記憶の地図
何もかも忘れようとしたのに。
全部全部捨てていこうとして旅に出たと言うのに。
貴方ばかりが脳をちらつく。
私が何をしたというのか。
口にも出せぬ悲愛だからこそ身を引き行方を晦ましたのに。
貴方に見せたいものばかりで、ちっとも足が進まない。
鈍重な獣になったようだ。
全く愚かで嘲ける様だ。
一本杭の上に立たされ、石を投げられるより余程いいだろうに。
それでも、この想いを貴方に伝えたかったと
置いてきた心が遠くからつんざく金切り声で私を呼ぶのだ。
記憶が私を引き寄せるのだ。
当然重い重い足を動かせるわけもなく、私は振り出しへ帰る。
想いの地図。
貴方への恋慕。
逢瀬。
貴方だけを着飾る芸術となりたかった。
貴方だけの道を指し示す街灯となりたかった。
貴方だけの事を守る傘となりたかった。
貴方だけの。
貴方だけの。
貴方だけの。
でなければ想いの地図が許さない。
捨て置いた心が許さない。
記憶が許さない。
記憶の地図が許さないのだ。
ああ、もう!
重い足を引き摺る。
硬い口を割る。
貴方の下へひた走る。
いつかの私を見殺しに出来ない。
私は弱い。
だからこそ抗ってみせる。
貴方の手を引いて、見たい全部を見せてやる。
記憶の地図にはもう書き込めない。
貴方にしか続きが書けないんだ!!
6/17/2025, 6:34:14 AM