大狗 福徠

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雨の香り、涙の跡
ざあざあ降りの雨がある。
しとどとなく降っている。
降る雨は、
空を濡らし、
街灯を濡らし、
葉を濡らしている。
雨は光を吸い込んで、暗い暗い空を守り合っている。
なんの変哲もないベランダ。
観葉植物も仕切りもなく、可愛げなんてのもなかった。
降りしきる雨に濡れながら珈琲を啜る。
カフェインなんてどうでもよかった。
真夜中が明けるまで、眠りたくはなかった。
薄く香る苦味。
煙とともに立ち昇って遠くへ行く。
誰かに嗅がれる頃には少しも苦くはないのだろう。
涙の跡はまだ枯れない。
ずぶ濡れになって隠すのが精一杯だった。
脆いから、
穴だらけだから、
色んなとこから嫌なものがたくさん染み入って、
自分に染み入って溶け込んでくるから。
それを流し出さなきゃいけなくて。
まだまだ青い自分が許せなくて。
芯までぐじゅぐじゅになったから。
涙の跡が乾くまで、それまでここを動けない。
涙の跡が乾いたのなら、その時にはもう晴れているだろう。
雨の香り、涙の跡。
共に乾いて遠くへ行って、誰かに届いた時には
ちっともなんともなくなってるはずだろう。

6/19/2025, 12:49:22 PM