大狗 福徠

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1/6/2026, 5:39:09 PM

君と一緒に
いつだって地獄への道は丁寧に舗装されている。
樹海がバリアフリーになっていくように、
いつだって世界は死ぬまでを付き添ってくる。
生きていることなんてずっとずっと眼中にない。
一緒に死にに行く君は何を考えているんだろう。
舗装された道路の上で、義務を果たすガードレールに沿って歩く君。
私が腹を括った昨日に、せめて伝えたいと思えたほどの人。
君は私の死に飛び込みで参加してきた。
何も言わず、慰めるでも、責めるでもなく。
つつがなくもう二度とない帰路に別れを告げて、いざあの世へ。
しかし直前で君はとんでもない勢いで私の手を引き始めた。
無理やり車に押し込めて、もう会わないはずだった帰路を
爆速で駆け抜けていく。
押し込まれたのは後ろの席だったから君の顔は見えない。
でも時折肩を震わせ嗚咽を漏らすから泣いているのは分かった。
私はしばらく呆然として、事態の異常さに気づいた。
なんで急に私なんかを攫い始めたんだ。
このもう死んだような死にぞこないを。
ぐるぐる車と同じぐらいのスピードで回る頭は
速すぎてろくなことを考えない。
そのうち君の家に着いてしまった。
何度も何度も遠回りをしてついにようやく。
君はなかなか鍵を空けなかった。
ハンドルに突っ伏して、変わらず嗚咽と肩を揺らしていた。
声をかけることはできなかった。かわりに君が口を開いた。
生きて。生きて一緒に。生きて。
ぽつぽつと、けれど変わらずずっと生きてとつぶやく。
貴方は、死ぬ私を見に来たのではなかったのか。
面食らってまた呆然とする。
貴方はとうとう堰を切って大声で泣き始めた。
生きて、いきて。いきてよぉ。しんだりなんてしないで。
わぁわぁ幼く泣きながらその口から溢れる言葉は切ない。
どうしたらいいかわからなくて、
でもここまで来たら答えはひとつだった。
そんなわけで私は今君の朝ごはんを作っている。
君が寝ぼけ眼でパウンドケーキなどと言いやがったので
今日もデザートは泣いて喚いてもパウンドケーキだ。
起きてきたらそのほうけた口に一切れ突っ込んでやろう、あの日の死人に希望を食らわせたように。

1/5/2026, 3:44:36 PM

冬晴れ
寒がった空は完全に雲を着込んで出てこない。
今日は貴方の死んだ日なのに、
決して貴方の愛した青空にはなってくれない。
いつもいつでも曇った空。
無愛想で、貴方の笑顔も再起できない。
貴方からの帰路を歩く。
空と同じ不細工なアスファルト。
貴方と歩いた温もりなんて留めちゃくれない。
貴方と、同じところにいけたらいいのに。
仕事で外国へ行かなくては行けなくなったから、
もうしばらく会いにはいけない。
直前になってようやく会いに来れたけど、全然足りない。
端から見ても沈痛な顔で飛行機へ乗り込む。
もしかしたら貴方のいる場所が見えるかもしれないから、
窓際にした。
エンジンがかかって、機体が空へ乗り出す。
高く高く乗り上がった先、急に視界へ陽が差し込む。
慌てて見た外には満面の青空。
ああ、ああ、そうだったね。
貴方は天国にいるのだから。
天国は遥か空の上なのだから。
貴方が見るのはいつだって青空なんだ。
貴方はいつだって、晴れ晴れていたんだね。

1/4/2026, 10:23:20 AM

幸せとは
そんなもの知らない。
知ったことがない、今更いらない。
なんだか、なんだかほんとに思ってはいけないんだけれど、
産まないでほしかった。
俺が今されている思っていることは本当は本当なら
普通なら思っても背負うことにはならなくて、
一過性で流れ落ちていくようなものなのに
後生大事に抱えているをさせられていて酷くて。
でもそれを言ったらもう戻れないから
自分も人じゃなくなるから
言えなくてでもどうしようもなく
俺は産まれたくなかった
産まれたくなかったよ、産まれたくなんかなかったの

1/3/2026, 5:21:21 PM

日の出
机に突っ伏した状態で目が覚める。
どうやら疲れて眠ってしまっていたみたいだ。
まだ薄呆けた目を擦って窓を見る。
ちょうど日の出の時間であったようで、
外は美しい朝焼けに染まっていた。
あの日、大雨ですべてを奪っていったとは思えない優しい空。
結局あの図書館は再建しなかったし、お兄さんには会えなかった。
がむしゃらに勉強して司書の仕事には就いたけれど、
同じところに来ても僕にはお兄さんは分からなかった。
僕は未だに下巻を探せていない。いや、探していない。
図書館がなくなっても、もうお兄さんに会えなくても、
あの約束はなかったことにはならないから。
ばらけて少しシワのついてしまった書類をまとめる。
続きはもう少し休んでからにしよう・・・
と思った時に、司書室の扉がノックされる。
受付に誰もいなかったんだろう。
こんな早い時間に勤勉な人もいるものだ、と返事をして表に出る。
その人が持っていたのは、あの日の本の上巻。
懐かしい。
頭によぎったそれは声に出てしまっていたようで、
お客さんが微笑ましそうにこちらを見る。
すみません、いきなりと謝ると
いいえ、いいんですと優しく返された。
その声になんだか聞き覚えがある気がした。
いや、まさか。
でも、きっと。
こちらが二の句を継ぐ前に、あちらから声がかかってきた。
もしよろしければ、この本の下巻を一緒に探していただけませんか。
あの日の約束を、まだ覚えていらっしゃるのなら。
何か自分にのしかかっていた重苦しいものが弾けた気がした。
ええ、もちろん。是非!!と大きな声を上げて受付を出る。
子供の僕が笑っている気がした。

過去のお題 遠い約束の続きでして
よろしければ作品群を遡ってそちらを見ていただけると
納得感が増えると思います。

1/2/2026, 4:57:01 PM

今年の抱負
なんてことないテレビの画面。
色んな人が思い思いに口に出す。
彼氏欲し〜い
単位おとなきゃいっかな
テスト満点!!
だなんて。
みんな願うくせに、どうやってそうするかは考えない。
目標があるならそこまでの順序立てが必要なんだって。
リポーターが先輩風吹かして適当言うのも聞き流して、
僕は自分のことを考えてみた。
惰性で聞いても流れていく情報。
ぼんやりしてても進む時間。
これらに対する無力感に大変打ちのめされた年であったと思う。
抱負、抱負なぁ。
そもそも仰々しすぎるよね、抱負って。
抱えて背負うとかいっぱいいっぱいじゃん。
両手も開かないようじゃあいけなかろう。
決めた、今年はちょっと自分に甘くなってみよう。
まずはそうだな、理由がないことを責めないことからだ。

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