって大丈夫だなと言った塾の先生も、
もうあたしなんて見向きもしない。
あたしは頑張ることを辞めた。
君は無敵だった。
君の背中を追っていた日々。
君の背中を追う意味がなくなった日々。
一番であることへの執着との乖離。
かわりの、君への執着。
君の背中を目で追い続ける。
お膝元から滑り落ちるか、てっぺんにたどり着くか。
その日になるまで、君を見続ける。
その日が来るまで、決して君から目を背けない。

6/19/2025, 12:49:22 PM

雨の香り、涙の跡
ざあざあ降りの雨がある。
しとどとなく降っている。
降る雨は、
空を濡らし、
街灯を濡らし、
葉を濡らしている。
雨は光を吸い込んで、暗い暗い空を守り合っている。
なんの変哲もないベランダ。
観葉植物も仕切りもなく、可愛げなんてのもなかった。
降りしきる雨に濡れながら珈琲を啜る。
カフェインなんてどうでもよかった。
真夜中が明けるまで、眠りたくはなかった。
薄く香る苦味。
煙とともに立ち昇って遠くへ行く。
誰かに嗅がれる頃には少しも苦くはないのだろう。
涙の跡はまだ枯れない。
ずぶ濡れになって隠すのが精一杯だった。
脆いから、
穴だらけだから、
色んなとこから嫌なものがたくさん染み入って、
自分に染み入って溶け込んでくるから。
それを流し出さなきゃいけなくて。
まだまだ青い自分が許せなくて。
芯までぐじゅぐじゅになったから。
涙の跡が乾くまで、それまでここを動けない。
涙の跡が乾いたのなら、その時にはもう晴れているだろう。
雨の香り、涙の跡。
共に乾いて遠くへ行って、誰かに届いた時には
ちっともなんともなくなってるはずだろう。

6/17/2025, 1:17:02 PM

届かないのに
ド深夜にお前から送られてくるクソLINE。
髪乾かすのにリアル1時間かかるのゴミすぎるだとか
ヘアオイル出し時の音ガチでアァーンでワロタンバリンシャンシャンとか
知ったこっちゃねぇことばっかり話しやがる。
映像撮っとけよ気になるだろバカ。
だがそんなインフィニティエンドレスバカタレフェスティバルな
お前にも、今までの人生丸ごとぶっ壊されるような悲劇は起きる。
人生は言わずとしれたクソゲーだってことはよく知ってた。
でも、何もクソゲー代表がお前じゃなくたっていいじゃないか。
嫁さんと娘っ子が交通事故で亡くなるなんて。
カスツイッタラーみたいなことしか言わなかったお前が
初めて恋をして。
ドキドキしながら友達になって。
全力でアプローチして付き合って結婚して。
子供が生まれて育って幸せの絶頂だっただろ。
あんなに幸せそうに愛おしそうに話すとこ初めて見たんだよ。
あんなにうんうん悩んで、わかんねぇこと調べまくって、
少しでも嫁さんと娘のためになるように頑張ってただろうよ。
なぁ、マジでさ。
見たかなかったよ泣くのもできない絶望に陥ったあいつの顔なんざ。
なんであいつなんだよ。
あいつが何したってんだよ。
なんで今なんだよ。
もうちょっとで帰れるって時に。
嫁さんとの結婚記念日って浮かれてた時に。
惨いとは思わねぇのかよ。
もう届けらんねぇプレゼントのネックレス握りしめてさ。
あんな顔で、あんな気持ちで、
あいつどうやってこれから生きてくんだよ。
「届けらんなかったなぁ」って笑ってるくせに
状況は1ミリも笑えねぇんだよ。
なあ、俺はどうすればいい?
どうしたらお前まで失わないで済む?
お前はいいやつだから絶対に後を追うよ。
そのほうが幸せだって俺もわかってんだよ。
でもそうしたら、そしたら、
全員が幸せだったとき知ってる奴が居なくなんだよ。
幸せだった証明が出来なくなんだよ。
可哀想な家族で終わっちまうんだよ、お前みたいないいやつが。
そんなん許されるわけがないだろ。
俺ごときの声なんざどれだけ叫んだって届きやしないだろうが、
それでも一縷の望みがあるなら、まだ届くかもしれないなら。
いくらでも叫んで、カスみてぇなLINE送って。
何度でも何でも付き合ってやるから。
お前の生きる理由にもう一度ならせてくれ。
もう二度と、届かないのになんて後悔させないから。

6/17/2025, 6:34:14 AM

記憶の地図
何もかも忘れようとしたのに。
全部全部捨てていこうとして旅に出たと言うのに。
貴方ばかりが脳をちらつく。
私が何をしたというのか。
口にも出せぬ悲愛だからこそ身を引き行方を晦ましたのに。
貴方に見せたいものばかりで、ちっとも足が進まない。
鈍重な獣になったようだ。
全く愚かで嘲ける様だ。
一本杭の上に立たされ、石を投げられるより余程いいだろうに。
それでも、この想いを貴方に伝えたかったと
置いてきた心が遠くからつんざく金切り声で私を呼ぶのだ。
記憶が私を引き寄せるのだ。
当然重い重い足を動かせるわけもなく、私は振り出しへ帰る。
想いの地図。
貴方への恋慕。
逢瀬。
貴方だけを着飾る芸術となりたかった。
貴方だけの道を指し示す街灯となりたかった。
貴方だけの事を守る傘となりたかった。
貴方だけの。
貴方だけの。
貴方だけの。
でなければ想いの地図が許さない。
捨て置いた心が許さない。
記憶が許さない。
記憶の地図が許さないのだ。
ああ、もう!
重い足を引き摺る。
硬い口を割る。
貴方の下へひた走る。
いつかの私を見殺しに出来ない。
私は弱い。
だからこそ抗ってみせる。
貴方の手を引いて、見たい全部を見せてやる。
記憶の地図にはもう書き込めない。
貴方にしか続きが書けないんだ!!

6/15/2025, 11:04:19 AM

マグカップ
泥水の様な珈琲を啜る。
カフェインで目は冴えるけれど頭は鈍いままだった。
貴方だけがいればよかったのに。
貴方の死にたい理由になりたかった。
貴方の死ねない理由になりたかった。
貴方のいる未来が良かった。
貴方が幸せでいられる場所で居たかった。
貴方が笑顔じゃなくても、どんな顔でも愛せた。
どんな貴方でも私なら覚えていられた。
私なら、
もう届きっこない手を月に透かす。
当たり前のように空をかく。
ただただむなしいばかりで意味なんてなかった。
珈琲はもう冷めきっているけれど、
眠ることなんてできなくてまた胃の中に流し込んだ。
おそろいのマグカップ。
貴方がくれたマグカップ。
貴方がいなきゃ、おそろいの意味なんかないのに。
私だから駄目だったの?
私だから引き留めさせてくれなかったの?
他の誰かなら、貴方を救えた?
隣のクラスの生徒会長さんなら、
一個上のお姉さんなら、
貴方を慕っていた後輩くんなら、
あの人達なら、貴方は救われてくれた?
なんて、今更意味はないけど。
中身のなくなったマグカップの縁を撫でる。
おそろいじゃなくなった、ひとりぼっちのさみしいマグカップ。
私と一緒だね、なんて。
ひとりぼっちにさせたのは私なのに。
貴方はもういない。
声も手も届かない。
なのにまだ執着している。
酷い愛執。
愛と呼ぶには余りに醜く恋と呼ぶには余りにも愚か。
ひとりぼっちのマグカップを叩き割った。

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