大狗 福徠

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4/18/2025, 12:44:29 AM

静かな情熱
もう辞めてしまおうと思った。
こんなに続けてたって生きてけないって、もう意味ないって。
それでも辞めらんなくて、こき下ろされても諦められなくて。
でも、それでもようやく踏ん切りついて全部全部、
今までの分を纏めて潰してぐちゃぐちゃにして。
やっとの思いでも捨て切らん無くて、
残ったもんは忘れたふりした。
それでも。
そんなになっても。
心の奥底で燃えている。
焔が煌々と、赤より熱く、青々しく蒼炎となっている。
もう道具もない。
さきを示す光もない。
だから、そうなったから。
今尚煌々と焚き付けられている。
この逆境を薪に、静かな情熱が火の粉を吹いた。

4/15/2025, 5:25:06 AM

未来図
明日は早く起きようね。
明日は絶対ご飯を食べきってね、
明日こそは電車に間に合わせてよ
明日は、明日は絶対、明日こそは、明日だけは。
どうにも間に合わないことばかりで、
とうとう親に定められた未来図というものは破綻した。
逃げ出した俺はとうとう行き倒れて、道路に横たわった。
決めつけられてきた人生で、一人で生きる術など知る由はなかった。
霞む視界にぼやける景色。
なんとなく死ぬんだなって思った。
皆に囲まれて死になさい。
決められた人生の最後の図。
蔑まれて囲まれて、ふざけて撮られる写真達。
それだけ守れたことに安堵した。

4/13/2025, 10:12:26 AM

ひとひら
神秘・崇高美
ガーベラの花びらが落ちていく。
茎を切られ、傷を冷水に晒されたあれらは何を思うのだろうか。
ガーベラは群れでは咲かない。
一つ一つ、花の一欠片ずつが崇高に、気高く咲き誇る花だ。
硝子の瓶に差し替えられたガーベラ。
葉は切り落とされ、花だけが顕となっている。
その美しさを女の裸体のようだと言ったものが居る。
サモトラケのニケの様な、損なわれたゆえの美しさであると。
尊く生まれ、花を迎えては胴を切り落とされ民衆に晒される。
その上で、しかし美しさは損なわれていない。
尊厳も命も刈り取られ、ひとひらの儚い姿がある。
まるで朝露のようだ。
醜く雁字搦めにされて尚、貴方は神秘性を保っている。
内に秘められたそれを凪いだまま、
ただ花のひとひらになるまで、
そうなっても貴方はまさしく神秘であった。
塗り替えられることのない崇高美。
ガーベラは、花びらが落ちきった。

4/13/2025, 9:34:47 AM

風景
曇天の空が広がっている。
今のも泣き出しそうな貴方と空が目の前を占領している。
このクソ寒い冬だと言うのに貴方は半袖で、
しかもシャツ以外は下着だったから驚いた。
涙を堪えて声を出せない貴方を取り敢えず家に上げる。
暖房をちょっと強めて、意味不明な場所にしかないケガの手当てをして風呂に突っ込んだ。
着替えを適当にほん投げて、
すぐにドライヤーをしてやって飯を食わせた。
何があったのかは別に聞かなかった。
なんとはなしに何があったかを察していた。
ご飯を食べ終わった後、貴方は堰を切ったように泣き出した。
嗚咽ばかりで、何を言っていたかは覚えてない。
できる限りの全力で、できる限り優しく抱きしめた。
そんなんがあったのが確かえ3,4年くらい前だったはずだ。
憔悴した貴方は何処へやら、今は私より稼いで家に金を入れてくれている。
そんなに元気になったならもう一人でもいいんじゃないか
とも思うし言うがそれはまだ別問題らしい。
まだってなんだまだって。
まぁ幸せそうならいいか、とあの日と同じ曇天の空に目を向けた。

4/9/2025, 11:45:22 PM

元気かな
ドアノブに手を当てる。
捻る勇気だけはまだない。
ドアの外にはみんなが居る。
顔を見ることだけが出来ない。
こちらに届く声はみなキラキラと宝石のようで、
どんなことをしているのだろうと思いを馳せた。
毎日同じ言葉が聞こえてくる。
その中で一等多い声。
その声をかけられたならどれほど良いだろう。
きっと有頂天になって、すぐさまドアに飛びつくだろう。
開けることだけは叶わないだろうけど、それでも夢を見た。
声を掛けてくれる夢を。
同じ日々を過ごしながら変化を求めている。
まるで狂気の沙汰だった。

ドアが不意に開かれた。
動くことも出来なかった。
ドアの先を見つめるばかり。
体は竦んで動かない。
喉は怯んで音を出さない。
目は見開いて前を見る。
きっとおんなじくらいの歳の子だった。
慌てて帰っていったけれど、次の日も、そのまた次の日も来た。
日を重ねるにつれて弾むようになった声。
ドアの前で精一杯身振り手振りしているのであろう風を切る音。
こっちに来る足音はだんだん遠慮をしなくなってくれた。
不用心にも、あの子が着るのを楽しみにしている。
いつの間にやら、欲しかった声を自分が吐いている。
あぁ、元気かなぁ。

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